47.夕日に染まる城
「この世界『アレテイヤ』は大不況から力を合わせ、豊かな世界を手にいれた。そして、その後グロリアを中心に安定を築き上げているのは事実だ」
窓から入ってきた夕日の光が、騎士団長を照らしている。
「でも、あれが騎士のやるべき行為なのか?…ってか、世界の安定とか言ってるけど、アペリエの村は相当生活が厳しそうだったぜ」
「豊かさを手に入れるのに犠牲は不可欠だ」
「へっ、豊かさとか言って、本当は違う目的なんだろ?」
すると、騎士団長は窓の外から俺に目を向ける方向を変えた。
そして、溜め息。
「どうやら話にならないようだな」
そう騎士団長は言った後、椅子に座った。
その台詞、父さんじゃなかったらこっちから言ってたぜ。
すると、
「ヤス、もう疲れただろ。城の無断侵入の件もあったが、これはもう良い。だから、今日は休んで俺と一緒に帝都に戻ろう」
と、騎士団長はそう言った。
グロリア騎士団の目的、どうしても教えてはもらえなさそうだ。
父さん、一体あんたは何がしたいんだ。
帝都で捏造をしてまで何がやりたいんだ。
……頭が痛くなってきた。
俺は……、
「俺は戻らない、いや、戻れない」
騎士団長、いや、今度は父さんにそう言った。
「どうしてだ、ヤス」
「俺にはやらなければいけないことがあるんだ。サラとの約束がね」
「……ん?サラだと?」
すると、父さんはサラという言葉に反応した。
今度は何なんだ?
「いや……、知り合いの名前だったからついな」
……本当にそれだけなのだろうか。
「それで、お前はその約束を果たさない限り帝都には戻らないというのか?」
「あぁ、サラの記憶を回復させるっていう旅がまだ途中なんだ」
「……何?!記憶喪失?!」
父さんはサラが記憶喪失と知り、こっちがびっくりするぐらい物凄く驚いていた。
……何だか、今日の父さん変だな……。
と、その父さんだが、何か考えているのが分かった。
そして、少し間が空いた後、父さんは何を思ったのか、
「それじゃあ、その少女も連れて帰ると良い。俺が帝都で良い医者を紹介しよう」
と、言ったのだった。
医者かぁ……。
確かに帝都には最高の腕を持った医者が居ると聞いたな。
まぁ俺には縁の無い話だったけど。
……………。
「……いや、それでも俺は帰らない」
「……お前」
俺は断った。
「まぁ、もう部屋に戻れ。明日の朝返事を聞こうではないか。……良い返事を期待してるぞ、ヤス」
俺はその言葉に一礼をし、騎士団長の執務室から出た。
「……………」
皆が待つ部屋に戻る俺。
その時、俺は歩きながら何故父さんの最後の提案を断ったのか考えていた。
いや、何故だか分かっていたのだ。
それは、嫌な予感がしたからだ。
しかし、何故嫌な予感がしたのだろうと気持ちが悪かったのだ。
「……疲れてるせいかな……」
と、その時、
「あ、アーシャ……」
俺の目の前にアーシャが立っていた。
「ヤス?どうかした?顔色悪いよ?」
あぁ、気持ちが悪いんだよ…。
俺は耐えきれず、サラとの約束のこと、しかし帝都に帰れと言われたことをアーシャに聞いてもらった。
「……そうか、それだと無理矢理にも帝都に帰らされそうな感じだね」
そうなんだよな、一体どうすれば……。
「……よし、分かった!」
……何だ?
アーシャはいきなり、俺の側で何かを思い付いたかの様な表情をしてそう言った。
「ヤス、今日は明日に備えてゆっくり休んで!」
「何だよ、急に」
すると、アーシャ笑顔を見せ、俺の耳元で、
「そうだなぁ~。じゃあ夜中の二時、要するに明日の午前二時にヤスたちの部屋に行くから、それまでのお楽しみ♪」
と、ささやく様にそう言った。
……何で隠して言うんだよ。
俺はアーシャに詳しく聞こうとしたが、
「…………居ない」
さっきまで側に居たアーシャがもう居なかった。
あいつ、いつの間に…。
「はぁ、ゆっくり休めか」
そして俺は、考えることを止め、仲間が居る部屋へと再び戻るのだった。
中庭の木に集まってきていると思われる、小鳥たちの騒がしい鳴き声を聞きながらね。