第7話【僕が守りたいもの】
そして僕の目に写る春夏さんは、身を固くして、まるで何かに耐える様なそんな意識が伝わって来る。
我慢してる。
それは直ぐにわかった。
だから、僕は率直に思う。
春夏さんに我慢なんてさせたらダメだ。
これ以上、傷つけるのなんて、僕が我慢できない。
少しでも負担になるなら、それを取り除くのが僕のやるべきことなんだ。
「死んでも生き返るから、いいって言えばいいけど、あんまり気持ちよくないよね」
って葉山もそんな事を言い出す。
「ギルドが動けないなら個人で動くまでだ」
とか、薫子さんも言い出してる。
この件についてはみんな思う所あるみたいで、僕としても看過できない事案だよ。
だって、いいじゃん、アモンさんとクソ野郎さんは幸せそうだったしさ、何を今更、口を出して来ようっていうんだろう?
本当に今更で、そんな事で土岐の気持ちはリリスさんの気持ちを踏み躙ろうだなんて、一体、何を考えているんだ? この国の政治って、外交だって弱腰なんだから特に北海道の問題に口出すなよってそう思う。内弁慶か? それとも子供だって思ってバカにしてるのだろうか?
そんな風に、憤り、イケイケになりつつあり、ちょっとは冷静にならないと、って思う僕なんだけど、それ以上に、蒼さんは岩か石みたいない固まって沈黙してた。
いや考えてるのかな?
その蒼さんが、ハタっと、僕の方を見て言うんだ。
「お屋形様、我が同胞に裏切り者がいるようです」
蒼さんがいつになく真剣な眼差しでそんな事を言った。
「え? 秋の木葉の中に僕らを裏切る人がいるって事?」
いやあ、まさかでしょ?
そう思えるくらい、秋の木葉って組織は鉄板でガッチガチな筈だけどなあ。って外から、見ても思うくらいだし、僕自身も幾度となく助けられてるし、その仲良しっぷりは里でも確認できたくらいだよ。
「少なくとも、私にその話、つまり討伐隊の話は伝え聞いておりません、これはあり得ない事です」
いつになく厳しい口調で蒼さんは言うんだ。
確かになあ、って思う。
だって、こんな事になってるなら絶対に蒼さん僕に言う筈だもの。
概ね全ての事柄は事後報告になるけど、今回の案件なら蒼さんは絶対に僕に話をして来る、話が無かったのは知らないって事なんだ。
この時点で蒼さんの耳に入ってないって言うのは由々しき事態だと思う、僕の耳に入ることはなくても、秋の木葉の責任者である蒼さんに伝えず誰に伝えるって言うのさ、基本的に秋の木葉って僕の為の組織であっても僕の意思とか意見とか反映されない全自動組織だからね、いつも気がついた頃には終わってるんだよ。それを判断する蒼さんに今のダンジョンの情報が入ってこない事自体が大事件だよ。
あまり最近は見られなくなったけど、相当に怒髪天な感じの蒼さんだ。今直ぐにでも動き出したくてウズウズしてるのがわかるよ。
不安な光を灯して僕を見つめる蒼さんの瞳。
うん、そうだね。
「ダンジョンに行こうか」
って言うと、蒼さんの顔が輝くように微笑んだ。一瞬だったけど、直ぐに引き締まったいつもの蒼さんの顔に戻ったけど。で、みんな頷いた。葉山も薫子さんも、雪華さんまでも。もちろん春夏さんも。
いや、僕と蒼さんだけの方がいいんだけど………………………。
だって、今回はちょっといろんな意味でやめておいた方がいいかもしれないと、さすがの僕も思ってる。相手が相手だし、だから人を巻き込みたかうないから僕と蒼さんくらいでいいって思ってたんだけど。
いやさ、僕はいいんだけど、これって、以前のギルドを敵に回すってのの上位互換だよね、と言うか、下手したら世界まで巻き込みかねないから、最大級に近いかもしれない。
どう考えても、だって、リリスさんを助けるっているか、守るって行為自体、自衛隊を敵に回すって事だから、それって、要は政府転覆で、つまりはクーデター?って事になるのかな? いや、ちょっと大きく考えると、正直、無理!って思えちゃう。破防法適応されてしまうよ。
じゃあ、つまりは僕だけで治らないってことじゃん、家族も巻き込んじゃうって事だ。
だから母さんも………………………。
あ、そうか、母さんなら安心か、じゃあ、やっぱり僕だけで行った方がいいよ、って思って、周りを見ると、みんなそれぞれ装備を点検し始めてる。もう行くき満々だ。
いや、ほんと、どうしよう………。って思ってると、今度は雪華さんが、
「秋先輩、ちょっと今回の事、おかしいことが多すぎる気がします」
って言うんだよ。真剣な眼差しで、僕にそう言うんだ。ああ、そうか、これって雪華さん個人じゃなくて、完全にギルドの幹部としての心境が入ってる。
「もともと中央は、この北海道に対して、特にダンジョン案件については過度に干渉しないと言う取り決めをしていた筈です、それに、今の腰抜けの与野党政府がここに干渉して来るような胆力があるとも思えなんです、だから、この件について私は徹底的に調べます、だから秋先輩、ギルドとして協力をお願いします」
僕の、浅い所の疑いなんてまるで感知しないっていう深く断固たる意思を携えた瞳。