第89話【緊急事態からの協力要請(エリートクラスのみ)】
春夏さんが、どうやっても僕らの間に入ろうとしてた。
大丈夫だよ。
興奮はしてないよ、ちょっと鼻息も荒く、ドキドキしてるだけだから。
そんな姿の委員長を目の前に、ただ驚いてるというか感動しているだけだから。
「状況を聞いてないの? 今、ダンジョン入ったらダメだよ」
って言われて、
「うん、そう見たいだね」
って言うと、同時に僕は急に視界を遮られたんだ。
僕の目の前には、春夏さんの背中。
つまり、僕と委員長が向きあるその間に、春夏さんが入って来たんだ。本当、強引に来た。
ってか春夏さん、狭い、春夏さんの背中と言うか首の付け根あたりに顔がぶつかる。
そして委員長は、
「東雲さん、あなたがついているんだから、今日は真壁くんを連れてきてはダメでしょ? 何をしてるのよ!」
って怒ってる。
「あなたもスカウト組なんだから、ギルドからの『召集願い』は届いてるでしょ?」
「私、スカウト組ではないもの、そんなの知らない」
って春夏さんは言うんだ。そうなんだよね、春夏さんて、実力の上ではスカウト組なんだけど、それを断ってるんだから、普通のダンジョンウォーカーなんだよね。エリートなクラスだけどね。
その春夏さん、委員長に対するなんか言い方が冷たい。と言うか春夏さん、こんな冷たい声も出せるんだ、って思ったらちょっと怖いって思った。
そしたらさ、委員長も声色が変わるんだよ、もう、完全な説明口調。
「そう、じゃあ、説明してあげるわ」
って言って、委員長は、クラスの問題質疑でも行うみたいないつらつらと説明するんだ。本当に箇条書き見たいに言った。
そして、その内容は恐るべきものだった。
簡単に僕が委員長に説明された事を並べると、
①中階層でエルダー級モンスターの目撃
②複数のダンジョンウォーカーによるもので時系列も矛盾しない、ギルドもこれを確認
③ギルド人員召集に至るまでのタイムラグを埋めるために深階層の組織(黒き集刃)に調査を依頼
④ギルドが依頼した組織の半壊が報告される。
⑤他の組織や個人からもたらされた情報によるとエルダー級モンスターは地上に向かっているとの情報が入る。
⑥ギルドは一時情報として、北海道庁へ通達、浅階層地下5階を突破された場合に非常事態宣言を発令と返答。
⑦ギルドから、自衛隊北部方面隊へ災害派遣活動への要請(準備・待機願い)
あと、道路の封鎖願いとか、都市部閉鎖とかの可能性とか、細いかものはあるけど、概ねこんな感じ。
で、委員長は言うんだよね、
「でね、私たちみたいなスカウト組って、ギルドの依頼に対しては強制ではないけど、協力って形でお願いが来るの、で、今回もかなりの数のスカウト組の人たちは呼ばれてるって事なのよ」
って言うんだよね。
話はわかった、うん、そう言う事かって思えた。
でも一つ引っかかった。
若干、警戒を緩めた見たいになってる春夏さんの肩と首の間から顔を出して、僕は、
「委員長も危険じゃないの? それって、きっとエルダーとも戦う可能性だってあるよね?」
って聞いたら、今までの憮然とした顔がさ、みるみる明るくなって、
「何? 真壁くん、私を心配してくれるんだ?」
って言い出すんだよね。
いやあ、だって、エルダー級だよ、それがさ、こんな女子一人で、委員長って、見た目に文化系女子だからさ、学校内では巨乳とかなんだって言われてるけど、それはそれで、僕としては心配になる。
「いやあ、だってさ」
って、僕を委員長から隠そうとする春夏さんの動きに合わせて、僕も委員長の顔見て話したいから、変な攻防が生まれる。動き的にチューチュートレインとか歌い出しそうになるのをグッと堪える僕だったよ。