第8話【防衛省と多紫町】
本当にこの子、いつの間にこんな顔できるようになったんだろう? ちょっと前まで新人だった筈なんだけどなあ、今は彼女こそ年上というかボスに見えて来るよ。
「私も行こう、何に目をつけられ、誰を敵に回すなんて話はどうでもいい、私は私の正義を守るために行く」
と薫子さんも言い出す。
「私も家族だよ真壁、だから選択肢なんて無いからね」
って葉山は言う。
うーん、でもなあ………………………。
「行こう、秋くん」
と最後に春夏さんが言って僕の前に立つ。
うん、まあ、そうだね。
すると、八瀬さんが、
「君達、蓮也の為に、そこまで………………………」
って感無量って感じで見つめられるんだけど、
いや、土岐の為って訳でも無いかなあ、基本的に僕、あいつに貸しはあっても借りは無いしね、だいたい、あいつ、会った時からリリスさんに対してだけ頑張ってた気もするし、まあ、それでも総合的には助かった訳だし、ああ、『おっぱいロード』の場所を特定してくれたのは流石だとは思ってるけど、それだけの為って思うとちょっと違うかなあ………………………。
だから誰の為って事はなくて、だからなんの為って言うと、強いて言うなら北海道ダンジョンの為かなあ。
少なくとも春夏さんが負担に思うって事は、これはダンジョンとしてあるべき姿では無いんだよなあ。だから、この土岐とリリスさんの結婚を阻止しようとしている意思というか行動自体が異物なんだよ。
これは北海道ダンジョンにあってはいけない物って事になる。
それにおかしいんだ。
だって、多月の家って、つまりは防衛省な筈なんだ。
さっきも思ったけど、秋の木葉の件どころか、つい昨日まで蒼さんの家、つまりは多月の本家にいた僕らは、防衛省からダンジョンへ介入するなんて言う、そんな雰囲気みたいな物は何一つ感じて無かった。むしろ、みんないい人ばかりで、北海道以外は腫れ物扱いのダンジョンウォーカーを排除どころか家族として迎えてくれてたから、これって、最悪、多月本家とは何も関わり合いのないところで、僕らが知らない誰かの意思で行われているとしたら、僕らは防衛省側にも全く手がかりが無いまま下手したら全面戦争へと突入する。
流石にダンジョン対軍隊の構図は避けたいよね、関係ない人にまで迷惑がかかってしまうから。そんな事誰も望んでない筈だしね。
そして、もう一つ気がかりなのが、雪華さんのお母さんの事。
大柴マテリアルって、つまりは大柴グループなわけで、軍事産業の方翼を担ってる訳で、そこのCEOの一人である雪灯さんから雪華さんがなんの情報をもらってる雰囲気というか、その気配もない事。
少なくとも娘が国を敵に回さないように、なんらかの手を打つのが母親だよね。忠告すとか、最悪監禁するとか、なんらかの手を打って来るけど、今、雪華さん普通にここに来てかなり憤ってるから、それは無いみたいだ。
だから、今回の土岐とリリスさんの結婚阻止ってのが、これらの行動っていうのが、もしかしたら一部勢力なのかもって思ったんだよ。
つまりは、多月家ではない防衛省の人と、大柴グループとは関係の無い人たいの、言うなれば決起みたいな感じ?
なら、僕らにもやりようがあるよね、まだマシな案件になる。
ともかく、一回、ダンジョンに行ってみよう。
土岐やリリスさんにも会って無事を確かめないとだよ。
そんな感じで、今の僕らの行動は、決して土岐の為だけって事もないし、むしろ春夏さんが困ってるのは嫌なんだけど、それでもどこの辺を嫌がってるのかはハッキリしないいつも通りの春夏だから、先ほどの八瀬さんの問いに対する答えとしたら、複雑な事情を考えた上で、なんてと言うか、ただなんとくヤな感じだから? としか言えないけど言わないけどね。まあ今だにウルウルしてる八瀬さんもどこまで本気なんだかとは思うけど、ひとまずダンジョンへ行こうって事で、妹も角田さんもいないから、徒歩か市電になるなあ。
って思ってたら、雪華さんがタクシー呼んでた。
で、葉山と蒼さんが家の戸締り確認してくれてた。テキパキ動いてた。ガスの元栓もだね。偉いなあみんな。
今、母さんいなかったんだっけ。
ともかく、一回、ダンジョンへ、僕たちは行動を開始したんだ。
こんな状態で、こんな時だけど僕は久しぶりのダンジョンに胸を高鳴らせていたんだ。
それは僕が守るって言う、僕には珍しい気概みたいな感情。
否応なしに盛り上がってくるテンション。
僕、絶対にダンジョンを守るからね。
もちろん、そんな気持ちは伝わってる。
だから春夏さんは微笑むんだ。
安心してる。
僕も安心する。
ともかくダンジョンへ行こう!