14.紅の都グラティア
林道を歩いていくと徐々に葉の色が紅葉に変わってきた。
グラティアに近づいている証拠かな?
とても優美な光景だ。
そう思いながら歩いていた俺は重要な事を思い出した。
「そういや盗賊女。リマーニで船奪ったのお前だろ」
「ん?あぁそうよ?だから?」
だからって…、突っ込みたいことが山ほどあるがとりあえず置いといて…。
「そん時に見張りのおっさんを眠らしたのもお前か?」
「そうだけど、それがどうしたのよ」
「そのおっさん、その時の記憶が無くなっていたんだが、お前何をした」
そう言うとサラが俺の方を向いた。
ハッとした表情をしていた。
「別に大したことはしてないわ。とある薬草と薬品を混ぜて作った睡眠薬よ。刺激が強いから記憶が飛んだのかもね」
「ということは今までの記憶が全部消えるってことはあるのか?!」
俺は反射的に高々と声を上げて問った。
声が大きすぎたか。
皆びっくりしていた。
「今までの記憶ってのが曖昧でよく分からないけど、いくら刺激が強いからと言っても消えてせいぜい一日分ってとこじゃないかな」
そうか。
じゃあ、サラの記憶喪失とはたいして関係無いかもな。
「それに!」
次は盗賊女が声を高々と上げた。
「私は盗賊女じゃない!カエデって名前がちゃんとあるんだから」
いきなりの自己紹介だな。
カエデね。
「分かったよ、盗賊女」
「全然分かってないっ!」
俺とカエデは睨み合う。
「二人とも落ち着いて!」
サラが俺とカエデの中に入った。
そして、カエデに体を向けた。
「私はサラ、よろしくね!」
サラはカエデに手を出した。
「よ、よろしく」
二人は握手を交わした。
そしてグレンも近寄ってきた。
「俺はグレン、よろしく」
グレンとも握手を交わした。
そしてサラが俺の元にやってきた。
なんだ?
「そして、彼がヤスです!」
「お、おい!」
自己紹介ぐらい一人で出来るって。
そんなこんなで自己紹介を済ませた俺たちは再びグラティアへと向かった。
午前にリマーニから出港し、いろいろあって夕方。
やっとグラティアに俺たちは着いた。
「うわぁ~♪」
サラが目を輝かせていた。
いや、皆と言った方が良いだろうか。
暗くなっていたお陰で、街は電灯でライトアップ。
そこに街全体の紅葉した木が光に照らされていて、風流な光景がそこにあった。
「これは想像してた以上だな」
「あぁそうだね」
グレンと一緒に感動していた俺だがカエデの表情が少し暗くなっていたのに気がついた。
「盗賊女、どうした?」
「別に、どうもしないわよ」
あれ?
盗賊女って言っても怒んないな。
何かあったのか?
……仕方ない。
「よし、とりあえず今日は宿屋に行きますか」
「あれ?あんた、お母さんの形見は良いの?」
「もう暗くなってきたし、何より朝からいろいろあって疲れたからな。それに腹減ったし」
「何それ、まぁ良いわ」
やれやれ、俺もらしくないな。
そして俺たちは宿屋に向かった。
夕飯を済ませ、俺たちは明日のために眠りにつく。
その夜中である。
皆と同室で寝ていた俺はドアの開け閉めの音で目が覚めた。
見渡してみると、サラ、グレンはいて……。
カエデの姿が無いのに気がついた。
俺はベットから体を起こした。
そして、俺も部屋から出た。
宿屋の外に行くとカエデが宿屋の前の広場で空を見上げ立っていた。
何故か寂しげな様子だった。
「こんな時間に何してるんだ?」
「誰?!……って、あんたか」
カエデに声をかけた俺は宿屋の壁に寄りかかった。
「ただ昔の事を思い出してただけよ」
「昔の事を?」
「……私、昔はグラティアに住んでたの。父と一緒にね」
カエデが寂しげな口調でしゃべった。
しかし、昔はこんな綺麗な場所、グラティアに住んでたのか。
しかし、何で今はあんな小屋に住んでんだ?
俺は質問してみることにした。
「なぁ、何で今はあんなところに父さんと住んでんだ?」
そう言うとカエデとの間に少し間が空いた。
そして、背を向けて立っていたカエデは俺の方に体を向けた。
「父はもう死んだわ」
その瞬間、風により紅葉した葉が宙に舞った。