その76【町は見る、町を極める者の戦いを】
神社の裏。
多くの名勝負を歴史に刻むこの試合場で、その真ん中で、時折油断すると人の影すら見失う速度で、互いにぶつかる二つの影。
一人は勇猛果敢に挑み。
一人は、その勇姿を、その攻撃を、だからその衝撃を全て受け止めるごとく、立ち尽くし応戦してる。
この町、多紫町の、平均的な少女で、でもここは他に類を見ない戦闘集落で、自分もその一人のはず。
その自分がただ思う。
一体、これは何だろう?
多分、初代微水様への奉納試合。
今は、こうしているから御前試合と呼ばれている。
つまり、武器のお披露目のはずなんだけど、今、試合場になってり広場では、かつてないほどの戦いが起こっている。
以前の、蒼様、そして二肩家の千草様との戦いなんて比較にならない。
まして一心家の浅葱様の試合なんて、思い出せないくらいの速度と衝突で、この会場いっぱいに広がる刃の音の激しいぶつかり合いに、ただただ驚いていた。
それは周りも同じようで、ここに集まる町の人間みんな息を飲んでバカみたいに見つめていた。
自分の将来を悩み、それでも前向きな少女は、水目柚葉は、家の手伝いで来ていた。
家族が今年は屋台を出すのでその手伝いだ。綿菓子を作る屋台だから、ザラメを運んだり、機械の準備を整えていたら、父と母に、「試合を見に言っておいで」と言われて、柚葉自身が、多月蒼の熱心あファンでもあり、そしてその本家の蒼が、主人と仰ぐ北海道から来たダンジョンウォーカーにも興味はあった。
この町の全員と戦って、全員に負けを認めさせた少年。
とはいうものの、あくまで、儀式的な模擬戦闘、舞踏に近い御前試合だ。
それでも、その戦闘力の端っこでも一目見ればと思い、試合の始まる前にと急いで来たが、すでに会場は満員で、その盛況ぶりに驚いたものの、端っこの方でみようかた思っていたが、意外にも前列の席に開いている所をを見つけて、座っていると、そこにヌウっと現れあ大きな人影、初代微水様が来て隣に座るので畏敬の念から相当にビビってしまい、そこ場所を退こうと思い腰を浮かすが、
「お、大丈夫だぞ、お前一人くらい」
とそのまま着席を許可されて、幸か不幸かな事にここにいる。そして、微水様とは反対側の横には、ダンジョンウォーカーの少女が座った。
「こんばんわ」
と普通に声をかけられて驚く。
「こ、こ、こ、こ、こ、こんばんわ」
と、鶏かよ、って自分で突っ込んでしまうくらいのうろたえぶりに恥ずかしくなる。
「葉山静流、町の人を脅かすなよ」
とその隣の女子がそんな風に声をかけると、
「いやね、私が怖いわけないじゃない、可愛いよね、私」
って自分の方を向いて言うものだから、思わず何度も頷いてみせた。
「ほら見ろ、怖がっているじゃないか」
「静流お姉様は、存在自体が尊いのですから、畏怖の念を感じるのは仕方ないです」
と言うのは四胴家の娘の空だった。よく見るとその隣には五頭家、何より、自分の後ろには本家、多月の奥様とその息子の焔丸様までいる。
それでも少し安心できるのは、コンビニのバイトをしていた薫子の存在であったが、そこまで知り合いっと言う訳でもなく、でもちょっと安堵はしている柚葉でもある。
しまった、ここVIP席だ、と思った頃には、自分の席の前に地面に直接座る人間まで現れ始めて、気がついた時にはすでに逃げ出せずにいた。
「蒼ちゃん、本気でやるって感じだったよね」
と隣の少女、葉山静流が言うと。
「まあな、真壁秋と本気でやり合える機会だからな逃すはずはないな」
とそのコンビニ店員、隣のすらりとした美人さんも言っていたら、
「喜耒薫子という、ダンジョンウォーカーだ」
と挨拶してくれるので、
「は、はい、水目柚葉って言います、水目は百目の孫分家でして、戦うのはできませんが、頑張って将来を決めようと思います」
と慌てふためいて変な自己紹介。
自分でも一体何を言っているのだろう、と恥ずかしくていられない、ここから逃げ出してしまいたい柚葉だった。
「そうか、孫分家というのも存在するんだな」
と喜耒薫子と名乗った少女が関心するようにいう。
「そっか、女の子は町を出て旦那捕まえに行くんだっけ?」
随分と直接的な言葉を投げつけてくる。もちろんその通りではある。
「葉山静流、言い方に気をつけろ、気を悪くされてしまうだろ? すまないな、なにぶん素直なやつなんだ悪気は無いんだ」
と言う喜耒さんはに、
「いいえ、本当のことですから、別に……」
柚葉の言葉の終わらないうちに、
「じゃあ北海道おいでよ、いいよ北海道」
あ、でも、と言いかける柚葉の代わりに言葉をかけるのは、
「私、行きます、絶対に行きます」
と返事をするのは、かなり興奮した四胴空である。
「いいよ、空ちゃんもおいで、面倒見てあげる」
と葉山はご機嫌で言った。
そして、
「じゃあ、柚葉さんは薫子の部屋で、空ちゃんは私のい部屋ね」
とか勝手に話を進めて来る。
特に軽いノリだったので、その言葉の後にやたらと興奮して隣の五頭家の長男にたしなめられる四胴家の娘であったが、そんな和やかで、楽しいひと時は、御前試合と同時に、観客のざわめきすらもどこかに吹き飛んでしまった。
たった数分前の事だ。
そこに展開されたのは、この町にいる頃から、神童を超えた神童。
剣聖と謳われた彼女自身の祖母、多月褐すら超えて行くと、この町での最強を認められた多月蒼の全身全霊の姿と、その状態でありながら、全く寄せ付けない真壁秋と言う、ダンジョンウォーカーの少年の戦い。
攻める蒼に対して、ただ受けているだけの少年は、その姿を見ずに攻撃の全て避けることなく、流す事なく受け止めていた。
「クッソ、加減してやがるな」
と横の初代微水様が呟く。
え?何を?
と柚葉は思った。
すると、
「あれだけ打ち込んでいれば、いつかは刃が毀れる。ここから見えるが、俺の目にはあの秋鴉がまるで切れ味を失っているようには見えない、あの坊主もそうだがあの剣、暗黒野郎も加減してるって事だ、守られてるんだあいつらに」
と言った。
「そうなんですいか? 今日花様?」
後ろに座っていた本家の奥さんである菖蒲は、微水様の横に座る、つまりはその大きな鬼に隠れて見えない人物に尋ねているようだ。
声だけが、
「どうでしょうね、でもそんな事いいじゃありませんか、二人ともとても楽しそうですよ」
とこの戦いを見て、楽しいって言うなんて、でも、確かにまるで戯れているようにぶつかったり離れたりしている見たい。
子犬が嬉しさに弾けそうになって主人の周りを飛び跳ねているよう、と思って不敬なことを考えてしまったと柚葉は自分の考えを慌てて否定する。
幾ら何でも本家のお嬢様を犬だなんて……。
そして、思うのはこれがダンジョンウォーカーなんだなあ、とこんな戦いが毎日繰り広げられているなら北海道もありかもしれないと、そんな風に自分の進路という道が見えてきている柚葉であった。
でも、友達はもっと地味な子選ぼうと、質素に思うその気持ちは近く裏切られることとなるが、それはまた別の話。
そんな時、初代微水は。「あ!」と短く叫んだ。
決着の時を迎え様としていたのだ。聴衆は息を呑む、その音すら大きく響くほどの静寂を迎えようとしていた。