その62【天真爛漫元気一杯な葉山静流の憂】
ガンガン空から飛んでくる刀が厄介。
以前の、あの時、中階層でのå頂上決戦な捨ててあった壊れた剣と違って、切れ味がすごい。
でもって、葉山の気の乗り方も凄い。
まるで親の仇をとってるみたいな、そんな攻撃。
「楽しいね、楽しいね真壁!」
って、弾けるくらいの満面の笑み。
やってる事と、その表情のギャップって言うか、落差と言うか、以前の葉山の時も思ったけど、かなりイかれた人物だよね、こう言う時の葉山って。
その微笑に対してこっちに来る攻撃は、みんな葉山の一撃だから、必殺の一撃だよ。遠慮なんて微塵も感じないよ。
そんな危険な場所に、未だ惚けるみたいな顔して焔丸くんがいてさ、
「義兄上、これが、北海道ダンジョンウォーカーにおける『スキル』と言う物ですか?」
なんて呑気に聞いて来るから、
「そうだよ、これ多分、葉山の固有スキルだと思うけどね、他の人が使ってるの見た事ないから」
と説明を加えておいた。
あ、茉薙がいるから、正確にはもう一人いたなあ、って思って訂正しようかとも思ったんだけど、未だ、焔丸くんは、舞い飛ぶ刀を感心するみたいに見つめてるから、まあ、後でいいやって思った。
でも、なんだろう? 剣と言うか刀の本数は少ないけど、前よりなんか強くなってない? 一撃一撃が重いんだけど。
「気がついた?」
って葉山が僕からちょっと距離をとってそんな風に言ってきた。・
「何を?」
って、惚けて聞いて見ると、
「完全に健康になった私の技よ」
って言うから、
「ああ……、そっか」
って間抜けに返事しちゃう。
前はもうボロボロって言うか死に体な感じでの、この技だったからね。好き勝手に剣を操って攻撃して来るの。
って、思ってたら、袈裟斬りが来た。がキン!と弾き返す僕の剣に重さが残る。
「どうよ?」
「うん、重いね」
って言ったら、
「もう真壁に勝てるかな?」
って嬉々として聞いて来るから、
「なんだよ、やっぱ負けたことが悔しかったの?」
って聞いたら黙った。
何か考え込んでるみたいだ。ちょっと腕組んで熟考してる。
「だよ、勝ちたいよ、真壁に」
あ、笑ってない。
なんだ、マジかよ。
「今日はいいところまで追い詰めるからね、それで勝つから!」
と、気を取り直して言い出す。切り替え早いなあ、葉山。
そんな僕の後ろにいる焔丸くんが、僕の服の袖引っ張って、
「葉山様は、義兄上の2号さんではないのですか?」
って聞いて来るから、
「一体、誰がそんな事言ってるのさ?」
って聞くと、
「私!」
って葉山が言うんだよ。お前かよ!
「いいじゃん、言うくらいさ、勝手でしょ!」
ってなんで葉山が切れてんだよ。嫌だよ、風評被害とかあるじゃん。それでなくても、ハーレムだの、多重婚だの、一夫多妻だの言われてるんだから、僕の純真なイメージってのもあるから、ここは対立しておくよ。
「葉山静流、お前、2号さんでいいのか?」
って意外な所から反論来た。薫子さんがそんな事言ってる。
そうだよ、薫子さんの言う通りだよ、そんな何人も女子侍らせてる男子なんてろくなもんじゃないよ、そこの2号さんに収まろうなんて、ちょっと常軌を逸してると言わざるを得ない。
って、誰が女子侍られてるんだよ、根も葉もない偽りだよ、事実無根だよ。
「薫子が4号さんなのよ」
とか恐ろしいことを言い出す。
あ、焔丸くんわかりやすく引いてる。違うから、葉山が勝手に言ってるだけだから。
「そんなわけあるか! 私は無関係だ!」
薫子さんも怒鳴ってる。
「だから前も言ったじゃない、今日花さんをお母さんって、呼べるのよ?、いや、この条件を飲むなら、今日から、ううん、今から、今日花さんはあなたのお母さんなんだよ」
すると、薫子さんは、不敵な笑顔を浮かべてこう言った。
「ふふん、もうその手にはノリはしないぞ」
ああ、そうだね、前も一回、こんな事あったね。
そして、薫子さんは言った。
「すでに今日花様から、今日花様の事を『お母さん』と呼ぶ許可は頂いているのだ、もちろん二人っきりの時だけどな、なぜなら私が恥ずかしくて死んでしまうからだ!」
そう叫ぶように言った。本当に母さんって寂しがりやの特に女子に好かれるよなあ、寂しがり屋さんホイホイだよね。で、また甘やかすんだよなあ。特にこう言うことでは。
すると、葉山は『ぐぬぬ』とか言ってた。本当に悔しいとその言葉って自然に出るんだね。
「すでに、真壁抜き、息子無しでそんな確約を交わしていたなんて」
とか驚愕に彩られた顔して言ってる今も、絶え間なく、葉山の操る刀は僕を攻撃して来る。
「真壁はいいの? お母さん取られちゃうよ」
って言われる。僕、3歳児かよ、お母さん返してよ!って言えばいいのかよ。
すでに勝敗はついた感じなんだけど、また葉山の奴、不敵にフッフッフって笑い出した。
「何がおかしい!」
って薫子さん言うんだけど、
「そうですよね、どこもおかしい所なんてありませんよね?」
って焔丸くんも事の成り行きを気にし始めてるみたいなんだけど、気にしなくていいよ、変なお姉さんたちだから。
「じゃあ聞くけど、その、今日花さんをお母さんて呼べるあなたが、どうして私と寝ているのよ」
ああ、部屋割りの事だね、3人寝るには狭いからじゃないかな?
すると、19代目微水さんに造って頂いた白き奇跡の剣をかシャーンって落としたよ、ショック受けてるよ、葉山の戯言を真に受けてるよ。
「ほらみなさいよ、本当の娘だったら、あなたは今日花さんと一緒に寝ていたのよ」
と勝ち誇ったように言った。
いや、違うじゃん。
最初、葉山が、「私が僕と寝るから、今日花さんは薫子と寝てよ」、とか世迷言を言い出して、「バカなことを言うな、お前は私と一緒だ」って薫子さんが言ったんだよ。過去を改ざんされて真に受けてないでよ。ワナワナしながら顔を手で覆わないで。
「ほら、ね、もうここは共闘して真壁を倒すしかないじゃん」
どうしてそうなる?
超論理だよ、焔丸くんが、
「あの、今の話の流れがまったくわからなくて、北海道ダンジョンっていつもこんな感じなんですか?」
って聞かれるけど、こんな事言い出すのなんて葉山くらいだよ。
まあ、まとめてかかって来るならそれもいいけどさ……。
さっきの攻撃で、葉山の弱点見たいのも見えたしさ。
葉山と薫子さん、一人一人相手にするよりは、めんどくさくなくていいか、って思う僕だったよ。