10.いざ、隣大陸へ
海に出る時、必需品と言えばなんだろうか。
飲み水や食料品なんかはもちろんのこと、紫外線対策に帽子やサングラスなどもあったら良いだろうと思う。
しかし!
もっと大事なのは!
「ロマンだっ!いや、ロマンさえあれば他に何も要らないぞ!ハッハッハ!」
「………………」
そう、俺たちは海に出るため必要な物を買いにリマーニの市場にいるところだ。
「海、それは男のロマンで……」
「あ、もういいです……」
「ん?何だ、せっかく今から良いところだったのにな」
とまぁ必需品は何かと市場のおっさんに聞いてたわけだが、どうやら聞く相手を間違えたみたいだな。
「まぁ、長く乗ってる訳じゃないし、飲み水と食料ぐらいで良いか。なぁ、サラ………って」
さっきまで一緒にいたはずのサラが少し離れた人だかりの所にいた。
人だかりの向こうを見ると……。
「またか」
この顔を見るとまたあの事を思い出してしまうな。
そう、またビバッチ似の奴が前屈みで腿上げ。
これは何なんだ。
芸なのか?
しかも、見てる人はみんな腹抱えて笑ってるし。
ここの人たちにとってはこれがツボなのか?
「お~い、サラ~、行くぞ~」
棒読みで呼ぶ俺。
サラが気がつき帰ってくる。
「ごめんごめん!」
全く、アレのどこが面白いんだか。
とりあえず、飲み水と軽い食料品を買った俺たちはじいさんの小屋へと戻った。
「お~い、帰ったぞ」
「…………」
俺は小屋の前にいるグレンに言ったが反応がなかった。
グレンは俺の声が聞こえてないほどに何かの紙に見入っていた。
「グレン?なに見てるのかな?」
俺とサラはグレンの後ろから紙を覗く。
舵の取り方……、どうやら船の操縦法が書かれた紙みたいだ。
これもじいさんが書いたのか?
やっぱり分かりやすく書かれてるな。
そう思いながら眺めてると、やっとグレンが気付いた。
「あ、二人ともお帰り」
「どうだ、船の操縦は出来そうか?」
「あぁ、ゲンさんのお陰で何とかなりそうだよ。」
ん?ゲンさん?誰だ?
するとグレンは察したのか慌てて言った。
「あ、ゲンさんってのはあのおじいさんの名前だよ」
なるほどね。
にしてもゲンか、よくある名前だな。
「今頭の中でわしの名前のことで変なこと想像してたじゃろ」
うわっと。
じいさんが小屋裏の船着き場から戻ってきた。
「まぁよい。それと船はもういつでも出せるぞぃ」
よし、全て準備が整ったようだな。
しかし、俺はここに来て緊張していた。
感情が交差していたのだ。
簡単に言えば期待と不安で胸がいっぱいであった。
「どうしたのヤス?」
サラが俺の顔を覗く。
「船楽しみだね!」
そう言ってニッコリ笑うサラ。
俺はサラの笑顔を見て少し緊張がほどけた。
ありがとな、サラ。
「よし、それじゃあ行きますか!隣の大陸へ!」
「おー!」
「うん!」
そして、俺たちは船に乗った。
するとじいさんが見送りに来た。
「今までありがとな、じいさん。船借りてくぜ」
「あぁ、返すのはいつでも良いからの」
「え、良いのか?」
「あぁ良いとも。別にわしは使わないからの。じゃあ気を付けての」
そう言って、じいさんは小屋に戻ってった。
何だかんだ言って良いじいさんだったな。
そして俺たちは海に出た。
船初体験で表には出さないがやっぱりテンションが上がる俺。
海を眺めるサラ。操縦するグレン。
潮風を感じながら海を進み良い出だしだった。
しかし
ガンッ!
船は何かにぶつかった。
というより何かがぶつかってきた。
まさかまた厄介事か?
旅に危険は付き物というが、少しはゆっくりさせてくれってんだよ。
俺は恐る恐る船の下を見ると海面から背ビレが見えた。
サメ型モンスターだった。
「マジかよ」
その瞬間船がグラッと揺れた。
「くそっ!」
するとグレンは舵を一気に違う方向にきった。
「おい、グレン大丈夫か?!」
「このまま進むと船が壊される。仕方ないけどルート変更だ!」
隣の大陸の港町に行く予定を変えざる得ないか。
まぁここで死ぬのは元も子もないからな。
そして俺たちは船の上で棒などで応戦しつつ一番近い停留場を目指した。