第14話【他人の命に自分の怪我】
そんな違和感は、葉山も感じてたみたい。
このおじさん、自身の意識の異常に気がつけてない。
それでもそれを見ていた人たちはざわめいたけどね。
だって、いたいけな少女に銃を向けてるわけだから、誰もが驚く。びっくりする。
止まる様子のない葛島さん。
誰もが脅しだって思うよね。
でも、それを窮地と悟る人間はきちんと動いている。
葉山が走り抜けようとしていた。
気がついたら蒼さんいなくなってて、ああ、おじさんの頭上に出てた。
この二人、すでに雪華さんを守る為に動いてる。
だから迷いが全く無いんだ。
間違いなく、雪華さんに突きつけて銃口から弾丸を射出するための手順を、その引き金を引きいているその意思の源である肉体を担保する命を一撃で奪う為に動いている。
すでに、僕の目には葉山のコンパクトに折りたたまれた背中が見えた。
うわ、最大戦速だね。ガチで本気の葉山だ。降って来る蒼さんもヤバイけどここで一番ヤバいのは………………………。
「茉薙! ダメだ!」
僕は精一杯叫ぶと、いつの間にかおじさんの背後に回って、全くなんの迷いも無く唐竹割りするつもりの茉薙が、僕の言葉に続いて、
「茉薙! やめなさい!」
って雪華さんの言葉に茉薙ばかりか葉山も蒼さんも反応してた。
危ない危ない、こんな所でおじさんの背開きは見たくないし、また披露するもんでもないよ、絵図らも汚い事になるしね、誰もそんな事望んでない。そうだね、殺してはダメだよ。
で、幹部っぽい葛島おじさん、ここに来てようやく自分の置かれてる立場がわかったみたいで、すでに秋鴉を両手に持ち降ってきてる蒼さんに、地面を舐めるように走って接近する葉山、何人か残った銃歩兵なんてとても役立つスピードじゃ無いのを悟ってか、「ひっ!」って情けなく叫んで、この状態でも引き金を引いてきたんだよ、銃口は雪華さんにポイントしたまま、彼の手の筋肉はその引き金に掛けた人差し指に力を加える、そんな動きをしたんだ。
すごいね、大したもんだ、と言うか、これって自分の確たる意思って訳じゃ無い気がする、誰かに言われてのことなのかな? まるで葛島さんの心というか常識というか、そんな事と行動がチグハグ。まるで操られているみたい。と でもまあ、引き金は引けなかったけどね。
その指切っちゃったから、綺麗に引き金にかかる人差し指だけ切り落としてるから、切れた指じゃ、引き金引けないよね。そうなんだよ、何も殺さなくても、こんな程度なら止められるんだから、みんな僕に任せて。
僕の剣の軌道を見ていた蒼さんが、「おお!」とか言ってた。
いつの間にか、僕と恋人距離になってるって事にそのおじさん、やっと気がついて、そして、指に力を意識してるけど引き金が引けないって状況に驚いて、自分の切断された指が、今まさに地に落ちて行くのを見て、悲鳴を上げていた。痛みも出血もここでようやく出たみたいだね、ほら抑えて抑えて、銃なんて持ってる場合じゃないよ。
大丈夫大丈夫、このくらい、どこも潰す事ななく綺麗に切ったから、普通の病院行っても綺麗に繋がるよ。なんなら、誰かヒーラーさんにやってもらえば、処置の後の通院も必要ないくらいだから。
って言おうとしたんだけど、おじさんうずくまって悲鳴をあげるだけ上げて、僕の方なんて見やしないから話にならない。
いやいや、ちょっと待ってよ。
本当にさ、こう言う時っていつも思うんだよ。
だって、この人、雪華さんに向けて銃を撃った、結果的に撃てなかったけど、確実に引き金を引いた訳で、つまりは雪華さんを最悪殺すつもりという行動を取った訳で、そんな人がだよ、つまりは人を殺そうって人が、たかだか指一本切り落とされたくらいで騒ぎすぎなんだよ。
撃たれれば、相手だって痛いのは当たり前でさ、自分もそう言う覚悟がないなら他人の命になんて決して関わってはダメだろう? ってそう思う。
つまりさ、この人は自分の命を安全な場所に置いて、傷つけていい人悪い人をより分けて人間関係を構築する、他人の嫌がる仕草、苦しんでる所を見て喜ぶタイプの絶対に人の上に立たせてはいけないタイプの人間なんだよ。大丈夫か、こんなのに幹部やらせて置いて、この組織は、とか僕には直接関係ない事だけど、今は関係あるから思ってしまうよ。