第54話【やがて堕ちてくる異世界】
真希さんはできの悪い生徒に、懇切丁寧に教えてくれる。
「いいか、アッキー、このダンジョンの価値を考えてみるべ、無尽蔵にしかも減らない、完全リサイクル可能な物質でエネルギー、しかも人の生命まで関与できる力だよ、一国が、管理するには問題があるって言われるのは時間の問題だったんだ」
何を言っているのかと思うので、
「いや、それなら情報を開示してたじゃない、海外組のダンジョンウォーカーだって致し、みんなどの国も条件は一緒だったよ」
すると真希さんあどこか力なく笑って、
「だからこそなんだべ、1カ国だけが独占してその力を手に入れている、もちろん、こっちだって好きでここにダンジョンを置いている訳ではないべ、でも、他からは、外からはそうは見えなかった事だべな」
とか言う。まあ、それは国を人に置き換えてみればわかりそうなわからないような、というか、人と国を同列に置き換えてみるのは危険だよね。特に油断に繋がるような考え方は決して単純ではない複雑怪奇な事象や現状を単純にできないこともあるから、一般にはやっぱり当てはまらないと思う。
結局、国は国、人は人なんだよ。
だから、まあ、こんなこともあるんだよなって、そう思う僕なんだ。
問題は、どう思うかとか何を考えてるのか、って事じゃなくて、何をされて、そのことについてどうしたいのかって事だから、今は静観でいい。実際動くのは外で何かが起こってからでいいと思うんだ。
そんな事を考えていると、真希さんが言うんだよ、
「まあ、このダンジョンが世界に向けて開示されるのはいいけどな、どうもそうじゃなくて一部の勢力が、今の世界の現状の改変と、それ以上に富を得るためっていうなら、ここは無くす方向でないとならないべ」
なんて物騒な事を言い出す。
そして、真希さんは決意を秘めた顔で、今まで決して僕の前で見せたことのない顔して、
「人類が介入する前に、全部無くしてしまう為の、そのための力は、私に与えられてるんだ」
と言った。
「いや、それはやめてくださいよ」
と速攻で言った。本気で、と言うか、彼女なら本当にやりかねない、いや出来そうなだからさ、ちょっと怖くなった。それに僕はダンジョン無くすなんて方法は例えばそれが最後の手段であっても取りたくはない。
それによって、北海道ダンジョンがなくなるんだったら、このダンジョンが全世界の敵に回ってしまうなら、僕は一緒にいる。僕も世界を敵に回すよ。仕方ないじゃん。
「そんな顔するなよ、それは本当に最後の最後だべ、流石に人間もそこまで馬鹿ではないって信じてるべさ」
って、言い出しっぺの真希さんに慰められる始末だよ。
でも、まあ、どんなに頑張っても、どれほどの戦力がここに来ても、結局はこのダンジョンの中になんて、兵隊さんは入ってこれないから、このまま地上からここを見守ってくしか手立てはないはずなんだけどね。
それでも、自衛隊みたいに白馬さんとか、学生と兵士を上手に熟す人がそれなりの部隊を組んでくれば、ここへの侵攻は可能になる。
でも、自衛隊の人達を見てもそんな数もいなさそうだし、それに、多分、未成年を戦場に駆り出すなんて、倫理とか世界の常識とか言われる機関が許すはずもないからさ、その辺は安心してるけど、だからこそ不安もまた残るんだよ。
「そうだね、手に入らない物に対する、臆病者のやり方は最初から決まってるからね」
と、真希さんはこの部屋の天井を見上げてそんな風に言うんだよ。
その目はもっともっと遠くを見つめてる、そんな気だするんだ。
そして、今の現状で僕が世界を敵に回せるかと言うと微妙なんだ。
勝てもしなくても守るだけならできそうな気もするんだけどね、ここには大人は入れないし。つまり軍隊はどう頑張っても入ってこれない。
それと問題もある。
割と深刻なヤツ。
ほら、僕、今まではかなりの数のスキルとか保有してたんだけど、今はそれはないんだ。
今回、混ざった部分がなくなってしまって、一応は残していったのかな、って思ってはいたんだけど、今、本当に空っぽみたい。
僕の中に、僕もいないし、そのスキルの片鱗も感じられないんだよ。
その僕の中の僕については、あれも結局、春夏さんの一部だったわけだけど、だから、混ざっていた所がなくなって、中にあったスキルも何もかもがなくなってしまったって感じなんだよね、と言うかそれも含めてダンジョンに戻って行ったと言った方が適切かもしれないんだ。