表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
916/1335

その55【だから! 剣ばかりじゃ無いんだって!!】

 朝起きうると、そこにニコニコした薫子さんがいた。


 と言うか、起こされた。


 いや、さっき母さんに、微水様のところ行ってくるって起こされたけど、見事に2度寝を邪魔される。


 もう朝だからいいけど、バンって戸が開いて、


 「聞いてくれ! 真壁秋!」


 と言う具合だ。


 ここまでテンションが高い薫子さんというのも珍しい。そして、その薫子さんの後ろの方では、


 「違うよ! それは薫子の勘違いだから、もう、違うんだって!」


 葉山がそんな取り繕う様に言う。


 「いや、あれは、間違いなく事実だ、なあ、多月蒼、見てたよな」


 と言うと蒼さんも、彼女達の後ろにいて、頷いてる。


 そして、


 「どうして菖蒲さんが今日花さんの布団で寝ているのかしら?」


 と葉山がやけに冷静に尋ねてくるけど、そんなの僕、知らないし。


 その言葉に、ちょっと恥ずかしそうに、そそくさと完全に熟睡している自分の母をゆり起こす蒼さんだよ。「起きでください、皆、集まって見られています」って声に、「は!」っと言って飛び起きる菖蒲さんだ。やっぱり本家だから育ちが良いのか、


 「みなさん、おはようございます、今、朝食の準備をいたしますね」


 と慌てて起きるけど、


 「私と、薫子と、蒼ちゃんで簡単な朝食作ったわ、まだ寝ててもいいですよ」


 と葉山が言った。


 「え? 蒼が?」


 と驚きと言うか動揺を隠せない菖蒲さんだ。と言うかこの反応を見ると実家ではお手伝い(調理の方)とかはしていなかったんだな、蒼さん。


 「はい、卵を焼きました」


 「た、卵を?!」


 誇らし気な娘と、そんな娘を前に今にも感動のあまり崩れ堕ちそうになる菖蒲さんだけど、まあ、こっちの親子はいいや。


 「で、葉山はどうしたの?」


 「聞いてくれ、真壁秋!」


 やたらとテンションが高い薫子さんが喋り出す。


 そして、


 「葉山から一本取ったぞ」


 と言った。


 え? マジ??


 「違うの、油断したの、うっかりだったの、わざと負けたの、本当だから」


 と、この子も勝敗に意地汚い所あるんだなよあ。いいじゃんどっちでも。


 と思うけど、なんか、薫子さんの、なんていうから、そのドヤ顔っての? ちょっと微笑ましい、慌てる葉山も面白いけどさ。


 でもまあ、よかったじゃん、って思うよ、本当に底抜けに嬉しそうだしね。


 葉山に勝つなんてすごいじゃん、って思う。


 葉山は強いからね。


 本当に、強いよ。それは、めったに褒めない母さんが言ってたくらい。うちの母さんって、当時の春夏姉も褒めたりしなかったからね。


 特に誰に教えてもらったわけもなくて、完全にオリジナルな言うなれば、特に実戦の部分は一から北海道ダンジョンで磨いた、葉山だけの技術なんだ。


 だから、形もなくて、パターンとかなくて、変幻自在にくるから、普通に勝てないよ。完全に目て見てから動かないとならないからね。予想して、なんて言ってると、葉山の思う壺なんだ。だから冗談でも葉山に勝つってのはすごいと思う。


 ほら、薫子さんの剣ってよくも悪くも真っ直ぐだから、それはそれでやりにくい場合もあるけど、葉山と薫子さんが対峙したら、その性格を知り尽くされた薫子さんには勝つ術がない。


 大体は、葉山の仕掛ける罠にも近い技能に全部絡め取られて終わる。


 「素直な薫子さんが、性格の悪い捻くれた剣筋の葉山に勝つなんて凄いよ」


 って言ったら、


 「今、なんて?」


 なんで葉山が怒ってるのさ? 


 「いや、褒めてるけど」


 「どこかよ! 何よ悪辣で捻じ曲がり切った性格って!」


 いや、そこまで言ってない。って言うかそうも言えるってのは自覚はあるんだなあ、って感心はした。


 だから、


 「だって、葉山の剣筋って、いつも最悪な所に来るじゃん、よくもまあって、ここまで人の弱いところを攻められるなあ、って、本当に尊敬するよ、僕できないもん、あ、これはできるけどやらないって意味ね、あの一斬は人としてどうなの?って一撃は光るものがあるよ」


 って言ったら思いっきり頭を叩かれた。


 「覚えてなさいよ!」


 って言ってプンスカして出て行ってしまう。なんだよ、褒めてるのになあって、思って、今度は薫子さんを見ると、


 「な、なんだよ、私は別にお前に何もしてないからな、前みたいな事は言われる覚えはないからな、普通に、本当に勝ったんだからな」


 なんか凄い警戒されてる。


 本当に、一体僕が何したっていうのさ、って思って、


 「凄いね、薫子さん」


 って言った。だって本当のことなんでしょ、あの葉山の悔しがりっぷり、たいしたものだよ、って思った。


 「葉山に勝つなんて、本当にすごい剣をもらったんだね」


 って、素直に言った。


 「いや、真壁秋、確かに剣をもらっているが、それだけではなくてな、気持ちの変化と言うか……」


 「だから、すごい剣をもらって勝てたんでしょ?」


 「いや、だからな、決して剣のおかげだけっていう訳ではないのだ、よく聞いてくれ真壁秋、私の心情と今までの思いととな……」


 なんかごちゃごちゃ言うなあ、いいじゃん、その剣のおかげで勝ったらで、って思ったからさ、


 「だって、その剣があったから勝てたのは事実でしょ? ほら剣のおかげじゃない」


 なんか薫子さん顔が赤いなあ。どうしたんだろ?


 もしかして褒めたりないのかな?


 だから僕は言ったよ、こう言う時はちゃんと褒めないと、こんな些細なことから人と人の関係は生まれて行くものなんだ、そうだよ、誰か言ってた。


 「本当にすごい剣だね、薫子さん、よかったね、そんなすごい剣をもらって」


 そんな言葉を繰り返し繰り返し言い続けたら、


 「剣、剣、剣って! 剣だけじゃない!」


 って凄い怒って、薫子さん泣きながら葉山を追いかけるように出て行ってしまったよ。


 あれ? なんで? ここは素直に喜ぶところじゃん。


 凄い剣でよかったじゃん。


 ねえ、って言いかけて、蒼さんを見ると、


 「お屋形様、無双でござる」


 って言われた。


 いや、僕、今、剣とか持ってないから何も切ったりできないよ。


 そして、菖蒲さんまで、


 「最近の男女ってこんな感じなのね、勉強になります」


 って言われるけど、多分違うから、絶対に違うから。


 何はともあれお腹すいた。

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ