6話 ダンス
だが、フォローする言葉でも思い付いたのかギルフォード嬢が口を開いた。
「まぁ、好きなシーンは人それぞれなので……マルエラ嬢が、そのシーンを好きと言うのならそれも良いと思いますわ」
「まぁ?? そんなシーンだったのですね……お教えくださりありがとうございます。フィオーレ嬢、ギルフォード嬢」
白々しい演技ね……。
知っていた癖に良く言うと思う。
それとも、本当に分かっていなかったのかしら……?
どうせ、私が同意してくれると思っての発言だったのでしょうね。
私が、同意していたら一斉に責め立ててきたに決まっている……。
考えていると、回帰前からマルエラを上げるような発言をし続けていた、カレン・アーバスノット子爵令嬢が話に割り込んできた。
「ですが、そのシーンも醍醐味の一つではありますよね。そこに気付けるマルエラ嬢は、素晴らしい洞察力の持ち主だと思いますわ!」
その言葉を聞き、マルエラの意見に同調し始める令嬢も出てきた。
彼女らに、擁護されマルエラは口を開いた。
「そうですか……?」
彼女の取り巻きだから仕方が無いと思うけれど、こんなにマルエラを上げようとしている人物たちとこれ以上話す事は精神衛生上良くない……。
「皆さんの貴重な意見を拝聴出来て楽しかったですわ。私はお待たせてしまっている方がいらっしゃいますのでこの辺りで失礼いたしますわ」
「あら? フィオーレ嬢、もう行ってしまうのですか?」
「はい。お話したいのは山々なのですが……また次の機会にお話しましょう、マルエラ嬢」
そう言い立ち去ると失礼な方という言葉が聞こえて来た。
だが、彼女たちにどう思われようと構わない。
あそこに居た人物たちは、回帰前でも陰でコソコソ言っていただけだ。
直接、私に文句を言ってくるのはギルフォード嬢くらいだろう。
今回、マルエラと話していたのはギルフォード嬢の他は子爵家の令嬢ばかりだった。
ギルフォード嬢は、社交界での評判は良くない。
そして、彼女はスザクを好きなのだ。
だから、妬んで私の悪口を言っているようにしか思われないだろう。
私が注意しなければならないのは、エレイシア・アスター嬢、オーロラ・グランヴィル公女、オリバー・オーフォード令息くらいだ。
その人たちが、マルエラと仲良くなるのを阻止するしかない……!
そう考えながら、テラスへ向かうとそこにはスザクと一人の女性がいた。
「あ、フィオーレ! お話は終わったのかい?」
「えぇ。終わったわ。ところでそちらの方は……?」
スザクが、紹介しようとした所で彼女は口を開いた。
「ご挨拶遅れて申し訳ございません。私は、ウィンザー伯爵家のシャーロットです」
「ご挨拶ありがとうございます。私は、アルセナーリナ伯爵家のフィオーレです」
ウィンザー伯爵の令嬢……。
たしかに居たが、彼女はこんなに積極的だっただろうか?
回帰前、スザクを好きだったのかもしれないが彼に話し掛ける様な事は無かった。
これも、私が戻ってきた影響なのだろうか……。
「では、ウィンザー嬢ここで失礼しますね」
「あら……? もう行かれてしまうのですか?」
「はい。待ち人というのは、フィオーレ嬢の事だったので」
スザクがそう言うと、彼女はあきらかに不快そうにこちらを見てきた。
「そうですか……分かりましたわ。また、お話していただけると嬉しいですわ! スザク公子様」
あんなに露骨な嫌そうな顔をする人を初めて見た。
そして、彼女がスザクのことを名前で呼んでいるのに気が付いた。
名前で呼ぶというのは、親しい間柄をアピールしたい時や本当に仲の良い人かの二択よね。
少し話したくらいで、親しくなったと勘違いしているのかしら?
「ウィンザー嬢とは何の話をしていたの?」
「僕の趣味とか聞かれたかな。あとは、ダンスを一緒に踊って欲しいと言われたけどお断りしたよ。フィオーレ以外の女性と踊りたいとは思えないからね」
スザクは、きっと自分に好意を向けられていると気付いていないのだろう。
でも、その言葉を聞いて安心した。
以前は、カモフラージュのために踊りはしたが本当はスザク以外の男性とは踊りたくはない。
その気持ちは、同じのようだ。
「ありがとう、スザク……! 私もよ」
そう言うと、スザクは輝くような笑顔を向けてくれた。
そして……
「フィオーレ嬢、久しぶりに一曲いかがですか?」
「まぁ! 喜んでお受けいたしますわ」
スザクが、ダンスに誘ってくれた。
スザクが踊るということで、女性の大半がこちらを見ているようだった。
だが、妬みの視線が多いように感じる。
踊っていると、スザクが話し掛けてきた。
「はぁ……スペンシー令息のように上手くは踊れないなぁ……」
「いいえ、そんな事ないわ。たしかにダンスの上手さは、スペンシー令息が上かもしれないけれど、ダンスの華麗さはスザクの方が上よ」
「君に、そう言って貰えると自信が持てるよ! ありがとう」
話しながら踊っていると、あっという間にダンスは終わってしまった。
彼と踊るとこんなに棘のある視線を感じるのだと改めて気が付いた。
スザクと端にあるテーブルへ移動すると、またマルエラが話し掛けてきた。
見計らっていたかのようなタイミングで呆れる……。
「シュタイン公子様、フィオーレ嬢はどちらもダンスがお上手なのですね! とても華麗で見惚れてしまいましたわ! 私もフィオーレ嬢のように優雅なステップをふめるよう練習しようと思いました!」
「マルエラ嬢お褒めのお言葉ありがとうございます」
「ありがとうございます。シェスタール嬢は誰かと踊られないのですか?」
「そうですね……あまり、面識のない男性と踊るのは緊張してしまうので……」
あきらかにスザクに向かって言っていた為、一緒に踊って欲しいと言っているようなものだった。
「……」
鈍感なスザクも、この言葉の意味を流石に気付いたようだ。
「スザク、彼女と踊ってあげたら良いのではないかしら?主催者の娘の顔を立ててあげた方が良いわよ? 私だってスペンシー令息と踊ったでしょう……これで、お相子ということにしない?」
スザクに小声で耳打ちしていたら、マルエラは怒りを抑えようとしているのか唇を引き結んでいた。
聞こえてはいないだろうが、私とスザクの内緒話が気に入らないのだろう。
「……君がそこまで言うのなら。分かったよ……そうだったのですね。シェスタール嬢、もし宜しければ一曲僕と踊っていただけないでしょうか?」
「……!? はい、喜んで!!!」
そう答え、スザクと彼女は歩いて行ってしまった。




