21話 公子の来訪
リリスが様子を見に行ってくれ、数分後に慌てて戻って来た。
「大変ですよ、お嬢様! スザク公子様がお見えのようです。応接間に案内されて行くところを、この目でしっかりと見ました!」
噂をすれば、本当に速く来てしまったようね。
「……応接間に行くわよ!」
応接間へ入ると、スザクとヘンリーが居た。
「おはよう、スザク。今日は、随分と早く来たのね……」
そう言うと、彼の後ろに控えていたヘンリーが私のことを鋭い目付きで睨んできた。
私の言葉を聞き、気分を害したらしい。
スザクに対して、何で予定時間よりも速く来たの?と言う意味の言葉だと悟ったのかしらね……。
「おはよう、フィオーレ! ごめんよ、気が急いて速く来てしまったんだ。いつも、フィオーレ達に迷惑を掛けてしまっているようで申し訳ないな……」
「いや、大丈夫よ。そうだわ、貴方に話して置かないといけない事があるのよ……」
「なんだい?」
「先日、腕が鈍らないようにアルケテリアの森で狩猟に行ったのよ。そこで、最近問題に上がっていた『オオカミ』の駆除をブラヴェッダ帝国の皇太子さまが手伝ってくれたの。それで、彼が帝都へ行きたいと仰っていたから今日このまま帝都まで一緒に行っても良いかしら? お父様が皇太子さまに恩を感じて、今アルセナーリナ邸に泊まっているのよ」
そう言うとスザクは、理解が追いつかないのか少し沈黙があり口を開いた。
「うん……そういう事なら仕方ないね。ブラヴェッダの皇太子……ベルナルド皇子は、おそらく皇后陛下に用事があるんだよね? そうじゃないと、エウレカ帝国には来ないだろうしね……それと、アルセナーリナ領の森で問題が発生していたんだね!? 初耳だったよ。今後、何か困った事があったら僕に頼って欲しいな。解決出来るような事だったら力になれるし!」
公爵家の子息ともなれば、他国の皇太子の名前を知っているようだ。
正直、ベルナルドの名前を知らなかったのは恥ずかしい。
「ありがとう、スザク! また、何かあったらスザクに手紙を送るわね」
「うん! そうしてくれると、嬉しいな! 約束だよ」
そう話していると、ノックの後にベルが入って来た。
「久しぶりだな、シュタイン公子。時間よりも随分と速く到着したと聞いたが……36分も前に来るのは、流石に常識的に考えて有り得ないのではないか?」
スザクは、その言葉を聞き申し訳無さそうな顔をした。 スザクにこんなはっきりと言う人は稀だろう。
皇帝陛下からも特別可愛がられているスザクに対しこのような事を言う人は本当に初めて見た。
「申し訳御座いません、ベルナルド皇子……そうですね。以後気を付けます」
「その方が良いだろう。公子は、人の上に立つ身分という事を弁えた方が身のためだ。軽率な行動は、時に人へ迷惑を掛けるだろう」
「ご忠告ありがとうございます……そのお言葉、胸に刻んでおきます」
スザクは、こんな事初めて言われたのだろう。
落ち込んでしまったように見える。
ヘンリーが、「スザク様、大丈夫ですか?」と直ぐに聞いていた。
それに対し、スザクは無言で頷いているようだった……。
「公子も、理解出来たようだし帝都に出発するか?」
「そうね。スザクもそれで良いかしら?」
「うん、構わないよ……」
そして、馬車へ向かおうとしたら舌打ちが聞こえた。
おそらく、そんな事をするのはスザクではないわよね……。
振り返ると舌打ちした当人であろう人物は、スザクを心配しながら射殺すような目でベルのことをみていた。
流石に、彼も直接ベルに何かを言うような事はしないのね。
まぁ、そんな事をしたら主に迷惑を掛けると心得ているようにみえる。
その割には、私に対して随分と露骨に嫌悪感を表してくるけれど……何なのかしらね?
「スザク、大丈夫よ。私は、早く来たことに関して気にしていないわ。気持ちを切り替えてデートを楽しみましょうよ。貴方の為に、色々なお店をリサーチしてデートプランだって考えたのよ?」
「ありがとう……フィオーレ。そうだね! でも、ベルナルド皇子が言っていた事もたしかだから、自分の行動を改めないといけないと思うよ……。
君の言う通り、落ち込むのも終わりにしよう。事実を述べられて落ち込んでいるのは、ただ不貞腐れているようにしか見えないしね……それに、君が考えてくれたデートプランは全力で楽しみたいよ!」
いつものスザクに戻ってくれたようで安心した。
「……良かったわ。そう言えば聞きたいのだけれども良いかしら?」
スザクは良いよと言って頷いた。
「ヘンリーさんも私たちに同行するのね? それなら、リリスも同行させて良いかしら?」
「うん、勿論良いよ! でも、御者の隣になってしまうけど良いかな? ヘンリーは、大丈夫だと思うけどリリス嬢は女性だし……」
「分かったわ。聞いてみるわね?」
リリスを呼び御者の隣でも良いか聞いた所、大丈夫だという返事を貰った。
「大丈夫みたいよ」
「分かったよ。ごめんよ、リリス嬢。座り心地は、悪いかもしれないけど……」
「いえ、公子様。私は大丈夫ですよ。お気遣い感謝申し上げます!」
「では、行きましょうか」
リリスとヘンリーは、御者の隣へと向かっていった。




