その53【真白き純雪の大剣】
今日も無事に店員の仕事が終わる。なんとか無事勤めをはたせた安心感あら、ほっとしつつそこに店長がやってきた。つまり19代微水様だ。
「今日までご苦労だったね、おかげで、集中する事が出来たよ、ありがとう薫子ちゃん」
と店長に言われて、一振りの剣を差し出して来た。
綺麗な刀袋に包まれた大剣。カシナートよりも幅がある。
慣れた手つきで19代微水が、包む袋から抜くとそこに輝く大剣が現れる。
一瞬にして薫子はその剣に、真白き大剣に目を奪われてしまう。
なんて美しい剣なのだろう?
まるで、ダンジョンのある、北海道に舞う白き純白な雪の様な輝き。
美しくもありながら、何物も逃れる事を許す事なく何もかもを圧倒的に埋め尽くす雪、全ての景色を白く染め上げるその理不尽な『白』。
ただただ圧倒された。
だからなのだろうか? そして、こうも思った。
欲しい。
この剣が欲しい。
どうしようもないほどの欲望が薫子を駆り立てて来る。
今まで、そんな風に思ったことなど一度も無い。元から武器への執着など、かけらもなかった薫子であるが、そのまま微水から白い大剣を取る。そっと優しく、そしてその間も片時もその刀身から目が離せないでいる。
いや、でも、こんなのもらってしまって本当にいいのだろうか?
買えと言うならお金は払いたい、でも、この剣、誰がどう見てもその辺にある様な剣でもなく、まして国宝級だと言われれば納得の姿だ。
薫子にしては珍しく心が別れた。
天使と悪魔が葛藤してる。
「いいさ、もらってしまおう」
と言う悪魔と、
「いや、こんな高価なものは遠慮すべきです」
が激しく、薫子の心の領地そ奪いあう。
「ああ! もう!」
と叫んでしまう薫子でもあった。
すると、19代微水は、
「いいんだ、もらってくれ」
と行ってから、いつの間に持って来たいたのか、缶ビールを開けて飲み出す。
「この剣は世界に一つだけ、君の為に作られた剣だ」
と言った。
「君はさ、一緒に来た連中みたいにガンガン行く様なタイプじゃ無いだろ?」
と言われて、確かにとは思う。しかし、葉山静流や多月蒼、ました真壁秋などとは比べられても困る。どちらかと言うと、あいつらがどこかおかしいんだ、と言う思いはある。言わないけど。
「君はさ、退がる人なんだよ」
いや、これについては言いたい、いつだって前に出ている。だから言い返そうとした時に、
「それは、出来る事とやれる事を未だ履き違えてるな、君の師匠はとっくにそれを知って、君をそう言う風に育ててるぜ」
いきなり今日花の話を出されて驚く薫子である。
そして、
「いいじゃん、戦うのが苦手な剣士がいても、OKだよ! 薫子ちゃん、そのまま行こうぜ」
ってゲラゲラ笑いながら、薫子の肩をバンバン叩く。
「ほんと、いい仕事させてもらったよ、俺にこの着想はなかった、君のおかげだよ」
と微水は深々と頭を下げて薫子にお礼を言う。
少しばかり酒に酔っているのか? とは思うのであるが、そこはハッキリと言ってるから、そんなものなのかな? と思う薫子である。
「しかし、私にはもったいなくありませんか? 幾ら何でも、私には過ぎた代物だと思います」
そう言いながら、その真白い刀身から目が離せないのも事実であった。
「まあ、使ってごらん」
と微水はそういって笑う。
「これは君に必要なものだよ、絶対だよ、俺が言うんだから間違いないよ」
自信満々に言われてしまう。
「これから、もっと大変な事になるよ、君はその時にみんなと一緒に頑張る子だから、これを持ってお行き、お代はいらないよ」
どうしても聞きたい事があった。
どうしても納得が行かない事がある。
「どうして、私に剣を?」
すると微水は2本目の缶ビール、今度は500mmを開けながら、
「ここはさ、戦闘集落なんだ、でさ、武器は人を倒すものだろ?」
それは当たり前だと薫子は思う、もっとも北海道ダンジョンの場合は魔物やモンスターが相手だが、と言いかけて、いや人と、他人と争ってる時の方が多いな、とも思う。
「君のところも、結構ヤバイ奴だよね、特に本家にいる奴ら、もう本当にレベルが違うってか、俺、多月の蒼様と同じくらいの資質持ってる女の子なんて初めて見たよ、世の中は広いね」
多分、葉山静流の事を言っているのだろう。しかし、確か多月蒼は、一心にも、二肩とか言うこの町の出身者にも負けていると聞く。しかし、微水の言い方は蒼を最上と言わんばかりで、だからつい、
「多月蒼はそんなに強いんですか?」
と聞いてしまうと、微水は、一口、ビールを飲み込むと、
「ああ、あの子はおそらく、この町が出来てから最強だろうね」
「では一心さんもですか?」
「ああ、強い、でも普通だよ、普通に強いんだ」
何を言っているのだろう?
力関係で言うなら、蒼に勝っている一心や二肩の方が強いことになるのでは、と単純に考えてしまう薫子である。
そして微水は言う。
「でも、安心したよ」
そう言って、薫子に向かって、
「あの子、君と一緒に来た子、強いねえ、化け物だよね」
ああ、誰の事を言っているのかわかる。
「ああ言うのは反則だなあ、持ってる剣も、初代様に教えてもらってたど、あの少年にあの剣ってのは、本当に神様ってのは時にすごい奇跡を起こすもんだ」
シミジミと言う、その口にはいつの間にか裂きイカが喰われれている。きっと店のも物を勝手に飲み食いしている様だ、ビールの方は一応レジを通したけど、つまみの方は何を食べたか後で聞いてレジで買ったとにしないと、商品に不足が出てしまうと、そこまで思って、すっかりコンビンの店員に染まっている自分に驚く薫子である。
「だからさ、今度は蒼様も思い切りやれるんだよ、そりゃあ凄い事だよ、だから蒼様も喜んでるなって、本気の蒼様も見れるな、って思ってさ」
本当に嬉しそうに話す微水である。
「だから薫子ちゃんも、今度の祭りに参加するといい、その剣を試してみてよ」
と言って床に座り込んでしまう。
「あと、もう明日からいいよ、お店の番、どうもありがとう」
と言われてしまう。
薫子にしてみれば、お役に立てたかどうか、しかもその見返りがこの剣だなんて、かなり恐縮してしまう。
そんな微水は真剣な顔して、薫子を見つめる。
「最後に、これだけは聞かせてくれ」
その表情に前に思わず緊張してしまう薫子である、答えられる事なら良いのだが、と思う。なるべく期待に応えたいと思う薫子だ。
19代目の微水は言った。
「君たちの地元、北海道が誇るセイコーマートの『ホットシェフ』のシステムを知りたいんだ」
その顔は刀匠ではなく、一コンビニ店長となっていた。
「お店の中に、調理場があってですね……」
真面目な薫子は、説明を開始、微水はメモを取って聞き込んでいた。
数日のコンビニバイトとセイコーマートの情報。
やっぱり、代償として割りに合ってない気がして、リターンが大き過ぎて、恐縮してしまう薫子だった。
正式名称 19代目微水作【|白護輝鴟梟初ノ太刀《シロ二 シュゴスル マブシキ フクロウ ハツ ノタチ》】
俗(愛)称【白雪姫】
北海道ダンジョンでも最強剣の一角を担うこととなる。
19代目微水曰く、「いやいや、薫子ちゃんの嫁入り道具にしてよ」
だ、そうである。