その71【奉納試合】
その時の僕は、準備をする区画の中で、用意された椅子に座って、待っていた。
なんかここ、昔の戦国時代で言うところの陣みたいになってて、帷幕って言うらしい幕が四方に張られて、この神社裏の広場、一応、試合場になるのかな? それを挟んで向こう側は、蒼さんの陣になっている。明かりは数本の松明で、時折、風に揺れる炎の灯りが、蒼さんの姿を幕に投影する。揺れる影から、蒼さんの気持ちがこっちに伝わって来るみたいで、なんか緊張してしまうんだよね。
完全に火が暮れたらこの午前試合のスタートだからもう僅かかな?
屋台の方はすっかり準備を終えて、焼きそばの香りが漂い始めてる。
それでも、ここには僅かに吹く風と、それが幕を揺らす音がやけに大きく感じてるから、他に音もなくて、すごい静かなんだ。
とても厳かで、そして何よりその雰囲気に飲み込まれそうになっていたんだ。
結局あの後、町を上げての大宴会になって、屋敷に入りきれない人たちは、その前の道路で、好き勝手に飲んでいた。
みんな楽しそう。
僕らは屋敷に上がって、お昼を食べてた。
毎日美味しいご飯だけど、どうも今日は特別みたいで、お寿司とかも出てた。イノシシの鍋とかもあったね。野性味あって美味しかった。
そして、その後、僕の体調のチェックが入って、特に異常もないんで、今夜、御前試合をやるのに問題は無いって事になったんだ。
いつもは、割と優勝者は疲弊するし、時には酷い怪我をする時もあるから、そのいう場合は、その人の体調に合わせて延期する場合もあるらしい。
もっとも、本気で戦うわけでもなくて、元から決まってる段取りで、互の剣を合わせて踊るみたいな儀式なんだそうだよ。
優勝者を称えて、そして、微水の作った剣のお披露目なので、本来は、初代様に、つまりこの町の神様に捧げるそんなお式典なんだそうだ。今もこうして貴方の残した技と心は健在ですよって、この町で眠る初代様に捧げるそうなんだ。
普通にいるけどね初代微水様。母さんと一緒にご飯食べてたけどね。
「まあ、こうなる事とは思ってたけどな」
って初代微水様は、僕の顔を覗き込んで言ってた。
「本当に強いのね、あなた」
って言うのは蒼さんのお母さんで、
「この子を弟子に取らない?」
って側にいた焔丸くんを捕まえて言うと、そのまま、焔丸くんも、
「是非、義兄上、よろしくお願いします」
って頭を下げてた。いや、僕、そんな弟子とかいらないし、どっちかって言うと面倒みるより面倒とか見て欲しい人だし、ちょっと難しいかもしれない。
それにしても、一心さんと辰野さん、水島くんと紺さんのところも大盛り上がりだったよ。
両家のお父さん、泣きっぱなし。
特に一心さんの家は縁談としてまとまったみたいなんだ。
で、問題は紺さんと水島くんだよ、あの二人正式に付き合うことになったらしいんだ。紺さんのお母さんがそう言ってた。
言いふらしてた。まあ、水島くんいいやつだから、紺さんもいい人だから、絶対にうまくいくよね、あの二人。
もちろん一心さんと辰野さんも。よかったよね、ちょっとその二人のところでウロウロしている藍さんが気になったけど、そのうちいいことあるよ。って誰か言ってやって。
そんな和やかな時間が流れて、今僕らはここにいる。
松明って意外に五月蠅しのね。風に煽られてボーボー言ってる。
結構な人が、と言うか町の人間は全員見に来てるらしくて、なんかこう、学園祭で慣れもしないのに劇とやる、そんな気分。
まあ、お祭りだし、踊るみたいなものらしいけどさあ、なんか向こう側の蒼さんの気乗りがすごいんだよね。椅子に座ってないし。