第36話【そして、いよいよ扉が開く…‥】
いや、だって、これ景品だよ。本当の結婚式って訳じゃないよ。まあ、ダンジョン特区の北海道なら結婚もできるかもだけど、法的な物もなくて、まして、お遊びの範疇だから、僕にその義務はないとは思うのだけれども、そこは、そうまで春夏さんのお父さんに言われている訳だから、
「春夏さんを、もらいます、すぐに返しますけど」
と言ったら、
「ああ、娘をやろう、すぐに返してもらうがな」
って言われた。本当にニマニマしてる。
なかなか話の通じる人で助かったよ。
そして、
「君がいなかったら、春夏もいるはずもないんだ、その辺には感謝している」
って言われた。
その笑顔がさ、とても昔に見た覚えがあって、なぜかその横には今の春夏さんがいて、なんだか懐かしいなあなんて考えていたんだ。
挨拶もそこそこに春夏さんのご両親はこの部屋から出て行って、きっと春夏さんの部屋にの方、つまり花嫁の準備室の方に行ったのだろう、と思うけど、
「次は私だからね、真壁、譲るのは今回だけだから」
と言う葉山に、
「正式には里に帰ってから調整します、今回は春夏殿にお譲りします」
と言ってる蒼さんと、
「うう………」
って恨みがましい目で僕を見つめてる雪華さん。
「私たちはいつでもいいからね」
って言ってるのは、此花姉妹の妹さんの椿さんの方で、お姉さんの牡丹さんは、花嫁である春夏さんの方に行ったきりになってる。
それにしても、今、衣装さんにシュッシュと服を着せられてる僕なんだけど、この服、タキシードっての? なんかキツくない? って、ええ? キツイくらいがいいの?
服が動く以上に動かないで下さい、みたいなことも言われたから、この結婚式ってのはもしかしたら拷問の一種か?と、一ダンジョンウォーカーの僕は思ってしまうわけだよ。
まあ、それでも、いつもの剣は、小道具として持ってていいらしいから、助かるけどなあ、なんか、これないと心細いもの。
今日は急ごしらえの、式典用の鞘に納めて、腰から下げる。なんかバラの彫刻がおしゃれな感じだね。
「やあ、組織を代表して来たよ」
と八瀬さん。
「ウンウン、馬子にも衣装とはまさにこのことだね」
って言ってから、
「ところで馬子ってどう言う意味なのさ?」
とか聞いてくる。いや、僕の方が聞きたいよ。
そして、
「おめでとう」
って憮然とした表情の、梓さん。
ああ、この人たちも来てくれたんだな、扉の前に何にかいる。異造子さん達も来たんだ。
「彼らは工藤の代理だそうだ」
と来たのはギルドの代表の麻生さん。ビシッとドレスコードを合わせて、なんか大人っぽい感じがする。
「すまんな、工藤は故あって外には出れないんだ、だが、おめでとうと伝えてくれと言っていた」
そして、そんな麻生さんと一緒に来てくれた異造子さんの梓さんは、
「私たちは、あなた達の事を色々と誤解していた見たい、だから今日は、おめでとうを言いに来たの」
って僕の顔を見て言ってくれる。
そっか、それが一体何を誤解して、何を正しく認識してくれたか、僕には今ひとつ話が見えないけど、まあ、ともかく本人が満足してるのでそれはよかったよ。
うん、伝わったよ。ありがとうだけど、これ本当に遊びだからね、ごっこで本当に結婚する訳じゃないから、今してる僕の服装だって、コスプレみたいなもんだから、本当に、みんな意外なほど本気で祝福してきて、正直僕の方が驚いてる。
そんな祝福されまくる僕だけど、徐々に尋ねて来る人も落ち着いて、いつの間にヒャらメイクさんとか衣装さんとかがいなくなてって、あれ? いつの間にやらなんか一人じゃん、って思った頃、僅かに孤独というかそんな感じの一人ぼっちな感じが、じんわりと染み渡るころ、
「お時間です」
って案内の係員が呼びに来てくれた。
そして、案内されるがまま、部屋を出て、その人に付いて行くように長い廊下をゆっくり歩いた。
なんか暗いなあ、って、割と広めな通路で、徐々に上に向かって行くバリアフリー的な配慮に、何度か九十九折に歩いて、僕は一つの扉の前に立たされた。
待っていた係員は2名、観音開きの扉の前に立って、僕を指定する位置に導いて待機させた。
あ、この扉の向こうは、式場だね。なんかすごい人の気配がするもの。