第55話【ここから始まる世界大戦】
そして僕を見つめる目が氷の様に冷たい。
それでも笑みの形の口は、
「会長、彼が真壁秋です」
と、隣のメガネの男子にそんな事を言った。
「ああ、そうか、そうなんだな」
と言ってから、その男子は、入り口付近にいる集団から離れて僕の方に来て、
「初めまして、私は長尾 浩史、札幌生徒会組合の人間だ」
というと、さっきから殺気をダダ漏れにしていた、隣の女の子の殺意というか敵意というか害意が治る。いや無理して引っ込めてる。
「気配は工藤真希くらいしかなかった、あとはダンジョン全体に広がる独特な気配、隠れて何を狙ってるの?」
とか聞かれるけど、狙うも何も、僕はこの状況に驚いているだけの単なるダンジョンウォーカーなんだけどなあ。
「やめないか! どうした二肩君、君はそんなに乱暴な人間じゃないだろ?」
一瞬、ただならない気配を全開にするその、二肩って言われた女の子と僕の間に。メガネの生徒会長組合の会長が入ってくれる。
度胸あるな、今のが本気のこの子の意識なら、敵と味方を判断すれば、この子周りのことなんて考えずに躊躇なく殺戮を開始する様な気配があった。こんな生臭い殺気なら、普通の人だって、いや、何の抵抗力を持たない人なら叫び出してもおかしくはない。だからちょっと感心した。
「会長、そこを退いてください!」
「ダメだ、彼に話をするなら僕の背から話しかけてくれ二肩君」
二肩……、どっかで聞いたことあるなあ……。
あ、多紫町の人???
「二肩って多紫の人?」
って尋ねると、一瞬、憎しみの表情に、
「チィッ」
って小さな舌打ちが聞こえた。言ったらまずかったかな? 会長さんには秘密だったとか? なら先に言ってよ、僕、この前、コンビニのバイトの件で薫子さんにガッツリ怒られてるんだから、そんな風に空気なんて読む技術ないから……。
それでも、彼女の立場を悪くしてしまった気がしたからさ、いやあ、なんかごめんとは思うけど、なんでこんなところにとも思う。
それに、僕、彼女の事を蒼さんから一欠片も聞いてないし、これは一体何だろうとは思ってる。つまり、この現状について、ちょっと違和感を感じてる。
こういう方面では僕、空気とか読めるんだよね、だからこれは危険な状態だとも思ってる。
そんな燻げな僕に、
「真壁さん!」
と声をかけてくる細マッチョのイケてる人がいた。
ん? 誰だろ? って顔をジッと見るんだけど、ダメだ思い出せない。
きっと今までの僕の人生に深くは関わってこない人だから、その後の登場人物によって僕の対して広くもない記憶の広場から押し出されてしまった人だね、そう言う人って意外に多くてびっくりするよね。だけど相手は覚えてるんだ。
「ほら、俺ですよ、札雷館でお会いしてます、覚えてないですか? ほら、学生格闘家なんて、軽い足取りで殲滅してくれたじゃないですか?」
あ、やっぱり。って思った。
全く記憶にない、と言うかその状況でその出会いなら、もう記憶の片隅にも残ってない。
春夏さんと混ざってない今ならどうかわからないけど、もうそう言う人って、一期一会だよ、いつも初対面の対応でいいと思うから、記憶してない。
こういる時って、不思議と笑顔になるよね、割といい笑顔だよ、なんでだろ?
そんな僕の振る舞いを見て、
「佐久間 明ですよ、空手家です」
ああ、うん。てなる。
そして、その佐久間さんは言うんだよ、
「真壁さんも、この決起に参加したんですか?」
って言うんだ。
?????
状況と、彼の言ってる事を理解できない僕に佐久間さんは更に告げるんだ。
なに? 決起って?
佐久間さんはさらに続ける。
「俺も、こうして外国の軍隊がせめて来るまでは話半分くらいでした、でも実際こうして攻めて来られてる訳だし、本当だったなあって、ちょっと驚いています」
とか言うんだよ、話を聞いていて、この人もまた年下の僕に敬語なんて使って来る人だなあ、って思うんだけど、今はそんな話じゃないよ。一体それはどう言う事?
「この北海道は、各国に分割統治されるって話ですよ、つまり、ここはこの国から切り離されるって話です」
って佐久間さんは教えてくれた。
初めて聞いたよ、そんな話。
にわかに信じ難いけど、実際はこうして、他の国の兵隊さん達きてるしなあ、いつの間にそんな話になったんだ?
とか聞きたかったけど、今はそんな時でもないしなあ、それにこう言う事を聞くのは、もっとこの決起の中心にいる人に聞かないとだよ。あと、葉山とかも一回家に帰ってるから、その辺の事情をどっかから仕入れて来るかもしれない。特に蒼さんも珍しく顔に驚きみたいのも出てたから、一人で血気に走らないで欲しいけどとは思ってる、ってか止めればよかった。
でも、今現在、4丁目ゲートを包囲している、いろんな国の軍隊がいるんだけど、手を出してくる気配もない。
でもさ、この人たち、みんな北海道ダンジョンを敵だって決めつけてるから、ちょっと、いや、かなりイライラしてる僕なんだよ。