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第52話【願いは叶えられ、世界はあるべき姿に回帰する】


 そう思うと、いや、もうこの時点で僕と春夏さんの心はだいぶ混ざっていて、だから意識なんて壁もなく開通状態で、


 「本気か、それとも嘘なのかわからないけど、彼女は最後にそう思ったのは事実よ」


 と春夏さんは言葉に出して言った。


 そして、


 「よかったね、これで本物の春夏は蘇る」


 と言ってから、心の声が漏れる。


 「だから、偽物の春夏は退場ね」


 そう言って、 


 「ありがとう、秋くん、楽しかった」


 最後に彼女は言う。


 「私は、あるべき姿、あるべきこのダンジョンに戻るわ、またかつてみたいにどこにもいて、どこにもいないものになるの、もう間も無く落ちてくる異世界に対応して行くことに集中するから、この世界、北海道を守りたいの、だから、きっと前みたいに話はできないけど、でもいつでもここにいるから、いつでも秋くんを見てるから」


 と言った、そして最後に、お父さんとお母さん、みんなによろしく見たいな事を言われて、僕の手をギュッと握る春夏さん。


 僕が何を言う間も無く、この時に最後に僕の耳に入ってきた言葉は、ありがとうでも、さようならでもなく、『大好き』って言う一言だった。


 僕に抱きついて来る春夏さん、その体にもう力は無い。


 「え?」


 って間抜けな声が出てしまうほどの呆気ないお別れ、で終結。


 多分、今は意識の無いこの体に春夏姉ちゃんは蘇ってくる。


 そして僕は歩いて、てくてくと歩いて、春夏さんをおんぶして、ダンジョンを出た。


 どこをどう歩いて、そして長らく話していた場所がどこだったかなんて覚えてなくて、いやあ、なんだよ、僕、割とショック受けてるじゃんって思って、それがおかしいけど笑えなくてさ、そのままダンジョンを出る前に、真希さんがスライムの森の階段の出口付近にいて、


 「ご苦労さん、ありがとうな」


 とか言うんだよ、ほんとやめて、まだ僕は春夏さんの約束を果たしてないから、


 交換した約束は、


 春夏さんは春夏姉ちゃんを蘇らせてくれる事。


 僕は異世界をぶち壊す事。


 その交換条件をまだ満たして無いから、きっとこれからの事だから。


 外は雨が降ってて、僕が出ると、葉山とか蒼さんとか、割と多く僕の知り合いがいてくれて、そして、傘も差さずに、春夏姉ちゃんのお母さん、お父さんがいた。


 僕は、


 「もうすぐ蘇るって」


 と言ったら、明日菜さんはボロボロ泣いて、「ありがとう秋ちゃん、あの子は?」って言うんだ。


 明日菜さん、春夏さんの方の事を言ってるんだって思って、だから、「帰った」って言っておいた。


 お父さんの方は、雨が落ちてくる空を見上げてジッとしてた。


 でも、すぐに僕の背から春夏姉ちゃんを受け取ってくれた。


 うん、これでいいや。


 って僕は思って、そのまま、ダンジョンへ戻ろうとしたら、葉山が僕の手を取って止めるんだよ。


 「どこ行くの?」


 何すんだよ、って言おうとして、葉山の顔見て出たのが、


 「なんで葉山が泣いてるんだよ?」


 って言葉、


 「だって……」


 なんかすごい泣いてる。よく見たら蒼さんも。


 そっか、みんな悲しいんだね。


 でも、僕、ダンジョンいかないと。


 僕は葉山の手を解いて、そのまま向かおうとするんだけど、


 「私も行くよ」


 って言う葉山に、


 「いい、一人がいい」


 って言ってしまう。


 僕はブラブラとダンジョンの中に入る。


 さっきの場所に、真希さんの横に雪華さんと薫子さんもいるし、遠くの方にはギルドのみんなもいる。


 なんか、暖かく見守られてる気分だったよ。何も言わないから助かる。


 ああ、やっぱりダンジョンはいいなあ。


 僕はさ、特に何も失ったなんて考えてはいないんだ。


 なくなってなんてない。


 だって、北海道ダンジョンが春夏さんだから、いつでもいるじゃんって考えるんだ。


 それに、もう僕が彼女と交わした約束、『落ちてくる異世界』をやっつけなきゃだよ。


 やる事、考える事はたくさんある。


 あるんだけどなあ。


 でも弱くて情けなくて女々しい僕はどうしても考えてしまうんだよ。


 春夏さんがいなくなってしまったって現実が痛いんだ。


 笑えるのは自分がそう思う気持ちがさ、ショックが大きくて、力が抜けて行って足を止めてしまう。


 なんか誰もいないや。


 ちょっと休むつもりで、ここがどこかもわからないのに、僕は壁を背に座り込んで、膝を抱えて丸まった。


 泣いてない。


 泣いてなんていない。


 でも僕はこの日、春夏さんを失ったんだ。


 



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