第33話【その先、あるべき場所へ、あるべき姿に
この時、僕はなんとも言えない気持ちに包まれていたんだ。
なんだろう、彼女達を、今ジャンケンをしてる春夏さん達を見る目がさ、普通に感無量って感じに見えるんだ。
って呟く桃井くんだけど、なんで春夏さんが勝つって、その権利を取るってわかるんだろ? 未だあいこでしょ! してるし。
「これで漸く、本来の姿に戻るってことですね」
これは、角田さんが言った。
しみじみと言った。
そして、うんそうだね、って思える僕もいるんだ。
で、それが一体何のことか、思いを馳せていると急に葉山の悲鳴が聞こえて、見ると、ガックリしてる蒼さんに、キリカさんがいるよ。
そして、手をあげて、
「秋くん、私、勝ったよ」
ってそれほど大きくもない声で、それでも嬉しそうに、負けた他の彼女達に遠慮しがちに僕に喜びを伝える。
そうだね、僕も嬉しいよ。
おお、そうか、僕は、春夏さんと結婚かあ………。
何かてれくさいなあ、でも、何だろう、この心の底から湧き上がる様な喜びは。
そんな複数の得体の知れない幸福感の様な、それでいて、何かを失ってしまう様な喪失感に包まれながら、ドキマギしているのがわかるんだ。
あ、これマリッジブルーって奴かも知れない、と、いち早く大人の気分を味わってしまっている気分になっている僕に、
「なんか盛り上がってるなあ」
って土岐が声を掛けてきた。
その顔は笑ってるんだけど、どこか寂しそうで、だから、
「うん、なんかごめんね」
って思わず謝ってしまう。
「いいよ、謝る事はないよ、これでよかったんだよ」
遠巻きに見ていた八瀬さんが、僕と土岐の方まで来てそんな事を言った。
よくは無いよなあ、本来なら土岐とリリスさんの結婚式だったのにさ、遊びだけど、イベントだけど。
僕はその時、そんな表情をしていたんだと思うんだ。悔しい様な、切ない様な、つまりはやっぱり心のどこかでは納得なんてしてないんだよな。
「外の連中を覚えてるかい?」
と、いきなり八瀬さんが僕に向かって言った。
いや、何言ってるの、ついさっきのことじゃん、いくら僕でも忘れないでしょ。
「あれはさ、人の本質なんだよ」
「攻撃的になる事がですか?」
すると、八瀬さんは、大げさにいつもみたいに揶揄うみたいなジェスチャーを交えて、
「違う違う、そうじゃ無いよ、嫌な言葉だけど『差別』ってのはああいうものをいうんだよ」
って言った。
え? あれは差別だったの?
「ああいうのは人達ってさ、自分は例外無く優れているって思ってるんだよ、だから必死に自分の理解外の事は、下位に置こうとするんだよ、どこかで支配してるつもりになって、異物を横に置こうとはしない」
言ってる事はわかるけど、正直、何で?って想いが強いんだよね。
「よくわからないよ」
って言ったら、
「君は典型的な北海道民なんだね」
ってまた、八瀬さんが言う。そして、見たことのない様な目をして、表情で僕を見てる。それが陰って、
「僕はさ、こっちの施設、孤児院ね、に送られた人間だから、それまでには色々あってさ、自分の今の現状、親さなし、家なしなんて正直に言おうもんなら、カースト底辺に真っ逆さま、なら嘘つきの方がどれほどマシなことか、本当に町の方針とやらで僕の孤児院が解体されて、こっちに来た時はどれほど救われたことか」
もともと八瀬さんって自分の事を語る事もない人で、正直、もっとクレバーな人だって印象があったから、こんな風に自分の生い立ちを話すなんて意外だった。
「環境が変わったってのもあるけど、ご飯も美味しいしね、それでもさ、施設の外でさ、何だっけなあ、遠足の時だったかな、普通に露天のおばさんと話した時に、ちょっと油断して、自分の話をしてしまったんだよ」
一息ついて、八瀬さんは言うんだ。