4話 子爵令嬢
どうやら、シェスタール伯爵がシュタイン公爵様にちょうど挨拶を始めたところらしい。
「お初にお目にかかります。シェスタール伯爵家当主のウィリアムで御座います。妻のローズは体調を崩しており本日はパーティへ参席出来ない事を心よりお詫び申し上げます。こちらは、娘のマルエラで御座います」
「お初にお目にかかります。シェスタール家のマルエラで御座います。本日は、お招きいただきました事心より感謝申し上げます」
以前の適当でない挨拶と違い上品な挨拶の仕方だった。
あれから、余程練習したのだろう。
前から憧れていたスザクに会えるのだから。
それとも、私たちのことを軽んじて良いとでも思っていたのかしら?
もし、そうであるならば性格が腐っているという言葉では足りないくらいだ。
「遠方よりはるばるありがとう。シェスタール伯爵。夫人は体調が悪いのか。ならば、仕方がない。シェスタール嬢は確か息子と同じ歳だったかな? この子は息子のスザクだ」
「遠方よりお越しくださりありがとうございます。伯爵、伯爵令嬢。シュタイン家のスザクです。お見知り置きを」
スザクは、誰もが見惚れるような優雅な仕草で挨拶をしていた。
マルエラもスザクをまじまじと見ていたが直ぐに挨拶をしていた。
シェスタール家への挨拶は終わりスザク達は、次の挨拶へと行ってしまった。
マルエラの視線はまだスザクを追っていた為、遮るように話しかけた。
「マルエラ嬢、お久しぶりです」
「あ……あら、フィオーレ嬢お久しぶりです。先日は大変お世話になりましたわ」
突然話しかけられて驚いたようだが直ぐに作り笑いを浮かべていた。
彼女のこのような所は、尊敬出来るわね……。
誰にでも、良い顔を出来るようになれば私だって楽になれるのだろうが……。
「シュタイン公子様を見ていらっしゃいましたの? 彼は仕草がとても優雅ですものね。皆の憧れの的と噂されていますよね」
「え? あ……そうですわね〜やはり公爵家の御子息ですもの。行動全てが優美ですね」
彼女は、スザクを見ていたことははぐらかしてきた。
まぁ、それもその筈ね。
アルセナーリナ家とシェスタール家は同じ伯爵家であっても権力の違いがある。
我が家紋とも相当な差がある彼女の家門でシュタイン公爵家の子息を好きになるなんてとんでもない事である。
マルエラとの会話で得る事などない為、切り上げて他の令嬢達に話しかけてみた方が有意義だろうと思う。
「では、私は用事がありますのでここで失礼しますわ」
「あ……はい」
案外すんなりと会話を打ち切れた。
誰にどう話し掛ければ良いか考えていた所、突然後ろから話しかけられた。
「あの!! アルセナーリナ嬢ですよね?」
突然のことで驚いたが彼女は、回帰前誰とでも仲良く出来、噂を広めるのが上手い人間であった。
確か名前は、エレイシア・アスター。
マルエラの言った事を信じ私のおかしな噂を広めた人物であった。
過去の私はここで会話を碌にせず悪い印象を与えたのがいけなかったと反省していた。
私が悪かった所もある為、そこまで恨んでは居ないがマルエラを始末した後復讐を遂げたい人間の一人ではあった。
だが、ここで無愛想な態度をとったら過去の二の舞である。
その為、復讐心を押し殺し仲良くなるのも一つの手であるわね。
「はい、そうですが……」
「私は、アスター子爵家のエレイシアです。以前から、アルセナーリナ嬢とお話してみたいなと思っていたんです! お時間宜しいでしょうか?」
「ご挨拶ありがとうございます。アルセナーリナ家のフィオーレです。そうなのですか? 嬉しいですわ。はい、結構ですよ」
「会う度に思っていたのですが、アルセナーリナ嬢のドレスはどちらで購入なさっているのですか?」
「ウェストにあるスチュアートというお店ですわ。ご存知ですか?」
「まぁ! あのスチュアートで購入なさっているのですね。道理で華やかな訳ですね。それにしても素敵ですわね〜」
スチュアートは、値段が目を見張る程高い為アスター家ではあまり購入出来ないのだろう。
「ありがとうございます。お褒めに預かり光栄ですわ」
「スチュアートといったらシュタイン公爵家も御用達ですものね。憧れます。今日の公爵夫人や公子様もそこのお洋服ですよね―女性物だけでなく男性物もデザインが良いだなんて凄いと思いますわ」
「本当ですよね。私もデザインが素敵だと思いますわ」
彼女に、シュタイン公爵家御用達と聞き……今気付いたがスザクもスチュアートの服だった。
大好きな人とお揃いのお店の洋服というのはとても嬉しい気がする。
スザクの方を見るとまた目が合ってしまった。
良く目が合う為、彼はきっとちらちらと私の事を見ているのでしょうね……。
私の視線に気付いたようで、エレイシアはスザクの話題を振ってきた。
「先程から公子様、アルセナーリナ嬢を見ていらっしゃいますよ? ところで、今日はあまり公子様とお話されないのですね」
「今日は、公爵夫人の誕生祭ですのでその御子息のスザク公子も忙しいと思い話し掛けるのは控えているんですよ。あの様子を見る限り逆効果だった様ですが……」
「アルセナーリナ嬢はそのような気遣いも出来るのですね。本当に素晴らしいと思いますわ。先程、以前からアルセナーリナ嬢と話してみたかったと申し上げましたよね。実を言うと、あまりにもアルセナーリナ嬢と公子様が仲睦まじそうでしたのでいつも話しかけずらかったのです。公子様とのお時間を邪魔するのも忍びないので遠くから眺めて居たんですよ」
「そうだったのですか。気付かなくて申し訳ありませんわ。次からはスザク公子とお話している時でもお声をかけていただけると嬉しいですわ」
「宜しいのですか? では、お言葉に甘えたいと思います!」
そのような雑談をししばらく経ってから、エレイシアとは別れた。