64.心境
波の音が気持ちいいくらいに聴こえる。
気温も暑すぎず寒すぎず、丁度良い感じだ。
そう、俺たちは今ベリタス橋を渡っている。
最初は暑かったマントもそろそろ重宝される頃か。
大体中間辺りまで進んできたところだ。
「何だか嫌でもいろんな事を考えさせられる様な場所だな」
もちろん、良い意味でも悪い意味でも。
何て言うのだろうか、こう胸の奥が真っ白になるというか、そして、あること無いこと考えたりとか。
まぁ、俺だけかもしれないがな。
はてさて、次に向かうのはロゴスの故郷と言うのか、住んでいる村、アグライアだ。
おさらいしとくと、優秀な学者や医者が育ち、そして住んでいる村だとロゴスは言う。
そこで、その優秀な医者によって、サラの記憶喪失に何らかの進展があるのではないかと思った俺たちはロゴスに案内してもらっているというところだ。
「やっと戻ってきた感が出てきました」
微笑みながら俺に向かってロゴスは言ってきた。
戻ってきた感ね。
そういえば、帰りの金は何で無くなったんだろうか、というか何しにあの大陸に来てたんだか。
まぁ、どうでもいい事なのだが、気になってきたぞ。
これも、この橋の力なのか?――なんてね。
「アグライア……、一体どんなところなんだろうね」
期待に胸を膨らませているのであろう。
サラがそう話し掛けていた。
そして、その相手だが……。
「ビー」
そう、最近俺たちの仲間になりつつあるビバッチだ。
因みに、今は嫌がってはいないが、宿屋から出発する時サラが抱き抱えた時は物凄く嫌がっていた。
もう何が何だか、どっちかにしろって話だ。
まぁ、これはどうでもいいな。
つまりだ、俺が何を言いたいのかと言うと、この旅はもう終盤に入ったのだろうということだ。
いや、もちろん終わらない可能性もある。
この旅、言えば『サラの記憶を取り戻す旅』はアグライアで大体結果が出るはずだと考えていた。
良くても悪くてもな。
そうなると、なんだかんだで集まったこのメンバーも解散するだろう。
それをなんとなく寂しいというか、残念というか、もったいないというか……。
とまぁ、そんなことを思っていたのだ。
我ながら、可笑しな考えだ。
でも、俺の旅がまだ終わってはいないのは忘れてはいない。
グロリア騎士団の動きについてだ。
ここまで旅をしてきて、まだ広範囲には動いては無いみたいだが、グラティアの事がある。
そう、騎士団長が来たということだ。
もしかしたら、何かまた新しい動きを見せるのではないかと見ている。
世界の安定とかその様な事を言っていたが、俺はグレンの故郷アペリエの出来事を直に見ているからそんな風には思えない。
だから、自分の目で確かめようと思った訳だ。
そして、それが俺の旅だ。
俺一人がどうにか出来る問題では無いのは十分分かっている。
だけど、知る必要がある、いや、知らなくてはいけないような気がしたから。
騎士団長の息子として……ね。
「ヤス、どうしたの?」
すると、サラが俺の顔を覗いていた。
いけないいけない。
いろいろ考えすぎてしまった。
これも、このベリタス橋のせいだな。
俺は「なんでもないよ」と答え、歩く方に専念した。
とりあえず、先ずはアグライアに無事に着けるよう、頑張らなければ。
俺にとって初の雪積もる世界。
物凄く危険な場所だというのは俺も知っている。
まぁ慣れているロゴスが居るのは幸いだな。
しかし、自分の身は自分で守らなくちゃいけないからな。
気を抜かずに行かなくてはね。
そして、俺たちはベリタス橋を順調に渡っていき、アグライアに向かうために通る雪原が鮮明に見え始めた。
気温もどんどん下がってきているのが分かる。
それにより、俺たちはマントを深く羽織り、アグライアを目指し進むのであった。