59.人形疑惑
精神統一。
集中し、フィールドだけに意識を向ける。
風の流れ、足音、地面の揺れを五感をフルに使い、体全体で感じ取る。
そして……、
「そこだっ!」
「何?!」
相手を捕まえる。
『ここでヤスが、瞬間移動したバルディールの腕に掴まった!!!』
腕、いや、重要なのはそこではない!
ここだっ!
「邪魔だぁ!」
「おっと?!」
すると、バルディールは腕を振り回す。
そして俺は腕から離されてしまった。
「へへ、危ねぇ」
俺は頭を掻いた。
とまぁそんな俺は、バルディールに視線を向けるわけだ。
すると、
「俺の動きを捕まえるなんて、お前が初めてだ。褒めてやるぜ」
と、不気味な笑みを浮かべながらそう言った。
……誉めてやる、ね。
「だったら、もっと誉めてもらおうか」
「はぁ?」
今の俺の行動の意味、ここで教えてやろう。
「率直に言ってやる。お前、人間じゃないな」
闘技場が静まり返った。
「坊主、お前何言ってんだ?頭打ってネジでも緩んだか?」
「おいおい、自分のことすら分からないとは。お前こそネジが取れちまったんじゃねぇか?」
すると、俺の言葉にバルディールは少し動揺を見せた。
「お前、何を言って……」
「あんたのその体。それは『人形』だ」
静まり返っていた闘技場からざわざわと声が出始めた。
「前にどっかで聞いたことあってな、もしかしたらと思って調べさせてもらったぜ。そう、お前は人形だ!そして、それを動かしている奴がこの闘技場内に居るはずだ」
闘技場のざわめきが最大のものとなる。
「第一、何で俺が人形だなんて分かるんだよ!そんな分かりやすい作り話なんか……」
「分かるさ、脈が無かったしな。それにさっき俺に打ったパンチ。あの時、人間とは思えない腕の動きをしていたからな、それが確信に繋がったのさ」
脈……、そう、だから俺は奴の腕に掴まった。
そして上手く手首を調べ、無いのを確認し確信したのだ。
まぁその前に、肉体の固さの違和感で人間じゃないってのが大体予想はついてたけど。
とまぁそう俺が言った瞬間、観客が一斉に辺りを見回すなど、いろんな動きが始まった。
そして、サラたちもそうだった。
『これは、私も驚きました!バルディールの人形疑惑だ!!!』
人形疑惑だってさ、なんか可愛いな。
吹いてしまった俺は物凄い表情で睨み付けるバルディールを確認していた。
そう、今にも殴りかかってくるような……。
『おっと?!バルディールがヤスに向かって攻撃を始めた!』
やっぱりな。
「このやろう!潰してやる!」
そう言うバルディールだが、攻撃、スピードは速いものの、先程とは違い、攻撃が荒くなっていた。
そう、むきになっていたのだ。そのお陰で、攻撃の出どころが分かりやすく、俺は全部かわしていた。
しかし、どうしよう。
この後のことを考えるの忘れてたぜ……。
「コノ!コノ!コノォッ!」
バルディールは狂って何回も攻撃を繰り出す。
くそっ、いい加減避けるのもやめて、どうにかして倒さなくては。
と、その時だ。
「うががっ?!」
バルディールの動きが止まった。
一体どうしたのだろうか。
と次の瞬間、バルディールはまるで操り人形の糸が全て切れてしまったかのように地面に倒れてしまった。
『おっと?!ここでバルディールがダウンだあぁっ!!!ヤスが何か仕掛けたのか?!』
いやいや、俺は何もしてないんだけど……。
と、その時俺は、聞こえはしなかったが、何となく呼ばれたかのような気がしてサラたちのところを見た。
サラたちは先程と変わらずその場に居た。
ただ、ロゴスだけは席を立って、観客席の出入口付近の壁に寄り掛かっていたのだった。