5、記憶は自分の中に
『た、倒したか』
魔物に息はなかった。
俺は緊張の糸が切れ、その場に腰から崩れ落ちた。
な、なんだ、余裕じゃねぇか、は、ははは。
あぁ体が痛い。
『母さん大丈夫?!良かった、本当良かった』
グレンの方も大丈夫みたいだな。
これでとりあえず一件落着だな。
『ありがとうございます。何の関係のない私たちを助けてくれて』
グレンの母さんが話しかけてきた。
『いや、当然のことをしたまでですよ。宿屋ではお世話になりましたし』
その後、俺達は鉱山の外に出た。
日差しが眩しい。
『お~い!』
その時、村の方からサラが走ってきた。
『サラ!どうしてここへ』
『ごめん、心配で来ちゃった』
『村の人達は大丈夫なのか?』
『うん、大丈夫だよ。みんな軽い怪我だけだし。強い人達だよ村の人!』
サラは満面の笑顔でそう言った。
この笑顔を見た俺は、思うと無責任なことをしてしまったと罪悪感があった。
『……サラも十分強い、いや、強すぎだよ』
『うん?』
『あ、いやその、記憶を失ってしまって間もなくて、まだ自分の中で整理がついてないだろうという中でいろいろ押し付けちゃったなぁって……』
『そんなのどうってことないよ!私だけ何もしないのは私が許さないし。それに……』
『それに?』
『記憶を失ってるって感じがしないの。何と言うか、霧がかかってるというか……』
サラは腕を組み、考えている。
『とにかく!記憶は私の中にあるような気がするの』
サラは真剣な顔をして言った。
『って、怪我してるよ?!』
『あ、大丈夫だって!』
真剣な顔から一変。
いきなりサラが俺の身体をさわりだした。
くすぐったい。
『って、イテッ!』
俺は思わず大声で言い、その場にしゃがんだ。
やべぇ、横腹の痛みが増してきやがった。
その時だった。
俺はいきなり温かい光に包まれた。
『何だ?これは……』
『サラ!君は!』
グレンの驚いている声が聞こえた。
俺はその声を聞きサラの方を見上げた。
するとサラは祈るようにして立っていた。
よく見ると地面には魔方陣が光によって浮かび上がっていた。
『治癒術か!』
グレンがそう言った。
なるほど、道理で痛みが和らいでいくわけだ。
俺の身体の傷は、みるみるうちに良くなっていた。
すると、いきなりサラが倒れた。
俺はとっさに抱える。
魔方陣も倒れたのと同時に消えていた。
『おい!大丈夫か?!』
『今、私治癒術を?』
サラは驚いていた。
『私、無意識の内に……』
『サラ?』
『あ、ああ!大丈夫大丈夫!ちょっと目眩がしただけだから!』
と言い、サラはスッと立ち上がった。
『ありがとう。サラのお陰で良くなったよ!』
『少し霧が晴れた?』
『え?』
サラが意味深な顔でそう言った。
『いや、やっぱり気のせい?でも私が治癒術を使えることが分かった…!』
サラは何かを決心したような顔をしていた。
『あの、とりあえず村へ帰らない?』
グレンが言う。
『ん?ああ、そうだな』
大賛成だ。
俺達は村へ着いた。
ついさっきいた場所なのに懐かしいな。
しかし宿屋に向かう途中であることに気づいた。
『騎士団がいないな』
見渡す限り、騎士団の姿は確認出来なかった。
そして宿屋に着き、怪我人の治療など終えてその夜のこと。
『サラ、お疲れ。あんなに治癒術使って身体は大丈夫なのか?』
『うん!大丈夫だよ。さっきはいきなりだし驚いちゃっただけだよ』
…サラ、どう見たって疲れてるのが分かるぞ。
サラは汗を流して少し息をきらしていた。
『そう言えば、名前』
名前?
『名前聞いてないよ?』
あぁ、そう言えば。
『俺はヤス。よろしくな』
『ヤス……?あ、うん!よろしくね!』
『どうした?』
『いや、何故だかヤスって聞いて懐かしいなって感じたから』
サラはニコッと笑った。
『まぁとりあえず今日は休もう。おばさんには許可は貰ってるから』
そう、正直言ってくたくただ。
『うん、そうだね。……じゃあまた明日、お休み!』
『あぁ、お休み』
そして俺は自分の部屋に戻っていった。
明日のことは明日決めよう。
俺はベットに入り、すぐに眠りに着いた。