第90話【僕の心配と春夏さんの不安と委員長の杞憂】
4丁目前ゲート付近の雑踏は更に混迷を深めているって感じだった。
春夏さんに邪魔されつつ、委員長の顔見ると、本当に嬉しそなんだよね。なんか僕如きが、未だ浅階層のダンジョンウォーカーが、ベテランな人にかけるような言葉でもないんだろうけど、でも、
「うん、わかった、気を付けるね」
って言うんだ。
そして、
「それに私、そのエルダーとは多分、対峙はしないよ、深階層での、関連事項への調査に向かうんだから」
って言ってた。
「関連事項??」
「うん、ギルドと提携してる組織の調査、今回のエルダーの動きにも関連しているらしいの、『蒼の猟団』って知ってる?」
知らないなあ……。
「『黒の猟団』なら聞いた事あるけど、青い方は知らない」
って言ったら、「あ!」って言ってから、
「そうね、外ではそっちかもね、でも、これが本当の名前だから、この名前を出してきたら絶対に事を構えてはダメだから、本物の殺戮集団なんだよ」
そして、区切ってから、委員長は、
「しかも、そこの首領、つまりリーダーは、今、ダンジョン最強の一人って言われていて、あの伝承、流石に名前くらいは聞いた事あると思うけど、『|殲滅の凶歌《せんめつ きょうか》』に、あの、御伽噺みたいな、今も史上最強って言われる人の再来の一人なんて言われてるからね」
一瞬き聞きしそうになるけど、一人って言い方はもう一人くらいはいるって事になるんだな、って思った。
なんとなくだけど、ごく身近な身内が二つに腑分けされたみたいに感じてしまう僕だよ。
まあ、その殲滅の……については驚きもしないけどね。
その話すると母さん怒るし。ここは聞き流しておこう。
そうか、そうなんだな、って思いつつ、ハッと気がつく僕。
いや、ちょっと待って、じゃあ、そのヤバイ集団のところに委員長は行くって事?
「やっぱり危ないんじゃないの?」
ガチで心配してしまう僕に、委員長は、びっくりして、そしてしばらくし考えて、なんか、良い笑顔になって、
「そうね、ありがとう、気を付けるね」
って言ったんだ。
そして、
「真壁くんも、今日はダンジョン入ったらダメだよ、約束だからね」
もうこの辺で、僕が離れないって思ったのかな? 春夏さんの邪魔が入らなくなる。
そして、委員長は行ってしまうのだけれども、そのままダンジョンに入って行くギルドの人達に混ざろうって時に、こっち見って、手を降って言ったんだ。叫ぶみたいに言ったんだ。
「葉山だから、ちゃんと苗字で呼んでよ、真壁くん!」
言われるから、僕も、
「葉山さんも気をつけて!」
って叫んでしまったよ。
一瞬、見えたその横顔がさ、もう、いつもの葉山さんのじゃないんだよな。
完全にスイッチが入ったって感じ。
すごいなあ、ベテラン、深階層常連のダンジョンウォーカー。
自分もダンジョンウォーカーだというのに他人事のように、そんな事を考えてしまう。
それにしても、ギルドの人って、こんなにいたんだね。
日中は三交代体制で、1週間に延4日間のお仕事だって話らしいから、実際に緊急事態が起こったら、これだけの人が駆けつけるんだね。
そこに混ざって行く葉山さんの姿を見送りながら、すごいなあ、スカウト組、彼女はどんなクラスなんだろう? なんて思ってると、
「あ、痴話喧嘩からのときめきメモリアルは終了ですか?」
って角田さんが声をかけてくる。
違うし。
でも、この人のこの言い方って全く嫌味とかなくて、普通にむしろ爽やかに言ってくるんだよなあ、いろんな誤解とかさ、勘違いとかを。だから不思議と腹も立たない。
いや、痴話喧嘩じゃないし、そのときめきメモリアルな状態ってどんなんだよ? って思いつつも、聞いたら聞いたで角田さんの場合は説明してくれるから、長くなるので、その辺はすっ飛ばして、
「話はついたんですか?」
って尋ねると、もうだいぶ前に話はついていて、僕と委員長、だから葉山さんの会話を聞いていたらしい。そして、邪魔にならないように、僕の死角にいたらしい。
で、シリカさんのお願いってのが、つまりは何処へって話なんだけど、
「秋さん、こいつを中層階の前まで送って行きたいんですが、連れて行ってもいいですかね」
って聞かれるけど、いいも悪いも無いでしょ、
頷く僕だけど、
「よろしくお願いデス、ありがとう、もちろんいいデスよ」
って、シリカさん、自分でお礼して、返事しちゃったよ。もちろん、それでいいんだけど。
「もちろん、いいよね春夏さん」
って確認すると、コックリと頷く春夏さんだ。
「何でも、中層階に『エルダー級』のモンスターが目撃されたって、ギルドは上へ下への大騒ぎになっているみたいです」
とシリカさんに聞いたのか、ザックリと、この騒ぎの原因を角田さんは教えてくれた。葉山さんの言ってた事と概ねあってた。