11.塞翁が馬?
優雅なクルージングを楽しむって訳でもないが、のどかな船旅をしたかったな。
などと、そんな悠長なこと思ってる場合ではなかった。
「しつこいなっ!」
俺は船にぴったりついてくるサメ型の魔物と交戦中。
「ヤス!舵切るよ!」
うわっ!
グレンはそう言ってすぐに舵を切った。
あぶねぇ、下手して海に落ちたら冗談じゃすまないな。
「あっ!ねぇ、あそこ!」
サラが指を指していた。
指差す方を見ると砂浜が見えた。
つまり隣の大陸までついに来たのだった。
「よし!あの砂浜に船を停めるぞ!」
「分かった!こっちは任せろ!」
魔物が横から攻めてくる。
それを俺が棒で追い返す。
最初はどうかと思ったが案外相手に効くもんだな。
砂浜まであともう少し、もうひと踏ん張りだ。
その時、魔物が離れていった。
何故だと思った瞬間だった。
「おっとぉ?!」
船が激しく揺れた。
しかも何か引きずるような音もした。
「どうやら浅瀬に入ったみたいだ」
浅瀬、だから魔物が追いかけてこなかったのか?
「って船大丈夫か?速度は落とさないのか?」
グレンにそう問いかける。
するとグレンは苦笑いしながらこう言った。
「ブレーキが効かない」
はは、なるほどね。
因みに砂浜までもうすぐのところだ。
となると………。
「みんな!どっかに掴まれっ!」
俺たちは咄嗟に船に掴まる。
次の瞬間、船は勢いよく砂浜に乗り上げた。
そして船は先程と比べ物にならないほどひどく揺れた。
数十メートル砂浜を進みようやく止まった。
んで俺はと言うと…。
「ヤス!だ、大丈夫?」
「あ、あぁ。何とかな…」
船から放り投げ出されて砂浜に落ちていた。
はは、情けねぇな。
「どこも怪我してない?!」
サラが慌て降りてきて俺の身体を心配そうに見る。
「ありがとな。本当に大丈夫だから」
俺は立ち上がって笑った。
サラは安心した顔をした。
そしてグレンも降りてきた。
「みんな無事みたいだね」
「あぁ、でもここはどこだ?これからどうする?」
「あそこに洞窟があるよ?」
サラはそう言った。
辺りを見渡すと確かに洞窟があった。
洞窟か。
入っていけばどっかに出れるかもな。
「仕方ない。とりあえず入ってみますか」
そして、船を一旦砂浜に置いて洞窟の中を進むことにした。
洞窟に入った俺たちは何事もなく進んでいた。
「そういや。なぁグレン、今向かってる街って何て言うんだ?」
「あれ?言ってなかったか。グラティアって街だよ」
グラティアか。
一年中紅葉してる街なんてあったんだな。
全然知らなかったぜ。
そんな事を考えながら進んでいると分かれ道に辿り着いた。
「どっちかな?」
さてとどっちだろうか。
どっちか進んで行き止まりとかは嫌だぞ。
その時、片方の道の奥から魔物の喚き声が聞こえた。
騒がしいな、仲間割れでもしてんのか?
と思ったその瞬間。
「ん?今何か……」
魔物の喚き声と一緒に微かに人の声も聴こえたのだった。
何故こんなところに人が?
てかもし襲われてたとしたら大変だ。
「よし、声のする方に行ってみよう」
俺たちは走り出した。
魔物の喚き声も大きくなってきた。
一体何が起きてるのだろう。
その時、目の前にいきなり閃光が走った。
それと共に魔物の声が止んだ。
何がどうなってやがる。
そして俺たちはその場へ辿り着いた。
そこには一人の女の子が立っていた。
横には魔物が倒れている。
それも結構大きいイノシシ型の魔物だった。
「誰だ?!」
その女の子はこちらを向いた。
「あ、いやその、人の声が聴こえたから来たんだけど………って」
俺は目を疑った。
そしてもう一度目を凝らして見た。
その女の子はどっかであった感じがしたからだ。
「お、お前は!」
「ん?何あんた?」
「何って……、お前、忘れたとは言わせないぜ」
サラとグレンは何がなんだか分からないという顔をしていた。
そりゃそうだ、だってこいつは。
「帝都で盗んだ俺の大切な物、返せこの盗賊女!!」
そう、帝都で俺の母さんの形見を盗んだ盗賊女だった。
ようやく見つけたぜ。
返してもらうだけでは収まりきれそうにないこの気持ちをどう落とし前つけてくれるんだ?
そして俺と盗賊女は睨みあっていた。