その78【願いも、心も、身体も、そこにある限界を超えて】
お祭り楽しい。
町の人が全員参加して、町内会っていうのかな? 町の人達が運営していた。
僕が住む、北海道のとは全く違っていて、概ね札幌のこういう催しってイベントって感じがするんだけど、ここのお祭りは本当に過去からずーっと続いている、独特の盛り上がりの中に厳かな空気見たいのがある。雰囲気がある。うまく説明できないけど。
しかも氏神様が実在するお祭りっていうのも初めて体験した。
祈る対象が、境内にいないで、会場中うろうろするものだから、ちょっと町のみんなも大変そうだったけど。その都度ご挨拶って感じで、慣れてる雰囲気もあって、ちょっと笑えた。
初代微水様、大きな青鬼様を前にみんなお参りしてる。
僕もお参りして、その後は蒼さんの指示で屋台を回っていたんだけど、葉山が煩い。
あの後、今に至るまで、ずっと蒼さんをお姫様抱っこしていて、早く降ろせだの、次は私の番だの大騒ぎしていた。仕方ないじゃん、蒼さん怪我しているし、五頭さんや葉山のヒールじゃ上手に直せないとか言ってたから、まあ、仕方ないし、こうなる前に止めなかった僕が悪いし。その辺は責任を感じてるわけだよ。
そもそも、そんな回復系の魔法をもうちょっと段階を上にあげれるのに、そうしなかった葉山のせいじゃん。
でも、あれ? 葉山はともかく五頭さんと四胴さんは結構レベルの高いヒール使えるはずだったけど、声をかけようと思うと妙に遠ざかろうとするし、まあいいけど、蒼さん軽いから。両手塞がってる僕にちゃんとたこ焼きとかイカ焼きとか綿あめとか食べさせてくれるから特に問題もないけど、って食べさせてくれてる途中に葉山とか無理やり割って入ってこようとするんだよなあ、危ないから、箸で喉とかついちゃうから。
こうして、蒼さんを抱っこしてるって事は、蒼さんに食べさせてもらう理由はあるけど、横から無理やり来る葉山は今は関係ないでしょ?
的なことを言ったら、葉山はウッキー状態になって、蒼さんを無理やりおろそうとするんだよ、ひどいな、ヒトデナシか君は。
ついに切れた葉山は、
「もう! 怪我してるんなら、家で寝てればいいじゃん!」
って言い出す。初代微水様以外にここにも鬼がいたよ、真っ赤な顔して怒ってる赤鬼がいたね。
最終的には僕の背中に張り付いてきて、無理矢理負ぶさって来た。
首が……、背中が、「重い!」って言ったら、
「蒼ちゃんはいいのに私はダメなの?」
なんて言い出す。見た目に、蒼さん抱っこして背中に葉山負んぶして、って僕バカみたいじゃん。なんのカーニバルだよこれ?
そんなぶちぶち言ってる葉山を四胴さんが宥めてた。
「婿殿、うちの町の酒造が作って日本酒とかどうです?」
ってずーっと蒼さんのお母さんが後ろについてるんだよ、で時折、そんな事を言って来る。
いや、僕まだ中学生なんで……
って言おうとするも、蒼さんが、「母様、お屋形様は未成年です」って言ってくれて、
「あ、ああ、そうね、あんなに強いからてっきり、ダメね私」
って微笑むも、
「じゃあ、ビールでも……」
って言って、
「母様!!」
って蒼さんに怒られてた。
本当どうしてしまったんだろう? 蒼さんのお母さん、試合以降、ずっとこんな調子だ。
そんな僕らが神社の境内から、道路まで続く屋台の通りにいると、人混みの中から、
「いい加減にしろ!」
って薫子さんの、これも怒ってる声が聞こえて来るんだよ。
その先には母さんと、初代微水様がいて、もうその初代様、母さんから片時も離れる事なくて、その周りで、
「いい加減にしろ、今日花様は貴様のものではないぞ!」
って怒ってる薫子さんがいて、
「私のものだ!」
って言ってる。違うよ、僕の母さんだからね。
屋台を物色してると、焼そば焼いてる人、どっかで見たことあるなあ、って思ってたら、
「よお!真壁、お疲れさん」
って水島くんだった。
「蒼様、お疲れ様です」
って一緒に屋台の中にいるのは紺さんだった。
なんでも今回は紺さんの家が焼きそばの係だったらしい。
「奢るよ、真壁、いいですよね、お父さん」
って、その屋台の裏で、下拵えをしている、紺さんのお父さんらしき人にそう声をかけてる。
そのお父さん、
「あ、ああ、どうぞどうぞ、いっぱい食べてもらってくれ」
と上機嫌で言ってる。そして、その横のお母さんらしき人に軽く会釈された。
水島くんと紺さんは並んで鉄板の前でジュージューやってる。
なんか、水島くんて、こんなに大人っぽかったっけ? って思っちゃうくらい堂々と、そして、何より紺さんの家族に溶け込んでいるように見えた。
で、もらった焼そばは本当に大盛りだった。だからみんなで食べたよ。美味しかった。そしたら、一心さんと辰野さんが、かき氷の屋台にいて、こっちもまた、大盛りにしてくれようとするんだけど、いらないから、かき氷の大盛りはいいから、ここの場所、標高結構あるから、暑くもないし、シロップのミックスとかもいいから、って頂いたかき氷を葉山に渡したら、文字通りクールダウンできたのか、おとなしく食べてたよ。
さんざん飲み食いした挙句、再び僕らは、御前試合をした場所に戻って来ていた。
下の道から続く屋台が並んでいる通りをまっすぐ通ると結局神社にぶつかって、そのまま歩くと、この広場にぶつかるんだ。
だからかな、町の人も結構な数が来ていた。
みんな、空を見ていて僕もつられて、夜空を見上げると、満天の星空。
星も大きい。
まるで、夜空に散らばる音のない花火みたいなんだよ。
いや、ずっとある、消えない力強くそこにあるんだ。だから花火とは比べられないかも、でも僕はこの光景を、この町から見たこの星空を忘れる事はないって思うほど、一生ものだった。僕らもそこにいるみたいな不思議な感じだったんだよ。
こう言う町だからね、お祭りに花火って訳にもいかないけど、これはこれで、いいなあ、って思って見つめていたんだよ。
そしたら、蒼さんが言うんだ。
「お屋形様、今日は蒼の全力を受け止めて頂いてありがとうございます」
って。
僕としてはさ、当たり前のことを当たり前にしていただけだから、ちょっと返答に困ったんだ。蒼さんの気持ちを軽いものにしたくないからさ、だから、黙って聞いていたんだ。
「これから先も、天地神明にかけて、お屋形様に力添えする覚悟です」
って言う。
そして、
「だからずっと一緒なのです」
あ、そっちだったらできそうだね。
僕はこの時の蒼さんの気持ちなんてわかってなくて、だから、
「うん、そうだね」
って軽い気持ちで答えていたんだ。
ようやく全部終わった。
この多紫町での長いようで短い時間ももうすぐ終わりの時を迎える。
そしたらさ、その星空の中に、あの懐かしい顔が覗いた様な気がしたんだ。
そこまで長い時間って訳じゃないのに、そんな風に思ってしまう自分にちょっと驚いた。
お祭りは楽しくて、みんなは騒がしいのに、ちょっと寂しいなって思う僕だったよ。