その57【大会前夜】
夕食も終わって、微水様も惜しみつつも帰って行って、多月のお屋敷では連日会議みたいな集まりが開かれてた。
それでもゆっくりお風呂に入ってると、その会議も終わった様なので、菖蒲さんがが、大広間で寛ぐ僕らのところにきていた。
一応さ、ほら、そろそろ帰りの話とかもしなきゃだよ。
概ね僕らはこの町での目的を終了して、青鬼である微水様の件も片付いたし、「顔貸せ」ってヤツ。蒼さんの剣は完成譲渡されたし、途中、余計な物もあたけど、概ね順調に目的は果たしわ訳だ。
ほんと、一体何日学校休んでるんだろ? それに僕、一体何日春夏さんの『秋くん大丈夫』を聞いてなんだろ? そっか、なんか今一、ソワソワするなあって思ったら、春夏さんのあのなんでも許してくれる笑顔を見てない所為もあるんだな、なんか今すぐ帰りたくなってきたよ。
と言う訳で、帰りの算段を相談していると、菖蒲さんから明日の事を相談された。
急な話だけど、明日から開催される、この町のお祭りへの誘い、そのメインは蒼さんの剣、つまり秋鴉、なんかこの呼び名くすぐったいな、で、その秋鴉の完成お披露目会兼、初代微水様御前試合、つまり奉納試合って言って、この町の神さまに捧げる試合を行うそうなんだ。そして、その日の朝から開始される町の希望者で行われる3年に1度の町の武闘大会への参加へのお誘いだった。
このお祭りについては、葉山と、コンビニバイトの薫子さんは知っていたらしい。母さんも、知らなかったの僕だけかあ。
「これはぜひ参加だね、真壁」
ここ最近誰にも勝てない葉山の鼻息は荒い。
「私は出場しないぞ」
と、葉山のはやる気持ちを察して、一言蒼さんは言う。ちょっと以外だったので、僕も、
「そうなの?」
ってききなおしてしまう。
「はい、私はこの『秋鴉』奉納試合のために今回は出ません」
「え?じゃあリベンジできないじゃん」
とあからさまに不満げな顔する葉山だ。リベンジする気だったのかよ葉山。結構しつこいな。
「でもね、最後まで残って優勝すれば、蒼とは初代微水様の御前試合で戦えるわよ」
そう菖蒲さんは言った。
すると、葉山は僕の方をみて、
「これって、全員参加なんですか?」
「ええ、町の人間なら、合図と同時にみんな参加よ、一回負けたらそこで終わり、わかりやすいでしょ?」
「今回は、みなさんダンジョンウォーカーの方達も参加してれるから、きっと盛り上がるわ」
みんなは参加するのかなあ、って、ほら水島くんとか辰野さんとかもいるからさ、その辺はどうなってるのかな?
ちょっときになる僕だったんだけど、同時に、 そっか、じゃあ僕も?って顔してたら、それが迷っている様に見えたんだろうね。
「参加することに意義があるから、あなたも頑張りなさいな、お母さんばかりに活躍褪せてないで、蒼にも良いとことみせたいでしょ?」
って背中を叩かれ言われる。
ん? まあ、かあさんとも当たるかもって、ことかな? 意味がちょっとわからないけど、僕も参加ってことだね。いいよわかった。
「じゃあ、ここにいる皆さんはみんな参戦ね、良いわね、楽しみだわ」
って、本当に嬉しそうに菖蒲さんが言う。
「今年はね、一心の娘さんも帰ってるから、二肩の奥様も久しぶりに本人が参戦するって言ってたし、残念だけど蒼は、奉納試合のためにでないど、きっと良い戦いができると思うのよ、皆さんいるから新鮮ですしね」
「まあ、そうだな、こいつと当たるまでは、なんとか勝ち続けたいな」
と薫子さんが僕の顔見て言ってる。そして、
「あ、そうだ、今日花様はどうするのですか?」
と尋ねると、ここには母さんいないけど、代わりに菖蒲さんが答える。
「特別審査員というか、見守り役で、この屋敷が本部になりますので、私と一緒にいてもらいます、実行委員会側ですよ」
と答えてくれた。もちろん母さんは快諾しているらしい。
「あと、回復手の方も本部の実行委員会に入りますから、四胴と五頭の両家は参加しません」
なるほどね、怪我のケアとかも考えてるなら、結構本格的な戦闘になるなあ、って思ったよ。北海道ダンジョンほどではないにしても、それなりの回復手段や、大怪我しても良い様な仕様になっているんだな、って感心した。・
そんな感心するばかりの僕の肩をチョンチョンと叩いて、
「出るよね?」
「良いの?」
「まあ、いいよ、もう、菖蒲さんもああ言ってるし」
となんか納得いかない顔して葉山が言うんだよね。なんだろう、出ちゃうダメみたいな良い方だよ。その葉山は真剣な顔して、
「私、本気出していい?」
って言うから、
「良いんじゃない?」
ってなんとなく僕と葉山がコソコソ言合ったらさ、菖蒲さんが、
「なになに、相談かしら? 良いのよ共闘も認められてるわ、ガンガン行って良いのよ、遠慮しないでね」
って嬉々として言って来る。
そして、
「だいたいいつも夕刻まで、神社に出店が立ち並ぶ、時間までには終わるんだけど、たまにね、数十人で拮抗する時があるの、その時は、神社の裏にある武闘場で、トーナメントね、すごい盛り上がるわ」
そんな菖蒲さんの顔と、その話を聞いている僕の顔を見て、葉山の奴、すっごい深い溜息を吐いて、
「そうなればいいですね」
と最後の方は僕をみながら言うんだよ。なんだよ、なにが言いたいのさ?
あ、そうだ、僕も聞いておこう、
「あの、つまりは町を上げての総当たり戦ですよね? バトルロワイヤル的な?」
「ええそうよ、でもね、体力と、相手の相性とか、色々と駆け引きが必要なのよ、みんながいつもどんなふうに戦ってるかわからないけど、実践経験はあるみたいだから、特にあなたは、家族に守ってもらうのも良いけど、きっと狙われるから、変なところで怪我とかしない様ね」
って心配してもらえた。そうか、僕狙われてるのか……。ちょっとそれ、めんどくさくなくていいかもって思っちゃった。
一応さ、最後に尋ねたんだよね。
「じゃあ、みんな倒してしまったら、優勝ってことですね?」
すると、菖蒲さんは、もう大爆笑。
笑いに声を切れ切れにされながら、
「あのね、この町でも強い人って結構拮抗してるのよ、そんなに簡単に決着ついた事なんて、この町が始まってから一度もないわよ」
って言って笑ってた。その横の葉山も薫子さんも笑ってないんだよね。とってもいたたまれないって顔してるんだけど、
「じゃあ、御前試合はお屋形様ですね」
と目を輝かせている蒼さんだった。
うん、まあ、頑張るよ。