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第46話【北海道ダンジョンに出会った日】 

ああ、本当だ。僕、この声の人をどうしてか優しい女の子だって思った。そう決めつけてしまったみたい。


 「なんて事だべ、女の子になってしまったべ、こんなに簡単に、決まってしまうなんてな……」


 驚くと言うより、どこか嬉しそうな顔している。


 そしてしばらく考えてから、


 「なあ、アッキー、もっと話してみるべさ、この子にもっといろんな話をしてみるべ」


 とか言い出す。


 いろんな話をしろと言われても、ともかく僕はこの時点では、もう春夏姉ちゃんを蘇らせたい一心だったから、それが条件だって言うなら、と考えてみた。


 だから、


 「ジンギスカン鍋食べた……」


 何を話していいか、どう話せばいいのか全くわからない。だから僕の知ってる春夏姉ちゃんを話す。もっと話せって言う真希さんに、これだけはわかる、もっと聴きたがってる彼女がいるんだ。だから、僕は僕なりに言葉を、声を、音を出そうって必死で、でも話す事が何を伝えればいいのかわからなくて、


 と言った、そう僕は春夏姉ちゃんとジンギスカン鍋を食べた。


 僕はウニとか好きなんだ、でも春夏姉ちゃんは、


 「カニが好きなんだ」


 そして僕は北海道は春と夏が好き、秋は僕の名前だけどだんだん寒くなってゆくから嫌いで、でも春夏姉ちゃんは、秋が好きで、雪と冬が好きで、だから、


 「雪まつりが好きなんだ」


 そして、これは春夏姉ちゃんの事、春夏姉ちゃんは、


 「札幌ダンジョンが好き」


 北海道ダンジョンだよ、っていつも言い直してって言うのに、春夏姉ちゃんは、北海道ダンジョンを札幌ダンジョンって言う。北海道全体に広がってても、札幌に入り口があるんだから、といつも僕に言い聞かしてくる。


 そして僕も北海道ダンジョン大好き。


 そしたらさ、彼女は言うんだ。


 「あなたの言動と思考が理解できた、春夏はあなたの中にいる、再生できる」


 と言うんだよ。


 そして、彼女はこうも言った。


 「不一致が一つある」


 と、そう言った。


 そして、


 「あなたは、春夏姉ちゃんと呼ぶ個体の消失を知っている、目撃している」


 と言った。


 僕はただ呆然としていた。


 なんの話をしているのだろう?


 彼女の言っている事がわからなかった。


 その疑問を晴らすべく、彼女はこう言ったんだ。


 「春夏姉ちゃん、あなたがそう呼ぶ人物は、あなたを守るために消失、あなたの言い方を借りるなら、『死んだ』と言う状態になったのだから、それを見ていたあなたが、それを知らない筈はない」


 と、まるで僕の頭を覗き込むようにそう言ったんだ。


 まるで、見てきたかのように、そして最初から知っていたかのように、


 「確かに、どちらか一つの個体しか存在できない状況なら、あなたが残る選択は正しい」


 そうなんだ、僕は春夏姉ちゃんい守られたんだ。


 「あなたの中から春夏を抽出、ごめんなさい、適正に行われるように齟齬が生まれぬように、物理的にその記憶媒体の表面を削らせてもらったわ、今すぐ欠損した部分は新しいものに再生してあげる」


 あ、声が鮮明になった。


 「同時に私の受信体としての機能を持つ、どう? 秋くん、良好かしら?」


 彼女はそう言った。


 そして、


 「私は、そう、素体の集合体を司る意識、だから、あなたの言い方、認識通りに言うなら、きっとそうね…………」


 まるで考え込むように黙る、静かになる。


 そして、


 「私は北海道ダンジョン、そう、『頭脳』いえ『心』なのかしら。だから意思を持つこのダンジョンそのもの」


 優しい声、だから、安心する。


 僕はこの声、だから伝わってくるこの感情に、怖さとか嫌悪とかはまるでなかった。むしろ、僕に向かうこの感情を好ましく思った。


 おかしな話だけど、僕はこの人を昔から知ってて、この人は僕を昔から知ってるみたいな、錯覚。


 それは、当時の僕は適当に勘違いとかで済ませてるけど、彼女がこの地にやってくる以前から、僕たちの一族を知ってるのなら、それは当たり前の話なのかもしれないって、今は想うよ。


 僕が当時抱いた不思議な好奇心にも似た感情を彼女はこんなふうにまとめて告げる。


 「私に好意をありがとう秋くん、私もあなたを好きになる、そう形を整える」


 と言った。


 僕らの愛情はこうして創られたんだね。


 そうだ、僕はこの時初めて、あの春夏さんに出会った。


 正確に言うなら春夏さんの中の物。


 つまりは、人でもない、まして女子でもない、多分ただの意識。


 僕はあの日、北海道ダンジョンに出会ったんだ。

 

 


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