15.カエデの過去
真夜中のグラティアの広場。
月の光がグラティアの街全体を照らし、また俺とカエデをも照らす。
風により宙に舞った紅葉した葉が落ちてくる。
その葉が地面に着いたとき、カエデは語りだした。
「七年前ぐらいかな、私がまだ八歳の頃父とここで暮らしていたの。でもある日ここグラティアに帝都グロリアの人間がやってきた。グラティアのトップにグロリアの人間が座ろうとしたの」
七年前。
俺はまだ十歳の時だな。
「そいつはグロリアとグラティアで力を合わせてこの世界をもっと豊かな世界にしようとか言って当時の支持は高かったわ。そしてその時、私の父はそいつを支持し、配下についたの」
グロリアとグラティアの協力なんて初耳だな。
「最初は新しい試みで、実現するまで楽しみだった。しかしある時、そいつは裏で実はグラティアを乗っ取ろうと計画してたことを父が知ってしまったの。それを父が皆に危険だと知らせようと考えた。でも……」
二人の間にまた間が空く。
カエデが黙ってしまった。
「でも……何だよ」
「その事がグロリア側にバレて、証拠隠滅のために父は殺された……」
「何だって?!」
まさか、父の死にそんな理由があったとは…。
そしてグロリアの隠された裏事情。
てかグロリアは一体どうなってるんだ。
実際俺はまだ信じられなかった。
自分の住む街がこんな事を企んでいたなんて。
「私は毎日泣いていたわ。けど、泣いてばかりじゃ何も変わらない。死んだ父に怒られちゃうと思って私が父のやろうとしてたことをしたの」
「グラティアの危機を街のみんなに知らせることか」
カエデは無言で頷く。
「でも私がまだ子供だったせいか、誰も信じてくれる人はいなかった。だけどめげずに私は頑張った。でもこの事をグロリア側に伝える奴が出てきて私は捕まる前にグラティアを出たの」
「そして、あの小屋か」
「そう。わざわざ人に気づかれないように父が造ってくれていたのが幸いだったわ。そして何とか今日まで生きていくことが出来た。故郷を代償にしてね」
なるほどな。
だから帝都の人間が嫌いなんだな。
気持ち分からなくはない。
「はぁ。今さら何言ってるんだろう私。しかも、こんなバカに」
「ちょっ、バカって何だよバカって!」
ったく、何なんだこの女は。
「はぁ、じゃあ俺は先に戻ってるから」
俺は宿屋の中に戻った。
そしてドアにもたれ掛かった。
「ここもか。何なんだよ、本当に」
俺は深い溜め息をつき、部屋に戻った。
朝になり、俺たちは食事などを済ませ、早速形見探しをすることにした。
「さてと、何処から探そうか」
俺は辺りを見回した。
朝のグラティアには騎士の姿を少し見ることが出来た。
カエデの話によると、グラティアの人間はグロリアの人間が入ってきたせいでいろいろグロリアの都合の良い風に変えられ、住みづらくなったみたいだ。
それと、グラティアの中を歩いていても大丈夫なのかとカエデに聞いてみたところもう結構昔のことだし、当時の奴らはほとんど残ってないから大丈夫だろうと言っていた。
「しかし、本当にグロリアがやってんだな…」
「ん?どうしたのヤス?」
「あ、何でもないよサラ」
俺はなんとなく誤魔化した。
何かあったらカエデが説明するだろうと思ったしな。
「とりあえず、買い取っていった人は結構な富裕層な人なんでしょ?だったら、この街で金持ちの人を当たっていけば良いんじゃない?」
まぁグレンの言う通りだよな。
「それじゃあ、聞き込みと開始と行きますか。みんな、すまないな。手伝ってくれてありがとう」
「良いって!これがヤスの旅の目的だもんね」
「……今はこれだけじゃないけどな…」
「ヤス?」
サラが不安そうな表情で見てきた。
俺そんなに酷い顔してるか?
今にも死にそうみたいな。
「あ、サラちょっと良い?」
「ん?何?」
「今までに何か思い出したことあるか?些細なこととかでもさ」
「ううん。まだ何も…」
「そうか。早く戻れるように俺も頑張るから」
ありがとう、とサラは微笑んで俺に返した。
そして、俺たちは聞き込みを始めた。