24.苦労の重なり
冗談じゃない。
そう思うことはよくあることだろうと思う。
しかしそれがよりによって……ね。
「売っちゃったって一体どういうことだよ…」
俺は顔を引きつりながら言った。
『いや~、仕方なかったのじゃ。いつも良くしてもらってるお方が来て、どうしてもって言うから断れなくてのぉ』
「はぁ?何よそれ!私たちの約束は何だったのよ!」
ヤバい、カエデマジでキレてるぞ。
『正直取ってこれないと思ってたからね。だから売っちゃった』
向こうで『てへっ♪』とかやってそうな口調で言うダバス。
つか………俺たちの苦労が水の泡かよ。
しかもカエデからは殺気のようなものが感じられる。
……俺、知らない。
と思ったその時だった。
グレンが前へ出てカエデの肩に手を置いた。
そして二人の顔が合った時、カエデの殺気オーラが和らいだ。
おぉ、さすがグレン…。
こういう役はグレンだな。
とか思ってると今度は、
「それで、いつ誰に売ったんですか?」
グレンがダバスに質問した。
『ついさっき来たこととか、誰かは教えられんよ。』
「そう…ですか」
ダバスの言葉にそう答えたグレン。
そして何か考え始めたみたいだった。
…ってちょっと待て?ついさっきって口滑ってない?
ということはまだこの街にいるかもしれないってことじゃないのか?!
…てかそうだったら、ダバス馬鹿過ぎだろ。とその時、グレンが何か思い付いたみたいだった。
「そういえば、さっきここに馬車に乗って来ていたあの人、馬鹿っぽそうな奴だったな~」
そうグレンが笑いながら言った。
そこで俺は疑問が浮かんだ。
馬車?
何でここに来てたって分かるんだ?
しかも乗ってた人まで…、グレンはいつ見たんだ?
俺は考え始めた、とその時、ダバスが血相を変えたかのような声で言ってきた。
『お、おまえ。あのお方を侮辱するつもりか?!』
尋常ではない声がスピーカーから発せられた。
するとグレンは、
「…あ、すみませんでした。それともうネックレスの件は良いです、では」
グレン?!
一気に冷たい態度に変わった。
俺はその変わりようにびっくりしていた。
それと、あのダバスの反応…、もしかして?
「さぁ、行こうみんな」
そう言うとグレンは御屋敷から離れていった。
『お、おい!鱗は?ドラゴンの鱗~!』
…非常識な奴め。
ダバスを無視し、俺たちも急いでグレンを追った。
俺たちはグレンに付いていき、御屋敷からだいぶ離れたところまでやって来た。
するとグレンはクルっと俺たちの方に体を向けた。
「作戦大成功だな」
グレンは満面な笑顔で言った。
しかし、よく馬車が来てたってグレンは分かったな。
「ん?あぁ、アレはなんとなくで言っただけさ。勘だよ、勘」
「え?」
なんとなくって、じゃあ乗ってた人が馬鹿っぽそうってのは…。
「そう。見たことなんか一度も無いさ」
グレン、お前結構やるな。
まぁ素直に聞いても教えてくれないだろうからな。
「そんなことより、聞いただろ?さっきの馬車に乗っていった奴がヤスの大切な物を買い取ってったみたいだね」
「あぁ、間違いなさそうだな」
俺たちがひかれそうになった馬車のことだ。
あんな急いで一体どこに行ったんだか。
「とりあえず、まだ遠くへ行ってないんじゃないかな?」
サラが言う。そして、
「早く追いかけよ!」
カエデが今にも行ってしまいそうな状態で言った。
しかし、あの馬車は何処に向かったのだろうか。
何か情報が無いかと探しつつ、とりあえず俺たちは出入り口の門に行くことにした。
門に来た俺たち。
ここに来るまででは馬車について何の情報も得ることができなかった。
すると、グラティアの街が徐々にライトアップされてきた。
もう日が暮れてきたのだ。
「どうしよう、暗くなってきちゃったよ?」
夜になると外の魔物はよりいっそう凶暴になるから危ない。
しかし、今追いかけなくては逃げられてしまうかもしれない。
「どうしたら良いのか…」
そう考えていると門の電気もライトアップされた。
その時だった。
「あ、……これだ!」
俺はあるものを見つけ大声を上げた。