58.反則だろ!
さてと、どう攻めていくか……。
相手は俺よりはるかに大きい大男。
力では確実に負けるだろう。
ということはやっぱりスピードか?
「どうした坊主?かかってこないのかぁ?」
でかいだけあって鈍そうだしな。
それしかないだろう。
「今行ってやるよ!」
一先ず速攻だ。
『おっとヤスが動いた!バルディールの正面に向かってダッシュだ!!』
「正面からか、そんなんじゃ俺には勝てないぞ!」
来たっ!
先ずはこいつの攻撃を避けてっと。
そして、こうだっ!
『そして、ヤスの攻撃がヒットだ!!』
バルディールのパンチ攻撃は地面を割った。そしてその隙に俺は、その腕を踏み台として利用し、頭を飛び越え、奴の後ろを一回転しながら剣で斬る。
ダメージも与え、魅せることも出来た。
俺にしては上出来じゃね?
「なるほど、こんなあまっちょろい攻撃じゃ、流石に避けるか……」
っておいおい、斬られてもダメージ全然食らってないのかよ。
……筋肉は鋼鉄か何かか?
まぁ、流石前大会王者だけはあるってか?
「おいおい、逃げんなって」
あぁごめんごめん、近距離だとあんたの筋肉が眩しくて目が開けられなくてな。
(剣で斬っても微動だにしないなんて……、こいつ人間か?!)
「そりゃあどうも、お礼に今度はこっちから行かせてもらうぜ!」
おっと、これは不味いか?
どんな攻撃が来るんだ?
すると、バルディールは走ってこっちに向かってきた。
って、お前も正面からじゃないか!
しかも思った通り、足は速くない。
……よし、ここはとりあえず。
俺は剣を構え、そして相手に向かって振る。
『おっと?!ヤスの剣から衝撃波が飛び出したぞ!そして命中だぁあ!いや、しかし?!』
って、マジかよ?!
ヤベェ!
ズサーー。
「ふん、耐えたか。しかし、衝撃波が出せるなんて、なかなかやるじゃねぇか」
『斬光波』、神彩流の剣技なんだが……。
当たったにも関わらず、やはり全く効いていないのか、減速することなく俺まで近づき……。
「今のは驚いたぜ……、まさかそんな速くパンチを繰り出せるとはな」
バルディールの奴、パンチがさっきより何倍も速くなりやがった。
そう、俺はパンチ攻撃を受けて、後ろへ押されていた。
今のは何とか剣で最小限に防いだけど、正直危なかったぜ……。
しかしなんだろう、今の……。
バルディールの動きに少し違和感があったような……。
「坊主、考え事か?」
な……なにっ?!
「よそ見しちゃあ、いけないぞっと!」
ぐはっ?!
『なんとバルディール!目にも止まらない速さでヤスの後ろに回り、壁へ叩き飛ばした!!!』
……はは、何だよ今の、反則だろ。
一瞬のうちに俺の背後へ移動だと?
こんなばかでかい奴が瞬間移動……、魔術か何かか?
でも、詠唱をしているとは思えない……。
あぁ!もう!
やっぱりこいつ人間じゃ……。
「だ~か~ら~」
…………!
ヤバイと思ったその瞬間、もう俺は壁へと叩き飛ばされていた。
……くそっ!またか?!
「試合に集中しなきゃ~」
攻撃を華麗に決めたバルディールの笑い声、そして観客の歓声が同化した。
そしてそれを聞きながら壁にもたれ座る俺。
あぁ、今の俺の体勢、他人から見たらまるで糸の切れた操り人形だな……、カッコ悪りぃ。
……………………。
待てよ……、もしかしてそんなことあっちゃったりする……?
俺は、とある事をふと思い出した。
……やってみる価値はありそうだな。
『おっと!ヤスが立ち上がったぞ!!ダメージは大丈夫なのか?!』
そんな実況を尻目に盛り上がる闘技場の中で俺は、意識を集中し始めたのだった。