16.御屋敷へ
暑くもなく寒くもない。
とても過ごしやすい気候のグラティア。
街が穏やかなせいか街の人たちも皆人当たりが良く、俺たちの話に答えてくれた。
あと、街を回ってみたけど、グレンの村みたいに強制労働とかは無いみたいだな。
こっちの大陸の拠点とかだったり?
とまぁ、皆で手分けして聞き込みをした結果、情報が手に入った。
「え、ヤスもその人?!」
「なんだ、みんなも同じ野郎か」
集めてきた情報は、皆同じだった。
なんでもグラティア一番の金持ちは『ダバス』という奴でグロリア出身らしい。
グロリア出身、ね。
俺たちは早速ダバスの家、いや『屋敷』に向かった。
これまた立派な御屋敷だそうですぐに分かるそうだ。
「買い取ってった人だと良いね」
「あぁ、そうだな」
そうグレンの言葉に答え、歩いていた俺はとある建物に目が止まった。
「こ、これは!」
懐かしく感じた。
そこには俺が毎日通っていた同じ道場があった。
「俺が通ってる道場だ!ここにもあるんだな」
「あぁ、やっぱり」
グレンが納得した顔をしていた。
え?何だよ一体。
「ヤスの剣術を見ていて大体予想はついてたけどね」
だから何なんだよ。
俺の剣術が何だって?
「ヤスは神彩流という剣術を習ってるでしょ?」
「シンサイリュウ?……あぁ、そういやそんな名前だっけか」
俺はそんな名前だったという微かな記憶を頭の隅から引っ張り出した。
「名前ぐらいちゃんと覚えとこうよ…。神彩流はこの道場で教える流派なんだよ」
そうなのか。
いや、実はなんとか流とかそういうの気にしてやってなかったんだよな。
こだわりとか特に無かったしな。
「型がぐちゃぐちゃだったから分かりづらかったよ」
「あぁ、それは俺が勝手に変えてるからだな」
そう、いわゆる我流ってやつだな。
だから、型をやる時には我流の癖が出ちゃって先生に結構叱られてたな。
「なるほどね。面倒事が片付いたらここに来てみようかな」
「良いんじゃない?確かここにはまだ若いけど強い女性の先生もいるみたいだし。何でも神彩流の後継者でもあるらしいよ」
知識が豊富だな。
一体グレンはそんな情報どっから入手してくるんだ?
そんなこんなで道場を後にし一軒の御屋敷が見えてきた。
「で、でっけぇ……」
今までに見たことのない大きさの御屋敷だった。
グロリアでもこんなでっかい御屋敷は無かったぞ。
まぁグロリアは土地面積がグラティアに比べて狭いってのはあるんだろうけど。
どんだけ金持ちなんだ。
「あ、噴水まであるよ!」
「てか、都の中にまた都がある風に見えるよ」
「いけ好かないわ」
サラ、グレン、カエデがそう言った。
皆考えることがバラバラだな。
「じゃあお邪魔させていただくか」
俺が門に手をかけた瞬間だった。
『おい、何やってるお前』
何処からか声がした。
「何だ?!」
『何だじゃないだろ。予約はされているのか?』
辺りを見回すと門の近くにスピーカーと監視カメラがあった。
なるほど警備員か。
「いや、していないが」
『じゃあ、ダバス様に会わせるわけにはいかない』
そう言って通信が切れた。
ダバスって奴の御屋敷で間違いはなかったみたいだが。
「どうしよう。このままじゃ会えないぞ」
俺が何か良い案を考えようとした時、カエデが門を登りだした。
「おい、何やってんだよ!」
『こら!そこの小娘!捕まえるぞ!』
「お、出た出た」
何するかと思ったら、どうやら警備員を誘き出す為の行為だったみたいだ。
カエデは門から降りて警備員と会話をし始めた。
「あんた、どうしたら会わせてくれるのかしら?」
『はぁ?何だ一体』
「だから、どうしたらダバスに会わせてくれるのかしらって言ってるのよ」
『お、お前!今ダバス様を呼び捨……!』
その瞬間、警備員の言葉がいきなり切れた。
どうしたんだと思った瞬間、違う男の声がスピーカーから聴こえた。
『騒がしいと思ったら、何だ、お前か』
「お、その声。私からお宝買い取ってくれた人ね」
どうやらダバス本人が声だけのご登場のようだった。
はてさて、カエデはどうするのだろうか。