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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その59【義兄想い? 焔丸直走る】

 焔丸はひた走っていた。


 彼は、特に、義兄様の投入は無謀だと考えていたのだ。


 確かに初代微水様は、あのような物言いをしたのではあるが、やはり、あの義兄様が強いとはとても考えられなかった。


 幾ら何でも無防備すぎる、まして剣気など放つこともない。常にのんびりした態度。


 人として、また、義理の兄としての人格なら申し分ない。


 楽しいし、何より気の抜けてる感じが、こちらもリラックスを誘ってくれる。


 年上だとか、そう言うところもまるでないし、またどんな相手にも同じように接する態度も好感が持てた。


 きっと、北海道のような広い土地で育つとあんな人物になるのだろうと、そんな風に考える焔丸であった。


 が、軽快に走るその脚が止まる。


 「なんだ? この空気?」


 ともかく、姉の想い人を守りたい一心な焔丸は、ここで、今までかつてほどの殺気を、いや、気とは人が放つものであるから、これは、人かどうか……、未だ出会ったことのない、敵意や害意を持つ、人外の放つ圧殺する空気に戦慄した。


 今、焔丸の目の前に十字路。


 そこに出る人影に、思わず、飛び下がる焔丸である。


 「な、なんだ?」


 まさかの、この多紫町祭にバケモノでも迷い込んでいるのだろうか? 


 蘇った、と言うか起きた初代微水という名の鬼にすらこれほどの恐怖は抱かなかった。


 かつてないほどの緊張に襲われる焔丸、逃げ出しそうになる気持ちは好奇心が塞いでしまう。


 そして、その角から、その禍々しいとも思える気を垂れ流しにする人物が出てくる。


 「なんだ、焔丸君じゃない」


 葉山静流であった。


 意外な人物であると同時に、その空気は葉山静流がまとっていた。今も流されるその圧力に、もう腰が抜けそうになる。


 「足音軽いから、真壁だと思ったよ、歩幅も同じだね」


 と相変わらずの毒のように周りに作用する気を吐きながら、焔丸の知っている笑顔で葉山静流は言う。


 そして、気がつくのであるが、自分を真壁と間違えたと言った。


 「守る為に探しておられるのではないのですか?」


 と驚愕といった顔の焔丸、あの気迫というか迫力はまさに相手を萎縮させる、いや、気持ちだけでも相手を殺せる気配だと思った。そしてその効果の通り、焔丸自身、この葉山静流と対峙している現在、ここで戦おうなど夢にも思っていない。無理だ、この人には絶対に太刀打ちできない、そう思わせるだけの滅殺の気配があった。


 すると、そんな焔丸に対して、葉山静流は、


 「なんで? 私が真壁を助けるわけないでしょ?」


 と言った。


 てっきり、内縁の妻として、義兄を探し、共闘して戦うのだとばかり思っていた焔丸にとって衝撃の事実だった。


 「では、何の為に?」


 もちろんわかっている、でも、この小学生三年生にしては大人びた少年は葉山静流の口から聞きたかったのである。


 そして、少年の期待通りの言葉が葉山静流の口から溢れた。


 「戦う為よ、いいのよね? そう言うお祭りなんでしょ?」


 と当たり前の様に言った。


 「静流様は、義兄様の奥様ではないのですか?」


 と焔丸は尋ねる。確か、奥さんの一人と聞いている。


 「え? そうなの? そんな認識なんだ」


 ってびっくりする静流ではあるが、


 「まだプロポーズもされてないわよ、私は好きだけどね、真壁、本当に愛してる」


 と恥ずかしげも無くいう。


 「では、何も戦わなくても」


 「それは嫌、私は真壁と戦いたいの、最近、どうもナアナアになってる感じなのよね、一緒にいるから遠慮してる感じ? だから私は、今の私は真壁にどこまで肉薄できるか、それを見せたいのよ」


 とか言ってる、いや、あなたが出している殺気はそんな生易しいものじゃないでしょ? と突っ込みたくなる焔丸ではあるが、やはりあの時の初代微水様の言葉が蘇ってきた。


 だから思うのだ、本当は義兄上は強いのではないかと、あの出で立ち、力の抜け切った感じ、全ては演技で、本当に強いのではないかと思い始める。


 そんな焔丸に静流は、


 「あ、そうか、出会ったから戦う?」


 って普通に聞いてくるからびっくりする。


 同時に、それもそうだと思う物の、いや、無理でしょ、とも思う。


 そんな時だった。静流は急に、後ろを振り向き、


 「あ、薫子だ、おーい!」


 と呼び止める。


 プレートメイルに身を包んだ薫子までもここにやって来る。


 葉山静流がいつもと違うように、喜耒薫子もまた違っていた。


 静流の溢れるような混沌な気配と違って、まるで周りの空気すら律しているような、そのような、まるで支配者の姿を見ているようであった。家にいる時とはまるで違う、高貴で近寄りがたく、その白い大剣も相まって、神々しさすら感じてしまう。まるで絶対不可侵な存在。


 ともかく静流も薫子も二人とも、今日の朝まだ自分の母親と一緒にお皿を洗っていた人物と同一とは思えない、ほぼ別人と言ってもいいと断言してしまええる焔丸だった。


 「なあ、葉山静流、真壁秋を見てないか?」


 と尋ねる。


 「私も探しているところなのよ、今、焔丸君にも聞いたけど見てないって」


 「そうか、ではもう少し探してみよう」


 と言って離れて行くのであるが、その様子を見て焔丸は、


 「あなたも、義兄上と戦いを希望するんですか?」


 と質問してしまう。


 「ああ、今の私でどこまで通用するか知りたくてな、私も意地があるのでな」


 と白い大剣を軽く振ってそんな風に言った。


 葉山静流とはまるで違う雰囲気、そして、その落ち着き方が、悠然として強者を感じさせた。


 そんな薫子は、


 「葉山静流、そのダダ漏れさせてる殺気はどうにかならないか? 怖がって誰も寄ってこない、見ろ、多月蒼の弟も怖がってるぞ」


 と葉山静流に注意をしていた。


 「ああ、ごめん、真壁と戦えるって思ったら、つい抑えられなくて」


 そう薫子に言ってから、


 「ごめんね焔丸君、怖かった?」


 と聞いて来るから、強がりもせず、見栄も張らずにともかく頷いた。


 「さっき紺が、この町を流れる川の下流の方へ行っていたから、そこあたりにいるんじゃないかと辺りはつけているが、あいつの事だからな、どこをどう歩いて来るか、見当もつかない」


 「まあ、一箇所にとどまってるわけもないか」


 と静流も言った。


 そして、


 「じゃあ、二人で探す?」


 と薫子の方に聞いている。


 「まあ、不本意だが仕方ないな、目的は一緒だ」


 と言って歩き出す静流と薫子である。


 その後ろを、なんと無くついて行く焔丸であった。


 こうなったら、義兄上の強さと言う物を自分自身の目で確かめようと、そう思ったのである。


 しかし、実際、この町最弱と言われていた真壁秋の姿を思い出すと、どうも納得もいかない焔丸でもあった。


 とは言うものの、ここいる二人、つまりは静流と薫子、いつもの雰囲気とはまるで違っているのだ。いつもは間と義兄上がいて、どこか和やかな、リラックスしていた、そんな気配は微塵もなく、焔丸も彼女達生み出す緊張感に飲み込まれてしまったような形になる。


 彼はこの時、初めて、本気で索敵するダンジョンウォーカーという物を見ていたのだ。


 しかも、その中でもかなりの上位の者、取るに足らないモンスターなど遭遇もせず逃げ出してしまう程のダンジョンウォーカーを目の当たりにして、焔丸は、この町の人間とは全く異なるその異様な気配に、ただ当てれていた。


 そして、正直に怖いと思いながらも、その存在に深い興味を抱かずにはいられなかった。 

 


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