17話 夜明け
「お嬢様! ベルナルドさんも無事で良かったです! 死体は、跡形も無く消えていますが……ベルナルドさんの魔法なのですか?」
「ああ、そうだ」
「ですが、私たちの戦いの痕跡も無くなってしまいましたね。旦那様には、なんとお伝えするのですか?」
「!? それなら、俺の魔法で死体が無くなったと証言してくれれば良い。何も考えずすまない、フィオーレ。そうか……死体を消したのは不味かったな……」
「貴方が証言してくれるのでしょう? でも、悪魔だとか言ったら頭が可笑しいと思われると思うから、辞めましょうね」
「そうだな……」
「正体に関しては、オオカミという事にしておけば良いのではないでしょうか?」
「ありがとうございます! ルカ卿。それが一番良い理由ですね」
そうこう話している内に、朝日が昇って来た。
いつの間にか夜が明けていたらしいわね。
「勝利の後の朝は気持ちが良いな……そういえば、フィオーレ。一つ頼みがあるんだ」
「何かしら?」
「従者の墓をこの森に作っても良いか?」
「構わないわ」
そう話していると、リリスとルカ卿が驚いたような顔をしていた。
「従者ですか? ベルナルドさんは、どのような身分なのです? 一般の家系には、従者など居ないと思いますが……」
「あら? そういえば、二人には時間が無くて話していなかったわね。彼は、ブラヴェッダ帝国の皇太子さまなのよ。だから、最初から不遜な態度だったの。納得よね」
「そんな……!ベルナルド様、申し訳御座いませんでした。皇太子さまだと知らず失礼な態度をとってしまい……」
「いや、畏まられるのは好きではないからベルナルドさんで大丈夫だ。フィオーレだって素で話してくれているだろう?」
「お嬢様は伯爵令嬢なので……私は、ただの平民なのでそれは立場上難しいです」
ベルナルドは、そういうものかと承諾していた。
「お墓は、日の当たる場所が良いわよね。なら、戦闘を行った場所しかないけれど大丈夫かしら?」
「ああ!」
ベルナルドの従者の遺体は跡形も残って居なかった為、墓石だけとなってしまったが誠心誠意お墓を建てた。
ベルナルドは、完成した後しばらく黙っていたが気持ちの整理が出来たようでこちらを振り向いた。
「フィオーレ、何から何まで本当にありがとう。……俺の心は、完全にお前に惹かれてしまったようだな」
ごにょごにょと最後は何か言っていたようだが、感謝されるのは悪くないと思う。
「ええ、お役に立てたようで良かったわ」
全ての用事が終わったため、宿屋へ皆で戻る事になった。
「ベルナルドは、この後帝都へ行くんでしょう?」
「そのつもりだ」
「明後日、帝都へ行く用事があるのだけれども一緒に馬車に乗っていくかしら?」
「本当か!? 助かるぜ。でも、帝都で何するつもりだったんだ? エウレカ帝国は、貴族であっても王宮へ入れないだろう?」
「それは……デートよ」
「え……!? 誰とだ? どんな爵位のやつ? そもそも、貴族なのか?」
「なんで、そんな事まで教えないといけないのよ……」
「そこまで聞いたら、相手くらい気になるだろう? 普通……」
「名前を聞いても分からないと思うから、省くけれどこの国の公子よ」
「公子……公爵の息子か。……なら、俺の方が身分は上だな……俺にもチャンスはあるということか……!」
その瞬間、リリスが驚いたような目でベルナルドを見ていた。
私よりも距離が近い場所にいたため、聞こえたのだろう。
私には、小声で何か喋っている事くらいしか分からなかったけれども……。
話していると、森を出て宿屋の近くまで来ていた。
宿屋の前には、アルセナーリナ家の馬車が停まっていた。
御者が、お父様たちに伝えた事で急いで来てくれたのだろう。
宿屋へ入るとお父様とお母様が心配していたようで駆け寄って来た。
「御者から聞いたが噂の獣を倒しに行ったと聞いたのだが……本当なのか!?」
「はい。事実ですわ」
「何故、そのような危険なことをしたんだ!!」
「大傷を負った人を放って置けなかった事と、離れた間にアルケテリアの街が襲われでもしたらお父様の責任が問われると思ったからですわ。原因は、潰したほうが安全だと思っての行動です」
「そんな危険な事をしたの?」
「はい。正体は、オオカミでしたわ。死体は、こちらにいらっしゃる方が焼いてしまい跡形も残っておりませんが……」
「そちらの方は? 見たことの無い顔ね……」
「ご挨拶遅れてすまない。俺は、ブラヴェッダ帝国の皇太子ベルナルド=アレッシオ・カリーニだ。フィオーレ嬢のおかげで命が助かった。彼女は、俺の頼みを聴いてくれただけだから今回の非は俺にある。アルセナーリナ伯爵、彼女を危険に晒したのは俺だ。心より謝罪申し上げよう」
「そうでしたか。ブラヴェッダ帝国の皇太子さまだったのですね。失礼ですが、何故皇太子さまと娘がオオカミを倒しに行くことになったのですか?」
「それは、オオカミに襲われてボロボロだった見ず知らずの俺をフィオーレ嬢が救ってくれたんだ。そして、事情を話したら共に討伐してくれるという事になった」
「なるほど、事情は分かりました。フィオーレ、良くやったな。見ず知らずの人間を助けるなど普通出来る事ではない」
「そんな……困っている人を助けるのは当然ですわ。それに、リリスやルカ卿も戦ってくれたので心強かったです」
「そうだったのか! 二人とも良くやってくれたな。やはり、ルカ卿を護衛に選んで正解だった!」
「滅相も御座いません、伯爵様。自分の義務を果たしたまでです」
「私もお嬢様をお守りするのが役目なので、当然の事を行ったまでです」
お父様は、その言葉を嬉しそうに聞き誇らしく思うぞと言っていた。
「お父様、お願いがあります。ベルナルド様は、皇后陛下に用事があるらしくお忍びでいらっしゃったようなのです。私も明後日、スザクと帝都へ行くのでその時まで家に泊めても宜しいでしょうか?」
「皇太子さまを? 構わないが良いのか? シュタイン公子に誤解されないのか?」
「大丈夫ですわ。スザクは、そんな事で誤解するような人ではありませんもの」
シュタインという言葉にベルナルドが僅かに反応していたように思える。
シュタイン公爵家を知っているのだろうか?
「なら、良いだろう。皇太子さま、狭い家ではありますが、1日ちょっと我慢していただければと思います」
「ああ、構わない。こちらこそ、お邪魔する身だからな」
宿屋に宿泊費をお父様たちが払ってくれていたようで帰りの支度をした。
そして、馬車へ乗り込んだ。
戦いでやはり疲れていたようで、私もベルナルドも馬車に揺られながら寝てしまった。




