第15話【怒りや焦り、呪いの様に感染する僕】
本当にこういう卑怯な奴を見るとムカムカして来るよ。
蹴りの一つでも入れてやろうかなって思ってると、
「秋くん、感染してる」
って急に春夏さん、僕を抱き寄せるんだ。
後ろから来て、急にギュッとって感じで僕は事もなく春夏さんに包まれる感じになって、硬くイラついてた心がホンワカする。
「ここはもう終わり、早くダンジョンに潜ろう」
っていつもの笑顔でそういうんだ。
ちょっと硬く、カピカピになって粉吹いてた僕の心が急に潤い、軟性を持ち始める。
ああ、落ち着くなあ。
って思ってると、何故か茉薙が春夏さんにしがみついてた。そして葉山も蒼さんも、そして雪華さんもだ。
しがみ付くというか集ってた。
そしてそれを全く嫌がってない春夏さんがいるんだよ。
そんな春夏さんの腕ににしがみ付くようにしてる葉山が、
「私じゃこれはできないなあ」
とかブツブツ言ってた。
でも、なんていうかすごいね、みんな普通の、いつもの気持ちに戻れた感じだね。雪華さんなんて早速メディック使って、自衛隊の偉い人の指つけてたもの、何がすごいかって、痛みを全く消さないで切断面を洗浄して、痛覚そのままに骨から縫い付けてるから、幹部のおじさんはのたうち回ったのちに綺麗に気を失ってた。
雪華さん曰く、「人体も端部の方が痛みを拾う神経とか沢山あるから大変」とか言って微笑んでたから、全部わかっててやってるんだなあ、って、怖いなあ、って思ったよ。
ともかく、抵抗する者もいなくなったので、僕らは普通に4丁目ゲートからダンジョンに入った。
もちろん警戒はするけどね、だって中にも自衛隊の人がいるかもだからさ、その辺は慎重に入って行く。
多分だけど、ダンジョンにいる自衛隊員の方がよっぽど手強いって思うからさ。
だって、彼らは自衛官である前にダンジョンウォーカーだから、どんな攻撃を仕掛けて来るかなんてわからないからさ。
あの時点でも結構強かったけど、あれからダンジョンに入り続けてるって考えると、それなりに成長はしているだろうしね。あのままってのもありえないから、その辺は用心するに越したことはないはずなんだ。
と思いつつも、普通に入ったスライムの森の中は割と普通だった。
連絡の取れなかったギルドに行くと、驚いた事に、そこにギルドの人は真希さん含んで誰もいなくて、いたのはあの異造子の人たちだった。
「みんなは?」
と尋ねると、
つい最近、アモンさんとクソ野郎さんの結婚のきっかけというか、地上を殲滅するために動いた梓さんが、
「知らない、私たちはここに呼ばれただけだから、来たらもう誰もいなかったわ」
と素直に答えてくれた。
と言うか、ここに彼等がいると言うことは、集められていると言うことは、結構まずい状況なのではないのだろうか? と、ふと気がついてしまう。
いや、だって、この子達が表立って出てくる時って、いつも未曾有の危機的事態だったからさ、外の自衛官のおじさんが割と安易な案件だったから、ちょっと油断してたけどこれってもしかすると割とピンチなのでは? と考え、僕は思わず春夏さんを見て確認してしまうんだけど、どこかいつも通りで、僕の方を見ているからちょっとだけ安心した。
それにしても、この子たち、いままでどこにいたんだろう? って思って、
「深札幌から呼ばれたのかい?」
との問いに、梓さんは首を降って、
「いや、ほんとの札幌の今はまとまって住んでる、今は来たるべく時の為に札幌の街を潜伏調査中なのだ」
とか不穏な事を言ってきて、一冊のノートを僕に見せてくれる。
「まあ、狂王と呼ばれるお前の事だ、来たるべき時が来たら、北海道ダンジョンの為に働くのだろ? なら、この辺の情報は共有したい」
と僕にノートを差し出す。
来たるべき時?
北海道ダンジョンの味方?
一体、何を言っているんだろう?
僕はその秘密、梓さんが調査を進めてきたであろう内容を固唾を飲んでみはじめた。
中にはなんと、正確なセイコマートの位置、そしてそのセイコマートの品揃いの分布、ホッとシェフの有無、品切れになる商品の傾向とその対策が事細かに記されてあった。
あ、キリカ用マップってある。品切れが起きそうなセイコーマートフレッシュ牛乳の在庫傾向とかあるから、この子たちがキリカさんに牛乳を届けてるんだって初めて知ったよ。
ちなみにセイコマートで買った、フレッシュ牛乳とか、とよとみ絞りは、キリカさんの手に渡る時点で倍の値段になっていた。高! ダンジョンで飲む牛乳高!
知ってしまった意外な事実は他所に、これが一体、なんの問題があると言うか、なんの調査? って思ったんだ。
いや、まあ、確かに、ここに記されたセイコマートになんらかの襲撃とあれば、周辺住民である北海道民にとっては確かに大打撃には違いないけど生命を脅かされるほども無いし、また、道民の熱烈な願いによって、セイコマートは瞬く間に復活して平穏を取り戻すのは誰もが知る事実なのではあるが、多分、思ってたのとは違うと思う。