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第48話【蘇り、期待外れに、裏切られた想い】

 だから、ここにいるのは抜け殻だけの春夏姉ちゃん。


 普通に立っている、そして息もしているのに、何より心臓も動いているのに、でも、それはただの人形で、中身の無い春夏姉ちゃんなんだ。


 精巧に、一部の間違いも無く、確実の春夏姉ちゃんは造れた。


 僕の目から見て間違いなく春夏姉ちゃんだ。


 でも違う。


 何かが違う。


 すると、彼女は、言うんだ。


 「だめね、やはり生命が灯らない……」


 そして、


 「せめて、意識の続き、彼女がどこまで生きて、これからどう生きようとしていた思念のかけらでもあれば、彼女の心を掬い取る事ができたかも知れないのに」


 と、とても悲しそうにそう言うんだ。


 当時の僕には彼女の言う意味なんてわからなくて、ただわかるのはともかく春夏姉ちゃんは生き返らないって事だった。


 その時の僕のガッカリ感ときたら、それはもう、死にたいくらいのものだった。


 まるで落ちて行く感覚があった。


 その落下を止めてくれたのは、また、あの彼女だった。


 僕はどうしてか、女の子なってしまったダンジョンの意識、心が僕にこう言った。


 「動いたりはできるの」


 それは一過性で安心を僕に与える為の誤魔化しみたいな手段だったのかもしれない。


 それでもその効果はバツグンて、一瞬で僕の心に希望と言う火が灯る。パッと、っと明るくなった。子供みたいに単純に喜ぶ、まああの時の僕はまごうことんかう子供なんかけどね。


 「本当に?」


 小さい子供の様に喜ぶ、と言ってもあの時点で僕4歳だから、こっちもいいのか。


 「うん、秋くん、これなら出来る」


 と言って春夏姉さんは、かがんで僕の顔を覗き込み、踊るみたいにくるっと一回転して僕に言った。


 つまり普通に動き出した。


 微動だにしなかった春夏姉ちゃんの体が僕の目の前で動き出す。


 「春夏姉ちゃん???」


 僕は僕の目の前にいる春夏さんの形をした誰かに尋ねたんだ。


 「うん、この体に入ってみた、動かせる」


 と言った。


 そして、


 「でも春夏という人ではないのよね、偽物の春夏」


 と言った。


 でも、普通に春夏姉ちゃんが動く、そして喋る事が嬉しくて、


 「ううん、そんな事ないよ、春夏さんだよ、これ、春夏姉やんじゃなくて、春夏さんだ」


 と言った。


 その時はどうして僕もそんな事を言ったのかわからなかった。


 でも、僕は嬉しかったんだ。


 僕の為にさ、春夏姉ちゃんを蘇らせてくれて、動いて喋ってくれて、これ以上求めるのは、贅沢というものだよ、いいよ、もう、だって僕の目の前には春夏さんがいるから、これ以上ない春夏さんだよ。と子供の様な遠慮の仕方をしてしまっていた。


 まあ、あの時の僕は子供なんだけどね。


 だけど、これ以上を求めたら元も子もなくなるって言うか、また動かなくなってしまいそうで怖いってのもあった。だから今の奇跡が溢れてしまわないうちに喜んじゃえってのもある。


 「おい、いいべか? まさか、このまま春夏になっちまう訳じゃないよな? したっけ、このダンジョンの中でしかお前は春夏の中に入ってられないべさね?」


 と真希さんは言った。


 「そう、それは無理だわ、私は春夏の心にはなれないもの、彼女の欲望がわからないもの」


 と春夏さんは春夏姉ちゃんの口でそう言った。だからかもだけど、表情が伴ってないと言うか無表情なんだ。


 でも、それでも僕は春夏姉ちゃんが生き返ったみたいで、帰ってくれたみたいで、僕は彼女が中に入った春夏さんを見て喜んでいるんだ。


 こんなのに偽物なのにね。


 そして、春夏姉ちゃんの彼女は言うんだ。


 「まるで、そこに穴の空いた器にいるみたい、ここはダンジョンだからいいけど、このまま外に出ても私はこの体からこぼれ落ちてしまう」


 と彼女は言う。


 「死者の完全再生、そんなの無理だって前からもわかってたろ? これ以上はやめてやれよ、余計な期待はかえってアッキーには残酷だべ」


 と真希さんは言う。


 そんな真希さんの言葉なんてまるで聞いてないみたいに無表情な彼女は呟くように言うんだ。


 僕を見つめて、こう言ったんだ。


 本当に長い時間、彼女、つまり春夏姉ちゃんの中の彼女は僕を見つめて言うんだ。


 「待って、欲望を混ぜ合わせれば、あるいは…………」


 「何か言ってるべ?」


 怪訝な真希さん。


 「うん、秋くんは春夏を知ってるから、その人物像、だから秋くんから見た春夏の欲望を取り込めばあるいは……」


 「そんな事は出来ないべ、欲望だけ抽出できるわけないべさ、しかも本人じゃなくて、他人だぞ、知ってるとは言えな、つまり、アッキーの知る東雲春夏になる、それはも本人とは言えないべ」


 と言って、そして


 「それに全部混ぜてなんてできるわけないべ、アッキーだってどうにかなっちまう」


 と言った、と言うか叫んだ。


 「そうね、無茶ね」


 と彼女は言った。春夏さんの顔で、僕にとって絶望的な言葉を吐いた。


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