第94話【シリカのノートは全てを映す】
あ、ノートだよ、彼女が取り出してる物って、数冊の普通のどこにでも売っているノートだった。
年季の入っているもの、新しいもの、こんなノートどこに売ってるの?って言うものまで様々な種類だけど、大きさはみんな一緒だった。
そして、そのノートを、比較的古いモノをペラペラと捲って、目的のページで止め、床に置いて、何冊かのノートを組み合わせ始めた。
僕はそのシリカさんの行動も驚いたけど、ノートに書かれている物に驚く。
「これ、地図ですか? ダンジョンの地図?」
僕はここで気がついた。
この人、シリカさん、『マッパー』なんだ、地図を作れる人。確かに戦闘向きな技能な人じゃあないね、でも探索探求には欠かせないスキルだよ。
「現時点のダンジョンのマップです」
と地図ノートを並べている事に夢中になっているシリカさんの代わりに角田さんが答えてくれた。加えて、
「このダンジョンの内部構造は全て『シリカのノート』で表現できます、捜索、索敵での捜査範囲は反則なくらいの規模です、人としての性能はアレですけど」
「じゃあ、シリカさんのカバンの中身って全部ダンジョンマップなんですね」
体に似合わぬ大きなカバンというのも納得できる。
すると、シリカさんは、マップに目を走らせることを中止して、こちらを見て言う。
「違います、半分はお菓子です」
と僕の勝手な推測を否定してくれた、ってお菓子かよ!
さらに、ウットリとした表情を浮かべて、
「素晴らしきは北海道銘菓です、石屋製菓の白い恋人、札幌タイムズスクエア、わかさいも、ロイズの生チョコ、富田ファームの生キャラメル、そして、空間を超える香りと果汁のホリの夕張メロンピュアゼリーは奇跡の甘未、さらに六花亭は全て網羅です」
美味しいよね、『北海道銘菓』、普通『名物に美味い物無し』なんて言われるお土産品だけど、北海道のお土産ってガチで美味いよね。あの見た目『ネタ』な姿の『マリモ羊羹』ですら、品質に拘り味の探求をしているから侮れない。
「私にとって、六花亭は第二の故郷です」
と言いながら、直ぐ側で、マップを覗き込んでいた春夏さんに何かを渡していた。あ、
『マルセイバターサンド』だ。大好きなんだね、でもシリカさん、残念だけど、どんなに好きでも六花亭には住めないよね。多分、六花亭の社員の人も迷惑だと思うよ。
いいなあ。って羨ましがっている僕の元にも来たよ春夏さん経由して『マルセイバターサンド』、うわ、ありがとう。
美味いんだよね、六花亭近くにないから滅多に買えない
けど。あ、デパ地下とかでも売ってるか、普段は行かないからなあ。
角田さんも貰っていたようで、4人で『マルセイバターサンド』をボリボリ食べながら、芳醇なバターの香とレーズンの甘さに幸せを感じながら、シリカさんの広げるノートを覗き込んでいた。
ものすごい細かい。もはや写真といってもいい。これ全部シリカさんが描いたんだとしたら、ものすごいよ、この人のマッパーとしての表現能力。
基本、マッパーって、地形とか空間把握の能力なんだけど、結構複合する能力っていうか技術美術の才能が問われる職種なんだよね。なんといても、場所を把握して、記憶して、表現できないとマッパーって言われないからね。
「シリカさんはダンジョンの地図、全部書いているんですか?」
気になったんで聞いてみた。
すると、シリカさんは、
「いえ、ダンジョンは、育ち、朽ち、流転します、全ての把握は不可能です」
ダンジョンって育っているの?
彼女の言葉が本当なら、それは衝撃の事実だよ、そんな事、何処にも、誰もギルドすら発表していない。
え? ちょっとどういう事? そのことについて、もっと聞こうと思ったら、
「秋くん、見て!」
と急に大声を上げて、口をあんぐりと開け驚いている春夏さんが僕の肩に捕まって、物凄い勢いで揺さぶりマップを指差す。