その61【生涯戦う葉山静流の矜持】
ノリノリの葉山だよ。
手を緩める事なく攻撃が雨のように降ってくる。
「楽しいね! 真壁」
そのままバルカを掃射して来る。範囲広いなあ、もうちょっと焔丸くん、遠くに置かないと危ないかなあ、って思ってたら、薫子さんがちゃんと下げててくれてた。助かるなあ……。
刀の本数は、30本、どこから持って来たんだろうか?
そんな素朴な疑問は、
「俺が貸した」
と、ああ、コンビニの店長さんだ。いつの間にか僕らの戦いを見守ってた。
そして、
「やるなあ、君、強いじゃん」
って僕に向かって飛んで来る刀に巻き込まれながら、呑気にそんな事を言って来る。
危ないなあって思うんだけど、でも、何だろう、この人の安定感。
特に速くもなく適当に避けてるけど、まったく当たる気配がない。
「俺たち微水は刀じゃ傷つかねーよ」
って言ってる。
「そうなんですか?」
「ああ、これでも一応は、剣鬼の加護があるんだぜ、どんな料理の上手い奴がいても自分が料理にはならないだろ?」
いや、その例えはどうだろう?
「白護輝鴟梟初ノ太刀の様子も見たっかったしな」
とか言ってる。
すると、薫子さんが、
「あ、店長! お店の方は?」
と尋ねると、
「今日は祭りだから休みだよ」
「そうですか」
「ああ、見ててやるから、頑張るんだよ」
「はい」
なんか、すっかり仲良しさんだね。薫子さんって素直で真面目だから、大人の人には好かれるよね。基本はいい人だしね。僕には厳しいけどね。
でもまあ、これですっかり薫子さんも戦う気になっちゃったよ。もしかしたら、「やめない?」
って言ったら、止めそうな感じだったんだけどなあ。僕を相手にする目的できちゃったよ。
「どこ見てんのよ、真壁!」
ってガンガン来るなあ、葉山、まったく遠慮とかないな、だから、
「薫子さん」
って素直に答える。
「私を見なさいよ!」
ウッキー状態で言われる、突進しながら言って来るから顔近い近い。
刀飛ばして、バルカで逃げ道塞いで、最後は突進かよ。
葉山のマテリアルブレードの4連斬が来た。まあ普通にかわすけどね。ほら、避けた所が空飛ぶ刀の軌道って事だね、ちょっとでも違う動きしようとすると、今度はバルカで形を整えられる。でガンガンガンガーン! って来る。どうして最後伸びるんだろ?
本当に楽しそうな葉山。
「やっぱ、真壁はいいなあ、思いっきりできるもん」
とか言う。
「そうなの?」
「そうだよ、蒼さんもそう思ってるんじゃないかな? きっと」
とか言い出す。
蒼さんと葉山って、かつてはダンジョン最強って言われてたんだっけ?
「自分の技能が、自分の力が、自分の全部を出して受け止めてくれるのって真壁だけだもん」
一撃い入れて離脱する葉山、足、早! 振り向きもせずバルカを連射して来る。
弾いて弾いてるけど、この魔法弾も重いなあ……。
「どうよ、真壁、私強くなったでしょ?」
とか言うからさ、
「うん」
って答えておいた。
そうだね、その健康な体から繰り出される一撃は重くて、幸せに満ち溢れているよ。
その全部が一撃必殺の趣があるね。相手僕にだけど、全部出す前にもうちょっと優しさとか欲しいけど。
「これでもね、以前の方が強かったなんて噂もあるのよ」
「いや、気のせいじゃないかな?」
「本当にそう言われてるんだって」
「そんなの勝手に言わせておけばいいじゃん」
気にする事ないけどなあ、要は本人の問題じゃないかな、
「今もいい感じだよ、前よりもかなり良いのが来てる」
以前と今を知る僕が言うんだから間違いないよ。今の方が強い。攻撃の中の芯がピシッと通ってる感じ。
「だよね、私もそう思うわ、だって、真壁も倒せそうだもん」
いや、それはないけど、こうジリジリと力押して来るところか、撃ち終わっても、押して残り続ける力とか、本当にゴリ押しが凄くなったと思う。
そんな葉山なんだけど、どこか寂しそうに言うんだよ。
「一瞬の閃光みたいな、そう言う迫力がなくなったって言うんだよ」
ああ、そう言うことか。
今もガンガンと、僕を本気で倒すための攻撃は続いているけど、なんか、表情と言葉だけだしおらしいと言うか、儚げだからギャップが困る。
また一撃入れつつ一回離れる。
そして、
「そんな事ないよね?」
若干の不安を、隠そうともしないで僕に見せるんだ。
僕は知ってる。
かつての葉山を、あの時の、明日なんてない葉山を知ってる。
それは全て最後を意識した攻撃で、先の見えない未来を知らない攻撃だった。
正面から来る恐ろしいまでの切れ味に対しての、全体的には見えなくらいの薄さに儚なさ。
あれは強さなんて言うものじゃない。
人がさ、生きてる人間が出して良い力じゃないんだ。
だから、どっちの全力も受け止めてる僕だから思うんだ。かつての葉山のあの陽炎みたいな生き方を、今、忘れてしまっている自分に不安なんだ。
良い事なんだけどな、それ。
粘着質のようにまとわりついて来る力の残置する斬撃に、こんなにイヤラシ攻撃ができるのって、あの頃の葉山からは想像もできないよ。
だから、なんて言って良いかわからないけど、その逞しくなった葉山に、
「これなら一生、お婆ちゃんになってもガッツリ戦えるよ」
と言ったら、
「何よそれ」
って笑ってた。
「じゃあ一生真壁と戦い続けるから付き合ってよ」
って言い出すから、「うん、まあ」って納得する僕だよ。
確かにね、いいね、それは、そう言うのって僕達らしいね。
多紫町の広い空を翔る葉山。
さっきより元気がマシマシの葉山だよ。