その45【コンビニと薫子と迷惑な客】
どう言うわけか、さっきそこで母さん達と合流して、僕らはこの町にある唯一のコンビニにいた。
長蛇の列を引き連れて、さっきまで一緒だった微水様となぜか母さんの横で、やや緊張気味の蒼さんのお母さんもいる。
何かあったか察して有り余る状況に当の母さんはニコニコしてる。
きっと普段通りの母さんだったんだろうなあって思うよ。
だからこその状況なんだろうなとも思う。
まあ、いいや、今はともかくコンビニの方ね。
僕らは、母さんと長蛇の列を置き去りにして、店内に入る。
なんか、母さんはともかく、蒼さんのお母さんは、その長蛇の列をどうにか解散させてる。それに母さんが付き合ってる感じ。
赤くて『D』のイカした看板だ。
北海道でも見るなあ……、パン祭りとかやってるところだよね。
僕らが店内に入ると、ちょうどお客さんが一人来ていて、コンビニレジの上には、一本の缶コーヒーが置かれていた。
そして、当たり前の様に店員である薫子さんはそれを取って、バーコードリーダーで商品を読み込んで。
「108円です」
と言ってから、
「袋いらないんで、テープでいいです」
とその客の葉山は言った。
凄い楽しそうな顔。もう、喜びで顔が歪むのを必死で抑えてるのがわかる。
だから、肩を震わせていた。
店員は短めに切ったテープを貼って渡し、お金を受け取ると、
「ありがとうございました」
と言って一礼する。
そして、その缶コーヒーを受け取る、その場で一気飲みすると、店内に設置してある空き缶用のゴミ箱に投棄、再び、店内に戻り、今度はスナック菓子を物色しだした。
そして、そんな様子に店員は叫ぶ、
「いい加減にしろ! 葉山静流! 買うなら全部一度に持ってきてくれ!」
すると、言われた葉山の方は、
「いやよ! 私はもっと、薫子に『ありがとうございました』をしてもらうんだから」
と、何を馬鹿な的な逆ギレな様子だ。
葉山にしてみれば、真壁家でも、言われてようやく動くような。決して怠け者ではないものの、そんな気のきかない系女子で、常に仏頂面な薫子が、よりにもよって、コンビニで店員をしていること自体が奇跡であり、また、薫子自身が、この様な客商売には向いていない事を誰よりも知っているために、どんな状況でもこの様なコラボは起こりえない。だから正に葉山にとっては奇跡の瞬間なのだろう。
一体誰に見せるつもりなのか、スマホで写真を撮りまくっている。
撮られる薫子さんも、写真に写ることで命が取られるんじゃないかくらいに必死に抵抗している。
そして八つ当たり。
「おのれ、真壁秋め、あれほど言うなと言ったのに」
と、今にもぐぬぬっと声を出しそうになる薫子さん。
いや、だって、剣をもらうって話は黙っておいたじゃん。
そして、次の瞬間、店の自動ドアが開いた。
もう、すでに条件反射のように、
「いらっしゃいませ」
と声を出してしまう薫子であった。もちろんその姿は葉山のスマホに収められる。
思わず舌打ちしそうになる薫子せあるが、ここは客商売である、もちろん、そんな感情を出すわけにも行かず、にこやかに対応するのではあるが、その入って来た人物を見て、
「し、師匠!」
と驚きを隠せないでいる。
「薫子、頑張っているのね」
と終始にこやかに、そしてその後ろから、自動ドアを狭そうに潜りぬけて来る巨大な鬼を見て驚くものの、こう見えてもダンジョンウォーカーな薫子であり、この町の変な所はすでに受け入れているし、更にここには師匠がいるのだから、何が起こっても驚くこともないし、たとえ何が起こっても対応できると、そう考えていた。そしてその後ろには菖蒲さん、だから、
「いらっしゃいませ」
と普通に言えた。