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第47話【虚ろな躯】

 ああ、春夏姉ちゃんだ。


 今、僕の目の前に春夏姉ちゃんがいる。


 僕の記憶から生成された所為なのか、道着姿だったのが微妙だった。


 でも喜びも一瞬だった。


 これは違う。


 なんか変な違和感、不自然さ。


 あれ? 違う、春夏姉ちゃん、見た目に優しそうで、こんなにおっとりと優しくはない。


 春夏姉ちゃんは、まず僕にあったら、固める、叩く、つねる、引っ張るをして来た後に。捉えて掴んで離さない。ほとんど僕を私物のように扱い嬉しそうに笑うんだ。


 もっと大胆で、豪楽で、少し、かなり怖いくらいだけど、それでも時々は僕には優しんだ。と言うか、僕はそう聞いている。


 お母さん、だから明日葉さんの話によると、秋ちゃん、つまり僕だね。その僕がいるときだけ、春夏姉ちゃんは、決して即死攻撃とか、滅殺とかガード不能攻撃とか出さないんだって。


それに彼女の行動範囲内にいて、骨が砕ける音も聞こえないのって僕くらいのものらしいんだってさ、それを見ている明日葉さんは、本当に普通の女の子みたいって泣くらしいんだけど、僕はその間、春夏姉ちゃんのホールドから逃げるのに必死だからさ、そんなの見てはいなんだけど。


 それでも東雲の道場では厳しくて、でも意地悪で、すぐに怒って、怒鳴っくるから、だから怖く、もう普通に逆らえないくて、て、でも時々は優しんんだよ、たまに偶然、僕の方が間違って勝つと、僕が負けるまで稽古やめてくれない、大人気ないって言うと怒るから、そんな傍若無人な一面を持つ僕の知る春夏姉なのに、見た目は同じなのに何か違う。


 そんな僕の意識を掬って、彼女は、 


 「違うのね……」


 再び彼女は考え込に一時置いて、


 「彼女の『欲求』……だから『欲望』がわからない」


 と呟いた。


 彼女いわく、欲望の無い肉体なんて、単なる肉の人形に過ぎなくて、それは心の形を表す、人が行動するその人の倫理であり哲学なのだそうだ。


 意味はわからないけど、なんとなくわかる気がするのはこうして事実を目の当たりにしているからだろうと思う。


 それでも僕は、当時の僕は喜んでしまう、嬉しさがこみ上げてくる。


 毎日会う春夏姉ちゃん、いつも見る春夏姉ちゃん。


 それがここにいる。


 僕は今にも喜びで弾けてしまいそうになる。


 春夏姉ちゃんが生き返ったんだ。


 今、こうして僕の目の前にいる。


 でもそんな喜びもつかの間だった、ここにいることに満足する僕は今の現状にすぐに不安になるんだ。だって、春夏姉ちゃん、まるで動かない。人形みたいだ。あの凶悪なオーラが出てない。


 つまり、中身の問題かな、ほら人って外観より中身が問題じゃない。概ね、そうだよね、で、今もまた、そういう問題に質は違うけどぶち当たった感じが止まないんだ。


 いわゆる、その問題となる中身が無い、つまり心ってのかそういものを全く感じなかった。意思が、春夏ねちゃんの意識がないんだ。空っぽなんだよ。


 でも、それでも嬉しかったよ。いないよりマシじゃんってそんな積極的で消極的な思いがあったのかも知れない、なのに、真希さんの心無い一言で僕が一縷にしがみ付くような希望も一蹴されてしまう。


 「ほれ、やっぱりダメだべ」


 真希さっはガッカリした様にそう言った。僕の心も、ちょっと安心した気持ちを壊してしまうような一言だった。


 いや、もちろん真希さんは本当の事言ってるだけで、真希さんが悪い訳じゃないんだけど、ほら、当時、僕、子供じゃん、だからなんでそんな余計なこと言うんだよってなるんだ。


 もう理不尽なくらい真希さんが悪い人って思えたんだ。


 でもさ、現実は真希さんの言う通りなんだ。


 結局、人の形はできた。


 でも動かない。


 この結果を彼女は僕にもわかりやすく教えてくれた。


 このダンジョンの意思は、人は造れるけど、そこに意思を、つまりは生の命をのせることまではできなかったんだ。


 いや、正確には、生命はあるんだけど、その命は然るべく方向性がないと命の形をなさない、と言うか動かない、命が働かないと結局は体も動かない。


 つまりね、命には必要不可欠なものがあるんだ。


 彼女が言うには、


 『欲望』が無い。


 つまり彼女が自意識として動くための、命が命として働くための、そうだね、燃料みたいな物がないそうなんだよ。


 人間が、生き物として活動して行くためには、そこには活動原理が必要で、それは欲望なんだ、その欲がないと人は動かない、ただの木偶人形なんだ。


 僕たちは、人間は皆『欲望』を持ってる。


 どんな小さなものでも例え、受動態だとしても消極的だとして

も、そこにあるのは形を変えて、硬度を違えた欲望なんだ。


 それは、根元を辿れば生きているからこそ。欲求が根本にあって、その大きな欲望を働かせるためにはいくつもの小さな欲望がある。


 お腹減った、とか、休みたい、とか、眠い、とか、お肉食べたい、とか、喉乾いた、とか、概ね本能から始まってる。


 そして全部、それは欲望という名の行動原理であり根源で、僕らがみんな活動するための燃料みたいな物だって彼女は言う。


 その欲望の入っていない春夏さん。


 確かに生きてる。


 ちゃんと再生されてる。


 でも、彼女が生きることを続けようとする欲望が入ってない。


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