その68【妖刀村雨と魔剣グラム】
あっさりと、真壁秋の刃で撫でられて、負けた水島と、百は、向かい合って何かを話している。割といい雰囲気だな、と、さすがの朴念仁と言われる辰野から見てもそう思えた。
そして、その姿を見ている一心は微笑んでいる。まるで二人を祝福する様に優しい瞳で見つめていた。特に百目の方は同じ秋の木葉で、その出身を同じとすることから、随分と気にかけていた。それが、こうして上手く行って嬉しいのだろう。
思わず、
「よかったな一心」
と声をかけてしまう辰野に、
「はい」
と、しっかりした返事をする一心である。
「すまない、負けちまった、辰野さん」
と水島が声をかけてくる。「いいよ、気にするな」と言うその言葉は本音である。
それに、水島は本当に強くなった。きっと自分がダンジョンから出る時には、彼の世代が中心になっているだろう。
初めてあった時とは別人の様に強くなっている。剣技もさることながら、胆力に度胸もついてきている、将来的にはD &Dに欲しいくらいだ。もちろん、自分の後継者として、組織を守って欲しいと言いかけたことすらある。
しかし、そこはギルドという組織に属している少年である。そこはしっかりと責任を果たしているのが、正直、羨ましいとも思った。
流石、麻生だ、そしてギルド長、工藤真希、しっかりと次の世代を確実に育てている。いずれダンジョンでも名を馳せて行くだろうと、その成長過程を見つめている気分で、辰野は思った。
しかし、しかしである。
今、戦っているのはあの、真壁秋なのだ。
今こうして対峙している真壁秋と言う、ダンジョンにおいても特別な存在。
異質といってもいい。
多分、強さとか言うものの本質が違うのだ。
辰野は思う。
きっと彼は大きな目的があって、この様な力を得ているのだとなんの根拠も無く、彼の今までの戦いを見ていて、そう確信するのだ。
瀑布の斬撃、事実上攻略は不可能と言われていた葉山静流ですら、圧倒的な剣技を前に退けた、あの技術と身体能力は決して努力や鍛錬で身につく様な物ではない。
ただ、あるがまま、そこにある力だ。
例えて言うなら、太陽が太陽である様に、世界は世界としての成り立ちなど求めてはいない。石が石、水が水である様に、真壁秋は真壁秋なのだ。
何より、まるでダンジョンに護られ助力され、支援されている少年だと、辰野は思っていた。概ね彼の思うままにダンジョンの歴史は積み重ねられて行く。そう望む様に、ダンジョンと言う世界は、真壁秋に都合のいい様に改変されて行くのだ。
何もかも運さえも思うがままにする少年を前に、必死に戦ってる自分が妙に可笑しいとも思えた。もちろん、絶対に勝てないだろうとは思う。
しかし、だからと言って挑まない訳にも行くまい。
絶対無敵だと、自分とは違いすぎる強大な敵を前にして、心は不思議に踊る辰野は、一心がいるからなのだと言うことを確信している。
無謀な戦いは常に繰り広げて来た。
もともとD &Dは、このダンジョンに眠る魔剣聖剣等のレアな装備を手に入れるための組織というか、集まりだった。
強い敵に対して、徒党を組んで戦い挑む組織だ。
この魔剣グラムを手に入れる時も、常に一心はいてくれた。
というか、多少、無茶なクエストでも、周りに誰もいなくても、一心だけはついて来てくれた。
今でこそダンジョンではギルドを除くと最古の組織とは言われているが、結局は一人で強大なモンスターを倒せない、そんなダンジョンウォーカーが集まっただけの組織だった。世代は重ねられても結局そんなところからも抜け出せずにいいた。だからD &Wの此花姉妹に見限られても仕方がないとも思っている。
無茶な戦いもした。
皆が危険だからと、結局二人になる。