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第92話【エルダーモンスター、その遭遇率は深階層でもヒグマクラス】

 可能性はゼロじゃない、まして深階層を歩くならね。


 確率的に、札幌郊外を歩いていたら、ヒグマに出会った、ってくらいに、ありえないかもしれないけど、まったくないとも言い切れないからね。


 出るんだよ、札幌市内もヒグマ。特に南区、清田区の方は要注意だ。


 ちなみに今更説明の必要もないとは思うけど『エルダー級』っていうのは、それぞれその種で最高位のモンスターを指すんだ。『エルダードラゴン』とか有名だよね。


 ドラゴンも、中階層の終わりあたりから出始める『レッサードラゴン』も、レッサーッ種と言われるだけあって、知能もトカゲ程度だけど、この『エルダー』を冠していると、その種のモンスターでも能力とか桁違いで、その破壊力ともなると、もはや『天災』クラスで、1人の、いや1パーティー単位のダンジョンウォーカーが相手できるようなレベルではないって事だけは言っておくよ。


 多分、今、ギルドの人たちみんな出払っているっていうのは、『エルダー級』に対応する為だから、その対応できる人たち、つまり幹部クラスとかは中層階に行っているんだと思う。


 で、それに乗り遅れてしまったのがシリカさんって訳か。


 でも、素朴な疑問。


 「シリカさんくらいの人なら、浅階層くらい1人でも余裕じゃあないんですか?」


 だって、ギルドの幹部クラスなんでしょ? だったら相当なモンじゃあないかな、シリカさん、スカウト組だしさ。


 すると、角田さんは、臆する事無くスッパリと告げる。


 「ああ、こいつ、戦闘能力はゴミなんですよ」


 と言う。角田さんって本当に遠慮っていうか手加減しないよね、嫌いじゃないけどさ。


 驚く僕なんだけど、角田さんは続けて、本当に言いにくそうに、


 「シリカ、ドラゴンフライに半死半生にされた事もあるんですよ」


 え? あの、『たかる』だけの? 生ぬるいブレスの? 逆に聞きたい、アレにどうやったら半殺しにされるのかを。


 その横で、シリカさんは「おー」とか言っている。まるで自身の事なのに他人に同情しているかのような表情だよ。アッチャーって顔してる。


 「でも、戦闘能力はゴミクズ以下ですが、スキルが凶悪なんで、それだけで幹部になったような女子なんです」


 「角田、ゴミクズは聞き捨てしません、拾います!」


 とキッパリとシリカさんは言った。ゴミは良かったけど、ゴミクズはダメだったらしい。


 まあ、1度ならず2度までもゴミ扱いじゃあ、さすがのフワフワした感じのシリカさんもそりゃあ怒るよね。拾うって言うのもどうかと思うけど。


 「ゴミは資源ですよ、角田、エコですから、リサイクルクルです、巡るのですからと私は訴えたい、資源ゴミって言いなさい角田!」


 厳しい表情を向けて、角田さんに言い切ると、僕らの方に顔を向けて微笑む。


 その表情は「言ってやった」感に包まれていて、なんかとても誇らしげだ。 


 うん、そうだねシリカさん、シリカさんの言っていることって、とっても大事なことだよね。


 実際に、札幌市ではエコ推進都市だしね、リサイクルは大切だけど言っていることは正しいんだけど、怒る所、そこじゃないよね。


 「角田、慌てふためきましょう、早くしないと、先に行った人たちの人命がアレレだよ、早く、早く」  


 とシリカさんは僕らをせかしている。なんか雑でルーズな日本語だけど、なんか通じるんだよなあ、人柄なんだろうか? 


 でもって、彼女、シリカさんは、その人達から遅れてしまって、困っていた所に『渡りに船』で僕らが現れたって訳だ。あ、でも、あれ?


 再び簡単な疑問。


 「ひとまず、連絡をしてみれば良いのでは? スマホとか?」


 でもって、誰かに迎えに来てもらうとかさ、すればいいんじゃないかな。


 するとシリカさんは、なんかとても恥じらって、モジモジしている。


 ???


 「こいつ、携帯電話とか持ってないんです、仮に持っていたとしても、ボタンが5個以上ある機械はさわれないんですよ。当然電話なんて、とてもとても」


 と角田さんが言う。


 いや、まさか、そんな事あるわけないでしょ。って言いかけるも、シリカさん、


 「角田!」


 ほら怒ってるよ、いくら何でもそんなこと…。


 「5個違います、3個ですカラ」


 数減っちゃったよ。しかも得意げだ。


 さらに、シリカさんは続ける。


 「角田が5個と言って、5個の行程を差し出された時、私は皆さんをガッカリさせるでしょう、そんな悲しみはいらないのです、悲劇は誤解じゃあないのでしょうかと、私は訴えます」


 凄いよ、この人、自分のダメダメなトコを全肯定の上に念を押し付けているよ。


 今、僕に向かって「3個です」って確認を取って、今度は春夏さんのところに行って、「3個なんですよ」って笑顔で言ってる。


 僕はこの時点て、割と本気で思う。


 この人を1人にしたらダメだ。


 きっと、昼間の駅前通りに、まだ飛ぶことも、しっかりと歩くこともできない小鳥の雛を離してしまうようなものだ。


 きっと、そんなもの見せられた日には、こっちの心がハラハラで死んでしまうよ。


 ダメだ、精神衛生上、この人を一人にしたらダメだ。


 揺るぎない意識でそう思ったよ。


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