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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その77【蒼き鴉は足元から落ちる】

 低いなあ……。


 まるで、浅瀬を泳いでいる魚の様。


 僕はその浅瀬にいる人だね。足首くらいまで水の中にいる。


 大きな、蒼さんっていう魚ば泳ぎまわる中、次の動きに備えてる。


 多分、蒼さんの胸からこの地面まで、5ミリもないよ。そのくらいの位置をキープしたまま、次の攻撃へと移行して行くんだ。


 無駄な攻撃がないから、きっと次で最後。


 速度はどんどん早くなって行く。


 僕の方も無駄な動きはしない。じっくりと最後の攻撃を受け止める準備をするんだ。


 どっからでも良いよ。っていうかそろそろ来るな、って思った端から蒼さん消える。


 いや、一瞬止まってそのまま消失。


 わかるよ、だから上だね。


 ほら、いた。


 こだわるなあ、蒼さん、この形、初めて蒼さんに出会った時だね。前は下にいたのに気がつかなかった。慌ててたからね。


 そのままそっくり、あの中階層での出来事を繰り替えす。


 でも練度が全然違うし、蒼さんの武器に対しての期待度も全然違う。だから自信があるんだよ。


 ここで弾いておしまい、って形になるかなって、思ったら、落ちてくる速度が違う、というかもう一回、上に舞い上がって行った? 落下制御、じゃなくて完全な飛翔だよ、距離は短いけど、この剣、空も飛べるんだ。


 「よし! やったな!蒼!」


 って微水さんの応援する叫び声みたいなのも聞こえてきた。


 凄いな、秋鴉。


 本当にびっくりした。


 そして次の落下もありえない軌道で落ちて来る。


 ここで焦っても仕方ないよね。


 落ち着いてみるよ、だって僕を目当てに落ちて来てるから、ここは避けないし、ブレたりもしない。


 翼を広げた夜の鴉は僕に向かって、舞い落ちて来る。


 この辺かな?


 ってちょっとズラす。流石にここは受け止めないとね。


 そして、蒼さんの目的は、わかってるんだ。


 僕のその狙い通りに剣を浮かして蒼さんに狙いを定める。


 ほら来た。


 蒼さんの狙いは最初から僕の剣。


 この剣を秋鴉で奪い取る算段だったんだよ。


 いくら切れ味よくても、凄い剣でも、形状はただのロングソードだからね。蒼さんの秋鴉に簡単に捉えられて行く。


 取った、って思った瞬間、僕は手首を捻る。


 蒼さんの秋鴉が僕の剣を囲った瞬間に、その作用点を使っていち早く僕の方が力点を作り出す。本来なら。これ蒼さんがやる予定だったんだけど、ごめんね、僕の方が早い。


 「きゃあ」


 ってびっくりするくらい普通の女の子の声出して、作用点となった僕と蒼さんの剣の接点がクルリと回っって、蒼さんが僕

に対して背中から落ちて来る。


 これが手甲剣のデメリットだよね、普通の剣なら手を離して、もしくは持ち方を変えて逃れられたんだろうけど、腕に固定されてるから、こんな風に、その頑強さを返って利用されてしまう。


「よっと!」


 ドスンと落ちて来る蒼さんの背中を抱きかかえて、お姫様抱っこの形になってしまう。


 うわ、大勢の人の前で恥ずかしい……。


 でも、下ろす訳にはいかないけどね。


 その形になって、蒼さん、凄い嬉しそうに、


 「負けました!」


 って言うんだよ。


 「うん、僕の勝ちだね」


 って一応勝敗ははっきりさせておいた。


 多分、これって大切な事だから、僕にとっても蒼さんにとってもね。


 「受け止めていただきありがとうございます、もう下ろしてください、お屋形様」


 って言うんだけど、ダメだね。


 「いや蒼さん、足、全体的にやっちゃったでしょ?」


 って尋ねると、


 「はい、限界よりも先へ、そしてその先よりもさらに先へ行くことができました」


 多分、蒼さんの足の筋肉、組織が力が入りすぎて動きが早すぎて、俗に言うところの肉離れみたいになってる、こうしている間も痛いはずなのに、全く意に介さないでニコニコしている。


 「あと、肩もだよね?」


 無理やり軌道を変えるほどの制御を剣の振りだけで行ってることを考えると、絶対肩も痛めてる。


 「はい、こちらも限界を超え、さらに先へと進みました」


 いやあ、本当はこうなる前に決着つけたかったけど、戦い舞う蒼さんって綺麗てつい見とれてタイミング逃してしまったんだよね。だから、


 「ごめんね蒼さん、怪我させてしまって」


 と謝る。うん、こうなる前に止められたから、蒼さんが今痛い目にあってるのって僕のせいに他ならないんだ。


 そしたらさ、


 「何を申されます、蒼は新たな限界を、そのさきへといけました、全力を出せました、こんな嬉しいことはございません」


 って言うんだよ。


 凄い笑顔。もう輝くくらい。


 そんな僕らはいつの間にか観客だった人達の輪が狭まって囲まれていた。


 早く五頭さんか葉山のところに連れて行こうとしているんだけど、なんか進ませてくれないし、人が多すぎて葉山も五頭さんも見つけられない。


 そんな焦る僕の前に、蒼さんのお母さんが人混みから抜け出て来て、目に涙をいっぱいにして僕のこと見るんだよ。


 いやあ、怒ってるよね、娘さん怪我させてね、頼みますとか言われてたからさ、なんかすまない気持ちでいっぱいになる僕なんだけど、その菖蒲さん、蒼さんを抱っこしたままの僕らを抱きしめて、「ありがとう」「ありがとう」って言うんだよ。


 いやお礼されるようなことしてないし、本当にどうしようかな、って思ってると、初代微水様が、


「さあ、今宵は、祭りだ、皆、存分に楽しもうぞ!」


 って大きな声て言うと、どこからともなく太鼓の音が聞こえて来た。


 そして、人混みを抜けて来た五頭さんが、


 「蒼様、今、治します」


 って言うんだけど、蒼さんが、


 「いや、まだ良い、このままでいい」


 って言い出すのにはちょっと驚いた。


 いやあ、良くないでしょ? って言おうと思ったけど、先に五頭さんが、


 「今しばらく、このまま蒼様をお願いいたします」


 って言うからさ、なんでさ? って言おうと思ったら、蒼さんの今まで見たことのない笑顔にさ、まあ、いいかな、蒼さん軽いしって思ってしまう僕だったよ。


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