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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆閑話休題章 青鬼見聞録 [隠匿された里の物語]◆
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その44【鬼、母に出会う】

 今日花に挑みかかて来る人間はいつの間にかいなくなっいて、気が付いた時には、後ろに長蛇の列が出来ていた。


 長いとは言え、大槻の屋敷からこのコンビニまでなので、100m行かないくらいの距離に、綺麗に2列縦隊で、先頭の今日花と菖蒲か微妙な距離を取って付いてくる。


 今日花に挑戦して行くものを見ていたもの、そして破れたものが、今こうして歩いている菖蒲と今日花の二人の後ろに微妙な距離を保って付いてきていた。


 元はといえば、この真壁母である今日花を呼んだのは、今後の話を固める為、つまり娘の蒼との婚礼の話をすんなり進めるために他ならなかったのだが、今、まさに、この町を取り込んで、大きく態は変わろうとしている。


 一応、自分の母である褐からは話は聞いていたのでああるが、息子の方を見たときには、正直、自分の母の老いを感じてしまい、それなりの衝撃というか、ショックを受けた。


 この町一の剣士にして、長く最強に君臨していた母が褒める、剣聖とまでも讃える中学生の少年にはちょっとは期待していた。


 しかし実際にあってみるも、気迫、殺気、剣士としての凄みも無く、まして、ちょっと抵抗もあるが、この町の最弱な男である自分の夫に負けるなんて、とは思っていたのだ。


 それでも娘が選んだのだから、それもアリではないかな、きっと清十郎を連れて来た時に、自分も母に今のような感情を抱かせたのだと、そんなかつての自分を知ってしまう。


 しかし、しかしだ。ここに来て、この娘婿候補の母親のデタラメな強さを目の当たりにして、少し見誤っていたのでは、とも思うように至ってる。


 この母にも、あの蒼の慕う少年の様に、殺気だとか、気迫だとか、まして剣気だとかもない。


 敵となる相手に対峙しておいても尚、全く普通なのだ。


 こちらを攻撃しようとする意識も、戦いに対する気概のようなものすらなく、まるで、机の上から落としてしまった消しゴムでも拾うように、当たり前の日常の中に動いて来る。


 菖蒲は知ってる。


 戦闘にかかるプッレッシャーを、そのストレスを。


 しかし、そこにいる夫人は、娘の婿候補の母親は、微塵もそんな気配を感じさせない。


 その驚愕する、今日花に向けた意識の中で、菖蒲は一つの例を思い出す。


 そうか、きっと初めて私たちの先祖が初代微水様に出会った時はこんな感じだったのかもしれない。そう思った。


 でも、それじゃ、人外になってしまうから、そここで矛盾を感じてしまうのであるが、この後ろに続いてしる長蛇の列を見ると、きっとそうなのだと決心にも近い決めつけを行おうとする。


 多分、この人は武神様なのだと、だから戦うとかが当たり前すぎるのだと、これなら大丈夫。


 でないと、今までの価値が、自分を支えていた常識が瓦解した上に霧散してしまいそうで、この今日花を自分の知る常識の範疇に収めておくのは危険だと判断する。


 だから、きっと娘の婿の候補である、この方の息子もきっとそうに違いない。だから寛容でいられるのだ。像が蟻に足を踏まれたとして怒るだろうか? きっと何も感じてはいない。なるほどそういうことか、そう考えていると、酷くきつく縛られていた気持ちにも余裕が生まれる。


 自分の常識をより大きく拡大することで、ようやく心の安定が図れた菖蒲であるものの、


 「おい!」


 と急に声をかけられて、


 「きゃあ!」


 と、少女の様な悲鳴をあげてしまうところを見ると未だ心は不安定の様だった。


 菖蒲は聞き慣れた声、そして自分の頭の上からかかる声にホッとして、


 「急にびっくりするじゃありませんか、初代様」


 と顔を上げると、そこに、肩の上に自分の娘を乗せた初代微水様そのものが立っている。


 急に現れたと思ったのは、初代微水様が、飛んで、というか、跳ねて来たからである。


 社のある神社からなら、彼女の足なら4歩程度で届く。


 微水は、そっと蒼を今日花と菖蒲の前に下ろして、


 「俺の刃を授けたぞ」


 と言った。


 その言葉に、蒼は両手に抱えた包みをそのまま菖蒲に見せる。


 「ありがとうございます、初代様」


 「良いって、面白いもん見せてもらった、納得も行った、俺は満足だよ、この件に関しては」


 その言葉に菖蒲は深々と頭を下げた。


 すると微水は、


 「なんだ、あいつの母ちゃんか?」


 と今日花の方を見て言う。


 すると今日花はそのまま微水に近づいて、今は高いところ、立っているので届かない微水の顔に向かって手を伸ばした。


 微水は、そのまま、自然と腰をかがめて、その手に自分の顔を近づける。


 大きな顔を、小さな手が愛おしそうに撫ぜる。


 一瞬、目を閉じ、そしてハッと何かに気がついた様に微水は言う。


 「なんだ、そう言うことか」


 今日花に触れられて思うその発想は、幼稚なほど当たり前の事で、何もかもを包み込んでいた。


 「一人じゃ寂しいでしょ?」


 思いがけない今日花の言葉に、初代微水、青い鬼は、大きな目を開いて一瞬、その心を撃ち抜かれたような、そんな表情をする。


 でも、強がる様にこうもいった。


 「俺を舐めんなよ」


 と悪態を付くも、微水は今日花に思うがままその顔を触れさせて続ける。


 「あの坊主を使って、全部終わらせつつもりなのか?」


 と微水は今日花に尋ねる。


 「さあ、どうでしょうね? それはあの子が決めることだから」


 と言う。


 その間スリスリと微水の顔を撫ぜ続ける今日花を、撫で続けれれる初代微水様を見て、唖然とするしかない菖蒲を含む町の女達だった。


 今までは、この町の歴史であり、まさに守り神でもある初代微水様を、このように扱う人間などいなかった。尊く思う心はある、何より大切な青い鬼様を、まるで娘の様に扱うなどできるはずもなかった。


 蒼としては驚きもしなかった、なぜなら今日花がどう言う人間か良く知っているから、この母の前ではなんでもありなのだと言うことを知っているのだ。


 誰もが皆、そんな風景を見ていた。


 そして、微水は、ジッと今日花を見つめて、


 「俺に母ちゃんがいたら、こんな感じか?」


 と言うと、今日花は笑って、


 「あはは、おっきい娘ねえ」


 と言った。


 「どっか行くのか?」


 と微水に聞かれて、


 「娘がコンビニで働いているのよ、様子を見に行くの」


 「そっか、じゃあ俺も付き合うよ」


 と二人で歩き出す。


 そしてその後ろを、いつの間にか長蛇の列の一部になって追いかける菖蒲であった。

 

 

 

 

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