第13話【躊躇いのない簡易な殺意】
結局、みんな僕の後ろにゾロゾロやってきた。
みんながみんな自衛隊になりたいってわけでもないみたい。
あ、でも数人残ってるなあ、そうだよね自衛隊って就職としては決して悪くないとは思う。けど、大半のダンジョンウォーカーにとってはこんな感じなんだね。国を守る大切な仕事だよ、僕は守るより守られる側にいたいけどね。今はこんなんだけど。
「待てお前ら、いいのか、特別国家公務員だぞ、こんなチャンス滅多にないぞ、今は昔みたいに入りやすくはないんだぞ、衣食住全部無料なんだぞ!」
まあ、確かに魅力的ではあるけど、みんながみんな一兵卒になりたい訳じゃないからね、それに階級低い人なんて年数区切った派遣社員みたいなもんだって聞いてるから、一生の職ってのもどうなんだろう? って僕は思う。それに近所に住んでる自衛隊の人の奥さんはこの前イオンとセイコマートで買い物してたから、隊内に住む人のみの対象だと重よう、その衣食住。しかも配給されるのは自衛隊の服でユニクロってわけでも無いみたいだし、ほら、北海道って自衛隊の人と仲良しだから、数も多いし、割とその内容は誰もが知ってる。
それに、今は特に北海道では就職って結構良いところあるから、衣食住って言われてもなあ。基地から好き勝手に外出できない拘束さえれる事も仕事のうちの自衛隊にみんながみんな魅力を感じているわけはないよ。特に自由にやってきたダンジョンウォーカーならそう思う。
しかも国家防衛を担う重要な仕事への求心力が、衣食住無料とか、安定した生活ってどうなの?って思っちゃう。つまりは安定した生活とか衣食住無料とかの条件がなくったら国防意識も潰えてしまうって事って、なんだろうなあ、って思うんだ。もっと真面目に国防に向いた人集めた方がいいよって、特に自衛隊に関心がある訳じゃないけど、学生の身としてこの国の一国民として一抹の不安を感じてしまう。
それにさ、ダンジョンウォーカーの元々の理念と言うか存在理由って、ガチでこの土地、北海道守ってる訳だし、北海道が味方してくれるとは言え、深階層あたりのダンジョンウォーカーなら、自分の食扶持は自分て稼いでるし、装備は自分で買ってるし、そう言う点を鑑みると、お城の兵士より街を根城にする冒険者の方がよっぽど粋で純粋な気がするのは気のせいだろうか?
この前も、深階層でユニコーン相手に大怪我した人達とかいたはずでさ、そのまま保健室まだ運ばれて、怪我が回復後再び装備変えて再戦行ってたし、基本的にはみんな、まあ勢いもあるけど、手強いモンスターに多少の不利を押し切ってた戦ってる訳だし、こう言っちゃなんだけど、最新の装備で、戦う意思の無い人を包囲威嚇したりなんて言う人間はダンジョンウォーカーにはいないなあ………。
ちょっとつついたらすぐに手を出してくるしさ、
しかもいい歳した大人だよ。
「貴様ら! 良いのか! 一生後悔するぞ!」
ってゾロゾロと自分の周りから離れて行くダンジョンウォーカーを見て悪態吐いて、うわ、このおじさん、腰の銃抜いたよ、しかも正面に立つ雪華さんに、向けやがった。
もちろん、雪華さん、そんなの気にも留めてない。
相変わらず、その強い視線は急に落ち着きがなくなってきたおじさんの腐った眼を貫いてる。
その時、僕はアレ? って思ったんだ。
だって、このおじさん、雪華さんを撃つ気満々だからさ。
普通はこんな時って、『止まれ! 止まらなければ撃つぞ!」ってなるじゃん。
そうじゃないんだよ、それをせずに普通に引き金を引く意思があるんだ。
もちろん、雪華さんも茉薙もそれに気がつかない。いや、気がついてるなあ、すごい敵意向けてるな茉薙、その指にちょっとでも力が入ったら茉薙は躊躇いなく、このおじさんを肉塊に変えるぞ、おじさんはそんな茉薙が垂れ流すさ殺気にはまるで気がついてないけど。
まさか、こんな白昼堂々、自衛官のおじさんが、自分が危惧して、危険視するダンジョンウォーカーとは言え、中学生の女の子を、自国民を銃て撃つなんて考えないじゃん。
なんだかんだ言っても、そこは自衛隊で、まさか人を撃つなんて、誰もそう思ってるんだ。
一体誰に命令されてるのか? まさか雪華さんを撃っていいって言われてるのか?
自分の行う善悪の判断もできてない。おかしく無いか?
例えば相手が敵で自分の生命を脅かす人だとして、そんな時にすら、この世界の、特にこの国の人間は躊躇する。まるで迷いの無いのは、罪悪感なんて言う種類の感情すらかけらもないってこの心境というか状況、まるで僕の為にギルドを裏切って簡単に仲間になってくれた、あのラミアさん事件の時の人たちを思い出した。




