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第41話【さあ、ダンジョンに還ろうね】

 僕たちは今、4丁目ゲートの前にいた。


 いつものように、ダンジョンに行く。


 ちょっと違ってたのは、僕と春夏さんの二人きり。


 でも、今は葉山も蒼さんも薫子さんも、雪華さんもいるし、ゲートの中には他のギルドのみんなもいる。


 だから真希さんもいる。


 みんな見送りに来てくれたみたい。


 だからか、ちょっと遠いところに春夏さんのお母さんである明日葉さん、そして、お父さんもいた。


 なんかとってもシンミリな感じで、


 「本当にいいの?」


 って葉山が春夏さんに聞いていた。


 本当に自分が別れて行くみたいな顔して、心配そうに言うんだ。


 あ、葉山、今にも泣きそうな顔してて、


 「うん、そう言う約束だから」


 と春夏さんが優しく言い聞かせてた。


 そして、


 「じゃあ、秋くんお願い」


 って僕に言うんだ。


 うん、って思うけど僕の心は複雑で、思わず離れたところで、それでも僕らを見つめている明日葉さんとか見てしまうんだけど、春夏さんのご両親は揃って頭を下げてくる。


 わかったよ。


 声なんて聞こえないけど、その姿、その視線は僕に向かって、よろしく頼むって言ってるのがよくわかるんだ。


 「うん、じゃあ出発しよう」


 そう僕は言った。


 それが僕たちの交わした盟約。


 そして契約。


 春夏さんを、春夏姉を『生き返らせる』って言う僕と春夏さんが交わした約束だから、これは必ず果たさないといけないんだ。


 あの結婚式の後、僕の記憶は開示された。


 つまり、かつて何があって、どうしてこのような形になっているのか、その辺を全部思い出せた。


 とういうか、当時、僕、4歳くらいだったからさ、その時の記憶よりはもっと鮮明に、きっとこれは僕じゃなくて、春夏さんの記憶だ。


 言うなればダンジョンの記録。


 だから一瞬の陰りも無いし、曖昧さも無い。


 そうだね、これは僕から春夏さん、僕がそう呼ぶ『意識』にお願いした事だ。


 僕はそんな思い出を、まるで、自分のお気に入りの映画を見るように、まるで楽しむみたいに、鮮明に思い出していたんだ。

 








 幼かった僕。


 心に降り立っていたのは悲しい気持ち。


 雨のように涙が沢山。


 その日の札幌は御誂え向きに、雨が降っていた。


 北海道の雨って、霧みたいな雨が降るんだ。


 だから、あんまり慌てて傘を出す必要がない。


 軽くて、柔らかくて、優しい、それでも冷たい雨。


 季節によらず、夏に降る雨も嘘みたいに冷たい。


 それでシットリと、ゆっくりと服を濡らして体に染みて行くんだ。


 だからだろうか、僕はその日の感情を思い出していたんだ。

 そうだね、僕はこんな日に春夏さんを失ったんだ。


 いや正確には違うな。


 失ったんじゃなくて、失っていた事に気がついたんだ。


 その日、どこにも春夏さんはいなかったんだ。


 他の人はみんないるのに、どこを探しても誰に聞いても春夏さんがいない。


 ううん、違うね、今の春夏さんじゃなくて、僕の当時大好きだった春夏姉がいなくなってた。


 親戚で、従姉妹で、高校生のお姉さん。


 いつも母さんとは違う剣の稽古をつけてくれる。


 いつも僕の好きなものを持ってきてくれる。


 いつも僕の顔を見ると大きな声で笑ってくれる。


 そんな事を思い出してた。


 でも、急にいなくなってた。


 覚えているのはみんな黒い服と、そして今みたいな雨。


 みんな言うんだよ。春夏姉さんはもういないって。


 これは誰も知っていて、わかっていた事だって、そう言うんだ。


 でも僕はさ、納得なんてできなかった。


 だからその夜、札幌の街、ビルの中にある葬祭場を抜けて、僕はその日、一人で北海道ダンジョンに来たんだ。


 そして出会ったんだ。


 彼は僕よりもちょっと上くらいの歳の子供だった。


 汚い半ズボンに、汚れた手足。


 でも、やたらと強気な笑顔が印象的だった。


 ああ、そうだね、僕はあの時すでにあの人に出会ってたんだな。


 今の記憶を照らし合わせてようやく気がついた。


 その彼がね、こう言ったんだ。


 「このダンジョンに入れば、どんな願い事でも叶うぜ」


 そう言い切ったんだ。


 僕は尋ねた。


 「じゃあ、死んだ人も生き返る?」


 すると彼は言う。


 「ああ、だって、お前悲しいんだろ? それが嫌なら叶うさ」


 この辺の異質な感じ、会話というか僕のいう事に答えてない感がすごく強くて今も覚えてる、というか鮮明に思い出した。


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