3話 パーティー
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〜パーティー当日〜
久しぶりにスザクの姿を見れると思えば心が自然と高鳴る。
スザクとは、話さないが彼の視界には入るだろうから着飾りたいところね。
リリスに頼み目一杯着飾り、馬車の方向へと向かう。
既にお父様とお母様が着いていた。
そして、馬車へ乗り会話を切り出した。
「シュタイン公爵家でのパーティーなんて珍しいですね。年に3度しか開かれないじゃないですか?」
「そうね。シュタイン公爵家は、誕生日や特別な理由がない限り開かないものね。今日はシュタイン公爵夫人の誕生日パーティーなのよ。フィオーレ良かったじゃない。昔から正装姿のスザク公子が好きって言ってたでしょう? 今日は、パーティーだから正装をしているスザク公子に会えるわよ」
「からかわないでください! 私は、どんな格好のスザクでも大好きです。ただ、正装をしていると一段と魅力的に感じるという話なだけですから……」
「あらまぁ……」
私の熱烈なスザクへの愛を聴き、母も驚きを隠せないようだ。
そう言うと、お父様が会話に入ってきた。
「シュタイン公子もフィオーレに気があるように見えるんだが公爵夫人にそれとなく聞いてみてあげたらどうだ?」
「け……結構です!! それで、スザクが私のことをただの幼馴染としか思っていなかったら恥ずかしいではありませんか」
スザクは回帰前、出会った頃から私を好きだと言ってくれていた為、現時点で両思いなのは確定している。
でも、それをわざわざ互いの親を通して聞きたいだなんて思わない。
まず、スザクが公爵夫人に自分の気持ちを話しているのかすらも分からないのだから。
聞いても無意味でしょうね……。
そうこうしている内に、公爵邸へと馬車が到着していた。
久しぶりの公爵邸でのパーティーだからか人が大勢いた。
庭には到着したばかりの馬車が多く停まっており、公爵夫人ともなればこんなに多くの貴族たちが来るという事を痛感する。
マルエラはまだ到着していないようね。
私は、過去あまりパーティーに出るという事をしていなかった為友人と呼べる人間が多くはなかった。
だが、今世では味方を作る重要性を知っているため社交活動を活発にしようと思うのだ。
公爵家のパーティーであれば、権力者の令嬢たちも多く来るだろう。
そこに上手く溶け込めば私だって交友関係を作れると思う。
あんな悪女であるマルエラが出来た事だ。
私も努力はしなければならない。
パーティ会場の中に入るとスザクや公爵様、公爵夫人が挨拶に回っていた。
スザクと目は合ったが直ぐに逸らされてしまった。
あんな、一方的な手紙だった為スザクも気まずいのでしょう。
問いただしたい筈なのに私の言った事を守ってくれようとするスザクはやはりとても優しいと思う。
挨拶には来るだろうけど皆にしている事なのだからマルエラも怪しまないだろう。
そして、その挨拶の順番は回ってきた。
「お招きいただきました事光栄でございます。公爵様」
「いや、こちらこそ応じてくれてありがとう。久しぶりだな。アルセナーリナ伯爵。フィオーレ嬢も少し見ないうちに大きくなったな―」
「お招きいただき感謝申し上げます。お褒めに預かり光栄でございますわ」
そう受け流しているとスザクが話しかけて来た。
「来てくれてありがとう。フィオーレ……今夜は楽しんで行ってね……」
「ありがとうございます。スザク公子様。本日は、お言葉に甘えて楽しませていただきますわ。公爵夫人、御誕生日との事でお祝い申し上げますわ」
敬称で呼ぶとスザクはますます訳が分からないという顔をした。
過去で学んだがいくら幼馴染という関係でも、公爵様は礼儀を重んじるタイプだ。
私の態度を観察してスザクに似合う女を天秤に掛けた結果彼はマルエラの方が相応しいと思っていたのだと思う。
公爵夫人は、私を推してくれていたが公爵はマルエラを推していたのだ。
スザクの様子を見た公爵夫人は、少し間を置いてから返事をしてくれた。
「フィオーレ嬢、ありがとうございます。この歳になってまでも誰かにお祝いしていただけるということは嬉しい限りですよ。ところで、貴女はスザクと幼馴染なのだからそんなに畏まらなくても良いのよ」
「公爵夫人、お言葉は嬉しいのですがここはパーティなのです。やはり、礼儀を守らなければならないと思いますわ」
「それはそうなのですけれど……貴女はまだ成人にみたっていないでしょう。そこまで考えなくても良いのよ?」
「まぁ、フィオーレも大人になったってことよ。カーリー」
「それは喜ばしい事なんだけどスザクが……」
やはり、スザクの事が心配なのだろう。
先程から彼が沈んだ表情をしているから……。
ふと思うが、公爵は母と公爵夫人の関係も気に入らないのかもしれないわね。
母と公爵夫人も昔から仲は良いが、階級的には公爵夫人が上だ。
もしかしたら、母親譲りの生意気な小娘だと私の事を思っているのかもしれない。
「話は、そこまでにして次の挨拶に回ろう。カーリー、スザク」
「そうですね。では、また後で来るわね」
「ええ。また!」
公爵様と公爵夫人の後をスザクは、トボトボと着いて行った。
その姿を見るだけでも罪悪感が募る。
分かっていた事ではあるが、やはり直接落ち込んでいる姿をみると申し訳ないと思う。
心の中で、彼に謝り後ろ姿を見送ることにした。
特に、仲の良い人がいる訳でもない為周りを眺めていたらふと思った。
パーティーなんて、何年ぶりだったかしら?
20代に入った私は、パーティーにあまり参加しなかったのだ。
周りの空気は、華々しく少し緊張してしまった。
「パーティーは久しぶりだから緊張してしまうわ」
「あら、そんなに久しぶりだったかしら? 気晴らしにダンスでも踊ってきたらどう?」
そう言われてはたと気付く。
そうだ、忘れていたがパーティーといえばダンスよね。
交友関係を築く事だけを考えていたがダンスも重要だ。
スザクに話しかけるなと言った手前、彼を誘うのは無理だろう。
私には、他に知っている男性も居ないし居心地が悪い。
そう考えている所でスザク達はシェスタール伯爵達に挨拶しに行っていた。
お行儀は悪いが、飲み物を取りに行くふりをし盗み聞きをする事にした。