12.洞窟の主
時が止まったのかと思うくらい静かな時が流れている。
セミロングのブラウンの髪に緑眼の瞳。
やっと見つけた盗賊女と睨みあっているのだ。
そして盗賊女の表情が変わった。
何だか考えているようだ。
「おい」
「あ、ごめん。えっと、あんた誰?」
俺はこの言葉を聴きイラッとした。
「帝都でぶつかってきて、その時にネックレスを奪ってたのはお前だろ!」
そう俺が言うとまた間が空く。
ネックレス、母さんの形見のことだ。
ネックレスと言ったが、それは指輪をチェーンに通した物であり、まぁ指輪が形見の本体である。
「あぁ、そういえばそんなことがあったような無かったような」
盗賊女は覚えていないのかあやふやに答えた。
が、盗賊女の表情からして本当に記憶が曖昧みたいだった。
尚更むかつくぜ。
「ごめんねぇ~?私そういうの覚えてらんないの。つか覚えてたらきりないし……」
盗賊女のその言葉を聞いた瞬間だった。
「「ヤス!」」
はっ!
俺はサラとグレンに両腕を掴まれていた。
そして俺は右手に剣を持っていた。
無意識のうちに剣を抜いていたのだった。
「ご、ごめん。熱くなりすぎた」
「………なるほど、そのぐらい思い入れのある物だってことか」
「あぁ、母さんの唯一の形見なんだ」
しかし、盗賊女の顔は険しかった。
「ねぇ、何で私があんたから物を奪ったと思う?」
「え?」
俺はいきなり質問をされた。
俺を狙った理由だと?
「それは、あんたが帝都の人間だからよ」
「俺が帝都の人間だから?それは一体…」
「帝都の奴らは、私たちよそ者のことを陥れ、利用し、そして……」
そして?
盗賊女の口が止まった。
その時だった。
「ヤス!」
「え?」
サラが叫んだ。
俺は後ろを振り向くとサラとグレンの奥にばかでかい魔物がいた。
そいつは龍みたいな姿をしていた。
「まずい、ここの洞窟の主、ヒドラ!」
盗賊女の顔がひきつっていた。
主って、ヤバイんじゃないか?!
「逃げた方が良いよな」
「当たり前でしょ!よりにもよって主と出会うなんて、もう最悪!」
俺たちは走り出した。
もちろんヒドラも雄叫びをあげて追ってくる。
はは、いきなりあげられるとびっくりするぜ。
逃げる俺たちだがヒドラもしつこく追っかけてくる。
しかも悪いことに距離が縮まってきた。
こりゃ結構ヤバイぞ。
そして走り続けると少し広い間に辿り着いた。
そこで俺は足を止めた。
「ヤス?!どうしたの?!」
サラが叫んだ。
「サラたちは逃げろ!ここは俺に任せろ!」
「何言ってんのあんた!相手は主よ?死ぬわよ?!」
知ってるよそんなの、でも全滅するわけにはいかねぇだろ。
俺は剣を抜いた、そして主に構える。
「かかってこい!」
ヒドラは俺の目の前で止まった。
改めて見ると結構気持ち悪いやつだな。
「俺が相手だ!」
そう言って俺は斬りかかった。
しかし、軽々触角みたいな物で受け止められた。
「うっ!?」
そしてもう片方の触角のような物ではたき飛ばされた。
「へへ、イテェ」
それでも俺は立ち上がり再び斬りかかった。
「ぐはっ!」
しかし次は地面に叩きつけられた。
くそっ、さすがにこれを何回も食らったら死ぬぜこりゃ。
その時だった。
「罪犯しき哀れな者、神々の怒りに触れるもの」
なんだ?
どこからか声が聞こえた。
それは詠唱のようだった。
「我が呼び声より目覚めし無慈悲な審判を下す奈落の王の処罰を受けよ!」
するとヒドラの下に魔方陣が描かれていて、毒ガスと思わせるような煙が噴き出し、頭上に集まっていた。
「パニッシュメント!!!」
その瞬間、煙がヒドラを縄のように縛り上げ、地面から無数の黒い剣がヒドラの身体を突き刺し、最後に頭上に溜まった煙から黒い稲妻が轟音と共に落ちた。
そしてヒドラはその場に倒れた。
俺はすぐさまその声がした方を見た。
すると一人の男が立っていた。