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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その69【辰野と一心、そして空気を読む秋】

 最近でこそ、左方の様に実力のあるダンジョンウォーカーも現れ、みんなも積極的について来てくれる様にはなって来た。


 でも、しかし、結局は二人。そう、一心だけは確実にいる。


 自分と一心はいるのだ。


 いつも一心はいてくれるのだ。


 それはそうと、今、真壁秋と打ち合っているというのに全く力が伝わって来ない。


 「どした?」 


 思わず聞いてしまう辰野に、


 「いや、何か辰野さん真剣に悩んでたから」


 と言うか。


 真壁秋とはこういう人間なのだ。


 まるで真剣を持っての戦いを遊ぶ様に挑んで来る。


 剣で戦うこの場合において緊張感も無く、あたかも町の中を歩く程度の意識で、あれだけの凶撃を振るってくるのである。


 いや、この少年にとって日常の中にすでに真剣があるのか、ということにもなる。


 空気を吸う様に戦う少年。


 何より戦う姿が楽しそうだ。


 「私の負けでいいよ、真壁くん」


 と辰野は言った。


 「一心も負けでいいな」


 と尋ねると、「はい」と言って村雨を鞘に収める。


 「いいの?」


 と勝ちを譲ってもらってしまった格好になった真壁秋はちょっと遠慮しながら言った。


 「もとより勝てるとは思っていませんよ、お屋形様、蒼様をよろしくお願いします」


 と一心は言った。そして、


 「私も、自分の本当の気持ちに向き合いたいと思います」


 と言って、


 「辰野さん!」


 と声をかける。


 一呼吸してから、


 「ごめんなさい、私は、私の気持ちとして、辰野さんの気持ちも考えずに、この町に来ていただきました、その目的は、辰野さんを私の婿とするためです」


 と言った。


 胸につかえていたものが一気に抜けた気がする一心だ、でもそれとともに後悔も一緒に流れて行った、恥ずかしくて情けない物が抜けて落ちて、晒された、そんな気がする一心だった。


 辰野に対して深く頭を下げるその姿は詫びている以外の何物でもない。


 そんな一心に辰野は言う、ゆっくりと一心の肩に手を置いて、頭を上げさせる。


 「そうか、私は嬉しいよ一心」


 と辰野はいう。


 「私は、君とずっと一緒にいたいよ一心、お願いだから、頭を上げておくれ、そして、君の気持ちを聞かせてほしい」


 一心の目にはあふれそうになる涙が溜まっている。顔を上げて、それがこぼれ落ちるのも気にもしないで、一心は言う。


 「私も辰野さんと一緒にいたいです」


 「なら、ちゃんとしよう、一心」


 これは事実上のプロポーズとなって、この日のうちに辰野と一心は正式に婚約と言う形になった。


 「いいなあ、浅葱ちゃん、いいなあ」


 と恨みがましい目で見る藍の頭をペンと剣で叩く真壁秋。


 「これで全部だよね?」


 って確認を取ると、浅葱が、「おめでとうございます、お屋形様優勝です」


 と言ってくれた事に、慌てて真壁秋は言い返す。


 「いや、一心さんも、辰野さんも本日はお日柄もよく、おめでとうございます」


 と、どこからとも無くやって来た緊張に、真壁秋は、それなりに幸せを祝福しようと言う態度だけは見て取れた。


 「じゃあ、お屋敷に帰る?」


 と声もかけるも、一心と辰野、紺と水島。それぞれは見つめあっていて動かない。


 こう言う時って、下手に声をかけて邪魔してはいけない事をこの少年は知っていた。


 「確か、人の恋路を邪魔する輩はユニコーンの角でアタックされてびっくり、だったっけ?」


 象すら即死させる攻撃である。


 まあ、ここダンジョンじゃないし、ユニコーンいないしと、そこは安心している真壁秋であった。


 

 

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