1話 突然の訪問
― 一週間後 ―
あれから、時は流れ一週間がたった。
シュタイン公爵家のパーティで、マルエラは友人を作ろうとしていたように思えた。
私は、エレイシアとしか話せなかったが彼女は何人かと話していたようだ。
こんな所で彼女に遅れをとっているようじゃ先が思いやられる。
なんとか、彼女の評判を地の底に落とすことが出来れば良いのだけれども……。
私が、悩んでいるとリリスが声をかけて来た。
「お嬢様、悩み事ですか?もし、宜しければ私が相談に乗りますよ」
「そうね。悩みではあるけど、リリスに話すような事でもないのよね。……ただ、前にも言った通りマルエラ・シェスタール嬢がここに来たら良く観察しておいて欲しいわ。取り敢えず、そのくらいね」
「はい! そちらは、お任せくださいませ。ですが、悩みすぎるのはよくありませんよ! 溜め込む前に発散してしまった方が楽になると思います」
「そうよね〜心配してくれてありがとう」
リリスが、心配してくれるのは嬉しいが今は発散出来る状況でもないのよね……。
その時、いきなり部屋をノックされた。
返事をすると、慌てたようにメイドが入ってきた。
「お嬢様、大変です。シュタイン公子様がお見えです」
「え?」
何の前触れもなくスザクが訪ねてきたらしい。
「取り敢えず、応接室にお通しして! 直ぐに向かうから」
部屋着だった為、直ぐにドレスに着替え応接室へと向かった。
応接室へ入るとスザクだけでなく銀髪で顔の整った男性が彼の後ろに控えていた。
彼は、スザクの執事にして従者だ。
名前は、ヘンリー・オルビターレ。
たしか、年齢は私たちの三つ上の15歳だ。
スザクにとても忠実で仕事もテキパキと出来るけれども、性格に難ありの男性だ。
回帰前に、スザクが居ない所で「スザク様と貴女はお似合いではない」と牽制された覚えがある。
他にも事あるごとに色々と言われたものだ……。
顔だけ見ていると、うっとりするほど格好良いのに性格が残念だ。
スザクに聞いた話によると、彼は元殺し屋で幼い頃にスザクが助けたことにより絶対的な忠誠を誓ったという事らしい。
もう、彼には敵視されているのだろうか……?
分からないけれども……スザク専属の執事なのだから、出来れば今回は仲良くしたいものだ……。
それにしても、シュタイン公爵家は凄いと思う……。
息子に執事兼従者を付けるだなんて珍しい。
余程、お金に余裕があるのだろう……。
「やあ、フィオーレ! 一週間ぶりだね」
人の気も知らず、スザクは能天気に挨拶をしてきた。
「え……ええ。そうね。ご機嫌好う、スザク。今日はどうしたの? 突然で驚いたわ」
「僕たち交際を始めたんだよね? なら、君の顔をみたくなって来たっていう理由じゃいけないかな?」
「スザクの気持ちは嬉しいのだけれども、手紙も無しに来られたら驚いてしまうわ」
その言葉を聞くとスザクは、少し悲しそうな顔をした。
「ごめんよ。……実は、フィオーレと一緒にエウレカ祭りに行きたくて誘いに来たんだよ。この前、読んだ本でデートの誘いはサプライズでって書いてあったから、その方がフィオーレも嬉しいのかなって思ったんだ。次からは、手紙で伝えるようにするね……」
「そういう事だったのね……大丈夫よ、スザク。貴方のその気持ちはとても嬉しいわ。デートのお誘いありがとう! 是非、行きましょう。エウレカ祭りは、今日から開催よね。でも、エウレカ祭りといったら平民のお祭りよ?」
スザクは、エウレカ祭りに行きたい割にどう考えても平民の祭りに行くような格好ではなかった。
その服をスザクが選んだのか、ヘンリーが選んだのかは分からないけれども、確実に今の格好では浮いてしまう。
それに、本で読んだって……本当なのかしら?
そのような、類のものがシュタイン公爵邸に置いてあったとも思えない。
もしかしたら、エウレカ祭りに向けて購入したのかもしれない。
その気持ちは、嬉しいけれども突然来るとこちらも驚いてしまう。
「ありがとう、フィオーレ……! うん、そうだよ。平民のお祭りだけどフィオーレは大丈夫かい?」
「もちろん、大丈夫よ。そういう意味ではなく、貴方の洋服はどう見ても平民の祭りに行くスタイルではないという事を聞きたかったのよ……」
「え? おかしいかな?? 本に祭りに行くには、普段着より少し着飾った服の方が良いって書いてあったよ?」
その言葉を聞き確信した。
彼は、本当に本で誤った知識を得てしまったようね。
スザクが、読んだという本は一体なんなのかしら?
はちゃめちゃな内容過ぎて少し興味を抱いてしまう。
もしかしたら、平民が書いた本を読んで趣旨がずれてしまったのかもしれない。
身分で差別をするのは良くないが、平民と貴族ではやはり違うもの。
「おかしいも何もその恰好で行ったら浮いてしまうわよ? 今の貴方は一目で貴族だと分かるし……お祭りに行く前に着替えた方が良いわね。使用人に平民用の男性服を買いに行かせるわ」
そう言うと、スザクはショックを受けたような顔をしてしまった。
「うっ……そうだったんだ。ごめんね、フィオーレ。何処までも迷惑を掛けてしまって……」
「謝ることじゃないわ。本に書いてあったからその恰好で来てしまったのでしょう? スザクは悪くないわよ。けれども、何処でそんな本を買ったの?」
「ありがとう……本は城下町で買ったんだ。でも、フィオーレはよく分かったね! お祭りに行ったことあるの?」
「お祭りは行ったことないけど何となく分かるわ。そうだったのね。平民用の本だったからスザクも着飾っちゃったの……貴族とは感覚が違うもの。公爵様や公爵夫人に聞いたら良かったんじゃない?」
「父さんや母さんに、デートの服装を聞くのはなんだか恥ずかしいじゃないか。あの二人がお祭りに相応しい恰好が分かるのかも分からないしね」
スザクは恥ずかしそうにそう言った。
その姿は、とても可憐であった。
可憐だなんて男性に使うのは、可笑しいかもしれない……。
だが、その言葉が一番似合うような姿であった。
「ふふっ。確かにそうね。それじゃあ、使用人に頼んでくるわね!」
そう言い、応接室を後にする。
使用人を見つけスザクの事情を話し、男性用の服を買ってくるよう伝えることにした。
「これから、エウレカ祭りに行ってくるわ。でも、スザク公子が、パーティに行くような恰好でいらしたのよ。目立たない男性服を買ってきてちょうだい」
「承知いたしました。お任せください、お嬢様。エウレカ祭りに間に合うよう購入して参ります」
そう言い、使用人は急いで出掛けて行った。
そして、またスザクの居る応接室へ戻ることにした。
「頼んで来たわよ。急いで行ったから1時間以内には戻るんじゃないかしら」
「ありがとう! 手間をかけさせてしまって本当にすまないな。フィオーレにもアルセナーリナ邸の使用人にも……」
「別に良いのよ。そこまで、スザクが申し訳なく思う必要はないわ。ところで、エウレカ祭りってどんな感じのお祭りなの?」
聞いたことはあるがどのような祭りなのか全く知らなかった。
この国、エウレカ帝国最大規模のお祭りだという知識くらいしかない。
祭りというのだから屋台等は出るのだろうけど……。
そう聞くと、スザクはよく知っているようで語り始めた……。
次は、明日投稿いたします!